元麻布春男の視点
「Sound Blaster Audigy」に見るサウンド・カードの未来


元麻布春男
2001/10/12

 前回の「元麻布春男の視点:逆風に立ち向かうサウンド・カードに明日はあるのか?」で触れたように、現在PCのサウンド機能の主流は、拡張カードからオンボード(マザーボード上)へと移りつつある。この流れを後押ししているのが、PCの低価格化と小型化であることは間違いない。しかも、オンボード・サウンドは、AC'97やCNRといった技術をベースに、単に音が出ればいいというレベルから、マルチチャンネルやS/PDIFによるデジタル入出力をサポートしたメインストリームのサウンド機能までをカバーしようとしている。こうした逆風の中で、サウンド・カードはいかにして差別化と生き残りを図るのか。ここでは最近発売されたクリエイティブメディアの最新サウンド・カード「Sound Blaster Audigy」を例に、考えてみることにしたい(クリエイティブメディアの「Sound Blaster Audigyの製品紹介ページ」)。

ハイエンド指向のサウンド・カード「Sound Blaster Audigy」

 Sound Blaster Audigyは、Audigyプロセッサとも呼ばれるE-Mu10K2サウンド・コントローラ/プロセッサ・チップを用いたサウンド・カードに用いられる総称である。E-Mu10K2は、旧製品のSound Blaster Live!に用いられていたE-Mu10K1の2倍の処理能力を持ち、エフェクト類のアルゴリズムの最適化と合わせ、約4倍のトータル性能を実現したとしている。

Sound Blaster Live!とSound Blaster Audigy
旧製品のSound Blaster Live!(左)と新製品のSound Blaster Audigy(右)。両者を比べると、Sound Blaster Audigyはカードそのもののサイズが大型化していることが分かる。

 現在、日本国内で販売されているSound Blaster Audigyシリーズに属するサウンド・カードは、上位から「Audigy Platinum eX」「Audigy Platinum」「Audigy Digital Audio」の3製品。上位モデルであるPlatinum eXとPlatinumには、それぞれ各種オーディオ機器や楽器類との接続を容易にする入出力モジュールが添付(Platinum eXは外付け、Platinumは5インチ・ベイ内蔵型)されるほか、DTM(Desktop Music)ソフトウェアの「Cubasis VST」のOEM版ならびに対応するドライバであるASIOドライバが付属するなど、クリエイター指向(ミュージシャン指向)が強くなっている。

 ここで取り上げる最下位モデルのAudigy Digital Audioは、OEM版のCubasis VSTが添付されないほか、デジタル入出力がブラケット・アダプタと、光および同軸のS/PDIFをサポートするアダプタに簡素化されている。「簡素化」されているといっても、最下位モデルながら実売価格で1万5000円前後もする高価なカードであり、一般的なPC用途には十分な機能を持っている。ちなみに、米国で販売される最下位モデルであるAudigy Player/X-Gamerには、デジタル入出力モジュールが付属しないため、単純に価格を比較することはできない。このような構成の違いは、日本でMDプレイヤーなどS/PDIFを利用するオーディオ機器が普及していることに配慮したものだろう。

 下の写真は、Audigy Digital Audioのパッケージに含まれている主要なハードウェアの一覧である(ほかにMIDIケーブルやマイクロフォンが付属する)。写真右上がS/PDIFをサポートしたデジタル入出力アダプタ、その下がデジタル入出力用のブラケット・アダプタだ。Audigyシリーズのサウンド・カードは、IEEE 1394互換のポート(SB1394)を備えており、ゲーム/MIDIポートが別ブラケット(写真右下)に追い出されてしまった。

Sound Blaster Audigy Digital Audio
Sound Blaster Audigy Digital Audioの主要なハードウェアを並べてみた。左側がサウンド・カード本体、右上がS/PDIFをサポートしたデジタル入出力アダプタ、右中央がデジタル入出力用のブラケット・アダプタ、右下がゲーム/MIDIポートになる。

 つまり、本体(Audigyカード)と合わせ、すべてのオプションをインストールすると、拡張スロットが3つ消費されることになる。Low Profile(高さが低い拡張カード仕様)対応でないことと合わせ、省スペース・デスクトップPCに実装するのは難しいかもしれない。実際にはデジタル入出力用のブラケット・アダプタにもMIDI入出力ポートが用意されており、ジョイスティック/ゲームパッドのUSBへの移行が進んでいることを考えれば、ゲーム/MIDIポート用のブラケットは省略でき、2スロットで済むと思うが、やはり省スペース・デスクトップPCでの実装は無理だろう。

 こうした豊富な入出力をサポートすることは、マザーボードのバックパネルの制約から多数のコネクタを配置しにくいオンボード・サウンドとの差別化のポイントの1つだと思う(オンボード・サウンドでも、CNRやブラケット・アダプタを併用することで回避可能だが)。しかし、確実にコストを上昇させる要因となる。あまりに価格が高くなると、一般向けの製品ではなくニッチ製品になってしまう可能性が出てくる。本製品の1万5000円という価格は、PCが低価格化した現在、一般向けとしては微妙な、おそらくはほぼ上限一杯の価格ではないかと思う。もちろん、歴史的にみれば1万5000円のサウンド・カードというのは、決して高価というわけではないのだが、Pentium 4搭載の最新PCが10万円そこそこで購入できることを考えると、相対的には高価なカードといえる。

Audigyの高品位オーディオは有効なのか?

 さて、Audigy Digital Audioの最大の特徴は、Audigyプロセッサを用いた各種のエフェクト処理、特にEAX Advanced HDと呼ばれるアドバンスド・オーディオ/3Dオーディオ処理と、24bit/96kHz DACの採用を含むHi Definition(高品位)オーディオということになる。まずEAX Advanced HDだが、サラウンド機能を持ったAVアンプ相当の機能に、ゲームで用いる3Dオーディオ機能を組み合わせたものだ。サラウンド・プロセッサとしてのEAX Advanced HDがサポートするのは、オーディオ信号に信号処理を加えて、仮想的にコンサート・ホールや教会といった音響空間を再現すること、ドルビー・デジタル信号のデコードといったところ。もちろん、それぞれ2スピーカ、4スピーカ、6スピーカ、ヘッドフォンと、使用する再生環境に応じた最適化をサポートする。仮想音響空間の再現に関しては、それなりに効果は高いし、自由度も高い。

 ドルビー・デジタルのデコードも可能だが、この場合クリエイティブメディア製のデジタル接続をサポートしたスピーカを使わないと、PCでアナログ処理を行うことになるのが難点かもしれない(逆に、24bit/96kHz DACの威力を発揮させるには、PCでアナログ処理を行わなければならないし、デジタル・スピーカを使うと24bit/96kHz DACは使われない、というジレンマに陥る)。その一方で、AudigyはいまのところDTS(Digital Theater System)に対応していないようだ。EAX Advanced HDによるDTSのデコードがサポートされていないだけでなく、付属のデジタル入出力アダプタからのパス・スルー(デコードしないDTSのストリームをそのままS/PDIFから出力すること。外部デコーダが必要)にも対応していない。Audigy Digital Audioのドライバは、WDMをベースにしていながら、Windows 2000(要Service Pack 2)環境でのドルビー・デジタルのパス・スルーをサポートしている貴重な存在なのだが、DTSのサポートはまだのようだ。回避方法としては、DTSのソフトウェア・デコードをサポートしたソフトウェアDVDプレイヤーを用い、アナログの2チャンネル、4チャンネル、6チャンネルのいずれかで出力すればよいのだが、この場合やはりAudigyプロセッサは利用されないことになる。Windows 9x環境であれば2000円〜3000円程度のサウンド・カードでもドルビー・デジタルとDTSのパス・スルーが可能なだけに、サポートを期待したいところだ。

 ゲームでのEAX Advanced HDでは、最大4つのサラウンド環境の再現が可能だ。例えば、プレイヤーが広いホールにいるとしよう。そのホールで鐘がなれば、当然、鐘の音にはホールの残響が加わる。また、ホールにつながる廊下(明らかにホールより狭い)で時計が鳴れば、ホールとは違った残響を伴った音がするハズだ。EAX Advanced HDでは、こうした異なった音場を4つ同時に再現できるほか、廊下からホールに音源が移動する、といったトランジションの音場再現もできる(問題は、この環境をサポートしたゲーム・タイトルが現時点で存在せず、付属のデモ・ソフトウェアでしか体験できないことだ)。

 一方のHi Definitionオーディオの特徴だが、

  • アナログ入力を24bit/48kHzのサンプリング・レートでデジタル変換可能
  • デジタル信号を24bit/96kHzでアナログ変換可能(24bit/96kHz DAC)
  • 最大24bit/96kHzのデジタル信号を入力可能
  • 44.1kHz、48kHz、96kHzのいずれかのサンプリング・レートでサウンドのデジタル出力可能

といったところだ。だが、残念ながら筆者の手元には24bit/96kHzのデジタル信号を出力可能なオーディオ機器がないため、これらの機能を全部確認することはできなかった。唯一、本カードが96kHzでデジタル出力可能なことは確認したが、目隠し状態で48kHzと聞き分けられるか、と言われるとあまり自信がない。

 音楽CDのフォーマットが16bit/44.1kHzであることからも分かるとおり、これを超えたフォーマットはあまり普及していない。音楽CD以上のクオリティのフォーマットをサポートしたオーディオ機器としては、スーパーオーディオCDDVDオーディオがあるが、普及しているとは言い難い状況にある。現在は、こうしたハイ・クオリティのフォーマットよりも、むしろMP3やWMA(Windows Media Audio)などに代表されるように、音楽CD相当の16bit/44.1kHzと同等の品質ながら、よりデータ・サイズがコンパクトになるフォーマットの方が普及している。そのことを考えると、24bit/96kHzのサポートが有効なのかどうか難しいところだ。

差が見えないサウンド機能で何を差別化するのか

 また、PCプラットフォームでのサポートという点でも、音楽CDクオリティ以上のフォーマットは普及していない。すでにWaveフォーマットそのものは、マルチチャンネルや24bitあるいは32bitオーディオといった高度なフォーマットに対応可能なように拡張されているが、実際のOSでは必ずしも利用可能ではない。Windows 2000を含めたWindows Me以前のOSでは、基本的にWaveOutデバイスの出力はカーネル・ミキサを通ることになっており、カーネル・ミキサが扱えるフォーマットに制約があるからだ(WDMの場合。上述したドルビー・デジタルやDTSのパス・スルーというのは、この制約を回避するため、カーネル・ミキサを通さずドルビー・デジタルやDTSのストリームをS/PDIFポートに導くことをいう)。現時点で、Audigy Digital Audioは24bit/96kHzのサウンドを記録できない(ファイルとして保存できない)が、こうしたOSのサポートを考えれば、やむを得ない面がある。こうした部分は、Windows XP以降のOSに期待、というところだが、その場合も、そこまでして古いOSでは再生できないWaveファイルを作る意味があるのか、という疑問に対する答えを探さなければならないだろう。

 このようにAudigy Digital Audioがサポートする上記の特徴は、AC'97では規格上対応できないものも多く、AC'97と差別化されていることは間違いない。6チャンネルのアナログ・オーディオ、96kHzのサンプリング・レート、24bit解像度のオーディオといった機能は、2000年9月にリリースされたAC'97 Revision 2.2においても、サポートしていないものだ(一部、技術的な理由からではなく、推奨されていないものも含む)。だが、こうしたハイエンドのスペックは、OSサポートが未成熟であったり、必ずしもユーザーが強く望んでいなかったりするものも含まれる。例えば、リア・スピーカも含めた4チャンネル、あるいは6チャンネルのサラウンドだが、実際にリア・スピーカを用意しているユーザー(それもPCに)となると、かなり限られるハズだ。そもそも集合住宅が多い日本では、大音量のオーディオも難しい。このところゲーム市場も停滞しており、ゲームに3Dオーディオあるいはサラウンドの牽引役を期待するのも荷が重い。AC'97やCNRといった低価格なオーディオが前門の虎だとすれば、高度なオーディオ機能を牽引するアプリケーションや環境の欠如が後門の狼と言えるかもしれない。

 もう1つ、サウンド・カードが辛いのは、明らかな差が目に見えないことだ。「音」である以上目に見えないのは当然、ということは別にして、もしサウンド・カードの性能や機能を数値化して示す、多くのユーザーが納得するベンチマーク・プログラムのようなものがあれば、もっとサウンド・ハードウェアに注目が集まるハズだ。現在のハイエンド・グラフィックス・カードがサポートする高度な3Dグラフィックス機能を必要とするアプリケーションが決して多くないにもかかわらず、グラフィックス・カードがオンボード・グラフィックス(チップセット統合型グラフィックス)の脅威をそれほど深刻に感じないで済むのは、性能差が数字としてハッキリと示せるからではないだろうか。いずれにしても、メインストリーム向けのサウンド・ハードウェアが拡張カードとして生き残れるかどうか、この1〜2年が勝負だと思うが、あまり見通しは明るくない、というのが現時点での筆者の率直な意見だ。記事の終わり

  関連記事
逆風に立ち向かうサウンド・カードに明日はあるのか?

  関連リンク 
Sound Blaster Audigyの製品紹介ページ
 
「元麻布春男の視点」


System Insider フォーラム 新着記事
  • Intelと互換プロセッサとの戦いの歴史を振り返る (2017/6/28)
     Intelのx86が誕生して約40年たつという。x86プロセッサは、互換プロセッサとの戦いでもあった。その歴史を簡単に振り返ってみよう
  • 第204回 人工知能がFPGAに恋する理由 (2017/5/25)
     最近、人工知能(AI)のアクセラレータとしてFPGAを活用する動きがある。なぜCPUやGPUに加えて、FPGAが人工知能に活用されるのだろうか。その理由は?
  • IoT実用化への号砲は鳴った (2017/4/27)
     スタートの号砲が鳴ったようだ。多くのベンダーからIoTを使った実証実験の発表が相次いでいる。あと半年もすれば、実用化へのゴールも見えてくるのだろうか?
  • スパコンの新しい潮流は人工知能にあり? (2017/3/29)
     スパコン関連の発表が続いている。多くが「人工知能」をターゲットにしているようだ。人工知能向けのスパコンとはどのようなものなのか、最近の発表から見ていこう
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)

注目のテーマ

System Insider 記事ランキング

本日 月間