技術解説

次世代の標準ディスク・インターフェイス「シリアルATA」のすべて
 
2.大きく変更されるコネクタとケーブル

澤谷琢磨
2001/01/27

コンパクトに生まれ変わるコネクタ

 シリアルATA対応デバイスとパラレルATA対応デバイスは、コネクタとケーブルが大きく異なるため、一目で見分けられるだ ろう。パラレルATA対応デバイスが、40ピンの信号線用コネクタと4ピンの電源コネクタ(5V/12Vを供給)を備えるのに対し 、シリアルATAでは以下の図のように、信号用と電源用のコネクタがともにまったく新しくなる。

シリアルATAのコネクタ/ケーブル
信号コネクタと電源コネクタの横幅は、2.5インチ・ドライブと共用可能なサイズに設定されている。ホスト側のコネクタ数は規定されていないが、ハードディスクとCD-ROMドライブのために、少なくとも2つ以上は実装されることになるだろう。なお、図のドライブ側のコネクタは説明のために上下を反転して描いている(本来は接点が下側になる)。
 

 信号コネクタは、信号線が大幅に減ったこともあり非常に小型になる。接点数は7個で、2接点はホストからの送信用、2接点が受信用、残り3接点がグラウンドとなる。また、電源コネクタは15接点となり、新たに3.3Vの電源が供給されるようにな っている。3.3V電源は、ハードディスク上のコントローラなど、半導体回路の電源供給に使われるものと思われる。

 パラレルATAでは、信号用コネクタが逆差しできてしまったり、ピンが曲がってしまったりする問題があったが、シリアル ATAではこれらの点が改善されている。マザーボード側の信号用コネクタには大きな突起部があり、逆差しは不可能になって いる。また、接点部分はピンから基板(カードエッジ)に変更され、ピンが曲がるなどの問題が起きないようになっている。 ディスク側の信号用コネクタと電源コネクタにも同様の仕様が採用されている。なお、コネクタ・サイズは小型になり、信号用、電源用コネクタともに、2.5インチ・サイズのハードディスクに取り付けられるようになっている。

シリアルATAのインターフェイス・カード
IDF 2000 Fall Japanで公開されたサンプルのシリアルATAインターフェイス・カード。写真を見ても分かるようにケーブルは 細く、コネクタも小さいものとなっている。そのため、ケーブルの自由度は非常に高い。
シリアルATA対応にしたサンプルのハードディスク
IDF 2000 Fall Japanで公開されたサンプルのシリアルATA対応ハードディスク。インターフェイス・カードを変更し、無理やりシリアルATA対応としたものであるため、電源コネクタは変更されていない。

 

細いケーブルを採用するシリアルATA

 パラレルATAは、40芯のフラット・ケーブルを採用しているが、これはもともと高周波の伝送に適さない被覆素材を採用しているため、その長さは約45.7cmに制限せざるを得なかった。Ultra DMA/66(最大データ転送速度は66Mbytes/s)の導入に伴い、新たに40本のグラウンド線を加えた80芯フラット・ケーブルが導入されたが、芯数が増えたことで、ケーブルの取り扱いが難しくなってしまった。またフラット・ケーブルは、PCケース内で冷却ファンからの風を遮ってしまい、PCケース内のエア・フローを乱す一因ともなっている。プロセッサの高速化に伴い、発熱が問題になることが多い最新のPCでは、エア・フローの悪化は無視できない問題になっている。

 一方シリアルATAでは、幅が1cmに満たない細いケーブルを採用する。最大ケーブル長も1mと、パラレルATAのほぼ2倍の長さになる。さらにシリアルATAは、1本のケーブルに接続できるデバイスは1台だけのPoint-to-Point接続になっており、パラレルATAのようにケーブルの両端のほか、真ん中あたりにもデバイスを接続しなければならない状況はなくなった。こうした仕様変更によりシリアルATAでは、パラレルATAとは比較にならないほど、ケーブルの取り回しの自由度が高くなっている。

 なお、ホスト側にケーブルを介さない直接接続用コネクタも規定されている。ノートPCや組み込み機器では、こちらの方が使われることになるだろう。直接接続の場合は、ホットプラグも可能とされているが、これはコネクタ・レベルでの対応にすぎない。実際にはソフトウェア側での対応が必須だが、シリアルATAの規格には規定されていない。例えATAコマンド・レベルで規定されても、BIOSやOS側での対応には時間がかかるため、実現するのは当分先の話になるだろう。ただ、ホットプラグが実現すれば、故障時にシステムの電源を落とすことなくハードディスクを交換するのが容易になるので、サーバでもIDEディスクがもっと使われるようになるのは間違いない。

3.5インチ/2.5インチ・ドライブのコネクタ配置案
シリアルATAのドラフトで、最も代表的な例として挙げられているコネクタ配置案を示している。3.5インチ・ドライブについ ては、おおよそ考えつくすべての組み合わせが付録として併記されている。パラレルATAからシリアルATAへの移行期間には、 さまざまなコネクタ構成の3.5インチ・ドライブが市場に登場することになるだろう。

 2.5インチ・サイズのシリアルATA対応デバイスのコネクタ配置が1種類に固定されているのに対し、3.5インチ・サイズについては、複数の配置が提案されている。これは、3.5インチ・ドライブは、PCを購入後に拡張が行われる可能性が高く、既存のPCとのある程度の互換性を維持する必要があるためだ。特に電源コネクタについては、現在のコネクタと新コネクタの両方が装備されることになるだろう。

137Gbytesの壁には未対応

 最初に述べたとおり、シリアルATAは、データ伝送速度の高速化をターゲットとした技術であり、もう1つの問題であるハードディスクの大容量化への対応は、ソフトウェア・インターフェイスの変更を必要とするために含まれていない。現在のATAインターフェイスは、LBA方式でディスクのセクタ(ブロック)を指定しているが、ブロックを管理するATAレジスタは28bitsのため、137Gbytes以上の容量のハードディスクを扱うことができない。すでにATA対応ハードディスクの容量は80Gbytesに達しており、そう遠くない将来に137Gbytesの壁に突き当たることになる。

 この問題に対応するため、ブロックの表記を48bitsに拡張した48bit LBAの導入が検討されている。48bit LBA方式では、最大144P(ペタ:10の15乗 )bytesの容量が扱えるため、大容量化に伴う問題はほぼ完全に解消される。48bit LBAを実現するためには、レジスタ、コマンド・セットともに拡張を必要とするが、これらは現在策定中のATA/ATAPI-6規格に組み込まれる予定だ。シリアルATAのソフトウェア・インターフェイスは、ATAインターフェイス規格に準拠するとされているため、48bit LBAが正式に規格に盛り込まれれば、シリアルATAにも取り込まれることになるだろう。

シリアルATAでPCはどう変わるのか

 シリアルATAは、どのようにPCに組み込まれることになるのだろうか。まず、シリアルATA対応のPCIバス向けホスト・コントローラが開発され、PCIカードとして市販されたり、マザーボード上にコントローラを搭載した製品が出荷されたりするだろう。しかし、シリアルATAではデータ転送速度が高速化されることから、PCI接続では性能が十分に発揮できないのは明らかだし、コスト的にも新たな追加となるため、こうしたアドオン・タイプのシリアルATAというのは短命に終わるだろう。その後、チップセットに標準で組み込まれるようになり、急速に普及することが予想される。これは、ちょうどUSBが普及した過程と同じだ。

 その時期だが、前述のロードマップでも示されているように、本格的に普及するのは2002年後半になってからだろう。実際、ハードディスクのデータ転送速度は、指数関数的に高速化しているが、それでもUltra DMA/100の最大データ転送速度である100Mbytes/sに達するには、まだ約1〜2年の余裕がある。つまり、エンド・ユーザーが早急にシリアルATAに移行する必然性は今のところない。

 シリアルATA対応ディスク・コントローラは2001年末〜2002年、対応ハードディスクは2001年後半〜2002年前半に登場するものと思われるが、これはもっと遅れる可能性もある。いずれにしてもシリアルATAへの本格的な移行は、Intelが提供するチップセットでシリアルATAがサポートされてからとなるだろう。なお、IntelのシリアルATA対応チップセットの登場は早くても2002年になると予想されている。記事の終わり

  更新履歴
【2001/01/30】図「3.5インチ/2.5インチ・ドライブのコネクタ配置案」で「STA電源」、「STA信号線」とありましたのは、「シリアルATA電源」、「シリアルATA信号線」の誤りでした。お詫びして訂正させていただきます。
 

 
 
 INDEX
  [技術解説]次世代の標準ディスク・インターフェイス「シリアルATA」のすべて
    1.パラレルからシリアルへ
  2.大きく変更されるコネクタとケーブル
 
「PC Insiderの技術解説」


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