元麻布春男の視点ブランド力の有無がPCの売り上げを決める?元麻布春男 2002/02/01 |
ガートナー ジャパンのデータクエスト部門は2002年1月18日、2001年のパソコン出荷台数(速報ベース)を発表した(ガートナー ジャパンの「世界・米国パソコン市場2001年出荷台数速報」)。それによると、2001年の全世界のパソコン出荷台数は前年比4.6%減の1億2806万台、米国の出荷台数も前年比で11.1%減の4389万台になったという。世界市場と米国市場の両方で、パソコンの出荷台数がマイナスになったのは、1985年以来、2度目だとされている(1985年の米国は不況のどん底にあった)。
2001年世界市場 | |||||
ベンダ名 | 2001年出荷台数 | 2001年シェア | 2000年出荷台数 | 2000年シェア | 2001年成長率 |
Dell Computer |
1699万6000台
|
13.3%
|
1436万5000台
|
10.7%
|
18.3%
|
Compaq Computer |
1425万3000台
|
11.1%
|
1720万9000台
|
12.8%
|
-17.2%
|
Hewlett-Packard |
918万4000台
|
7.2%
|
1024万1000台
|
7.6%
|
-10.3%
|
IBM |
825万4000台
|
6.4%
|
931万2000台
|
6.9%
|
-11.4%
|
日本電気 |
492万台
|
3.8%
|
581万7000台
|
4.3%
|
-15.4%
|
そのほか |
7445万2000台
|
58.1%
|
7733万5000台
|
57.6%
|
-3.7%
|
世界市場全体 |
1億2806万台
|
100.0%
|
1億3427万9000台
|
100.0%
|
-4.6%
|
2001年米国市場 | |||||
ベンダ名 | 2001年出荷台数 | 2001年シェア | 2000年出荷台数 | 2000年シェア | 2001年成長率 |
Dell Computer |
1075万台
|
24.5%
|
943万3000台
|
19.1%
|
14.0%
|
Compaq Computer |
547万2000台
|
12.5%
|
759万9000台
|
15.4%
|
-28.0%
|
Hewlett-Packard |
437万5000台
|
10.0%
|
564万2000台
|
11.4%
|
-22.5%
|
Gateway |
323万5000台
|
7.4%
|
427万1000台
|
8.7%
|
-24.3%
|
IBM |
249万6000台
|
5.7%
|
267万7000台
|
5.4%
|
-6.8%
|
そのほか |
1756万台
|
40.0%
|
1972万3000台
|
40.0%
|
-11.0%
|
米国市場全体 |
4388万9000台
|
100.0%
|
4934万4000台
|
100.0%
|
-11.1%
|
世界・米国パソコン市場2001年出荷台数(速報値) | |||||
出典:ガートナー データクエスト(2002年1月) | |||||
注:デスクベースPC、モバイルPC、PCサーバ出荷を含む |
こんな状況の中、唯一、出荷台数、市場シェアともに伸ばしているのがDell Computerだ。世界市場では出荷台数を18.3%伸ばし、その結果、市場シェアを2000年の10.7%から2001年には13.3%へと伸ばした。米国市場でも出荷台数を14.0%伸ばし、市場シェアを19.1%から24.5%へ拡大している。他社が軒並み出荷台数を減らしている(同調査のベンダ上位5社のうちDell Computer以外に出荷台数を増やしているものはない)のと、鮮明なコントラストを描いている。
また、2002年1月30日にマルチメディア総合研究所が発表した2001年通年でのパソコン出荷概要によると、前年比7.1%ダウンの国内市場で「コンシューマ向けで一人勝ちしたソニーが、年間通じて初の3位に、ビジネス・ユースで健闘した日立製作所とデルコンピュータがそれぞれ6位と7位に躍進」したとのことである(マルチメディア総合研究所の「2001年国内パソコン出荷概要」)。個人消費が低迷し、店頭販売されるコンシューマ向けPCの出荷台数が落ち込む中、その市場で強いソニーが全体シェアを押し上げているということは、いかに店頭市場でソニーが強さを発揮したか、分かろうというものだ。
2001年国内パソコン出荷台数 |
出典:マルチメディア総合研究所 |
強いのはDellとソニーだけ?
この傾向はおそらく日本だけに限らない。時折、米国取材に出かけた際、筆者はCompUSAやBest Buy、あるいはFry'sといった米国PC量販店を訪れることが少なくないが、このところ特に目立つのが「ソニー」の浸透だ。一時期、eMachines(低価格PCを武器に登場したPCベンダ)が店頭を席巻したときもあったが、最近量販店の店頭で展示されているPCの数が多く、目立つのは、CompaqとHewlett-Packard(HP)のPCに加え、ソニーのVAIOなのである。まだ各種の統計には登場していないが、店頭市場だけを見た場合、米国市場においてもソニーのシェアは高まっているのではないかと想像する。蛇足になるが、CompaqとHPが合併してしまうと、展示面積に占める割合という点で、両社を合わせたものとならず、結果としてソニーが突出し、塩を送る結果になってしまうのではないか、という気もする。
ブランドという付加価値の重要性
Dell Computerとソニーには、前者が直販、後者が間接販売を主力にするという違いだけでなく、Dell Computerが主にビジネス向け、ソニーがコンシューマ向けという大きな違いがある。Dell Computerは、ノートPCやデスクトップPCだけでなく、サーバやストレージといった業務向けの製品を持っているのに対し、ソニーに業務用のPCは存在しない。両社の間で、市場での競合はそれほど多くないものと思われる。
このように対照的な両社だが、こぞってシェアを上げている理由は共通している気がする。それは、「ブランド」という付加価値である。Dell Computerの場合は、「安心感」あるいは「高コスト・パフォーマンス」というイメージ、ソニーの場合は「デザインがいい」というブランド・イメージがある。加えて、米国ではソニーというブランドに対して「高品質」というブランド・イメージもあるように思う。
こうした「ブランド力」は、商品そのもので差別化を図ることが困難になったPCという製品において、非常に強力な付加価値になり得る。日本でも「ソニー」というブランドは決して弱くないが、北米では日本以上に「ソニー」ブランドは強力で、電池だろうとカセット・テープだろうと、ソニー製品は高価だ。これは、ソニーの電池やカセット・テープが実際に優秀であるかどうかより、「ソニーの電池やカセット・テープなら優秀に違いない」というブランド力のおかげだと考えられる。コモデティ(日常品)化し、差別化の難しくなったPCにも同じことが当てはまるようになったのだろう。
だが、追いかける側にとって、先発企業のブランドに対抗するのは容易ではない。先発企業は、ブランドを確立するために、それこそ多大な労力と年月をかけている。例えば、ソニーのテレビ・コマーシャルには一貫性があるし、米国のPC雑誌などに掲載されるDell Computerの広告スタイルは、筆者が米国のPC雑誌を読むようになった1980年代半ばあたりから、ほとんど変わっていない。こうした長年の努力に、一朝一夕の方策で対抗することは困難だ。PCの市場が未成熟な時代、言い換えれば急成長が期待できた時代なら、比較的短い時間でブランドを構築することが可能だが、現在の国内市場や北米市場では、もはやそれは期待できそうにない。地道な努力を積み重ねながら、苦しい戦いを、あきらめずにやっていくしかないだろう。
では巻き返すチャンスがないのかというと、決してそうではないハズだ。国内市場や北米市場が成熟するのとは逆に、中国、東南アジア、南米といった地域では、これから急成長が期待される。潜在的には国内市場や北米市場を上回る可能性を持つこうした市場で、どういうプレゼンスを示し、ブランドを築くのか。この問いに対する答えをはっきりとつかんでいれば、PCベンダとして生き残ることは十分可能だ。逆に、こうした新しい市場での戦略を持たない企業は、どんなにリストラを行っても先行きの見通しは暗い。
関連リンク | |
世界・米国パソコン市場2001年出荷台数速報 | |
2001年国内パソコン出荷概要 |
「元麻布春男の視点」 |
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