元麻布春男の視点
ブレード・サーバに見る信頼性と冗長性の関係

元麻布春男
2002/03/01

 最近、流行しているものの1つに「ブレード・サーバ」と呼ばれる極めて薄型のサーバがある。ブレードというのは「Blade」、すなわち刀身という意味だ。現実のブレード・サーバは、「刀身」と呼べるほど細長くはないが、それでも一般的なサーバのマザーボードに比べれば、はるかに細長い1枚の基板に、サーバとして必要な機能要素がほぼ収められており、1台のPCサーバとして機能する。つまり、サーバの厚みは、基板1枚の厚みプラス各種パーツの厚み(数cm程度)と薄く、これが「刀身」と呼ばれる1つの理由となっている。

 実際にブレード・サーバを利用する際には、ブレード・サーバの基板を保持すると同時に、電源や冷却ファン機能を提供するエンクロージャ(Enclosure)と呼ばれるケースや、ネットワーク・ポートを提供するパッチ・パネル(端子盤)を組み合わせる必要があり、「刀身」のまま使えるというわけではない。エンクロージャは、だいたい3Uサイズが主流のようで、ここに数枚から、多いものになると20枚以上のブレードを収容することができる。要するに3Uサイズのケースが、20台のサーバに匹敵することになるわけで、省スペース性、省電力性に優れ、管理もしやすい、というわけだ。

ブレード・サーバがはやる理由

 当初、ブレード・サーバが話題になったのは、RLX TechnologiesがTransmetaのCrusoeプロセッサを採用したことだったり、それがカリフォルニアの電力危機と話題的にリンクしたり、といったことだったように思う。だが、このところ発表されるのは、主にIntelのPentium IIIを使ったものが目立つ。RLX TechnologiesもIntel製プロセッサを採用した製品をラインナップしている。ブレード・サーバをラインナップするベンダも増えつつあり、2002年に入ってからは日本電気やコンパックなどからも製品が発表されている。


RLX Technologies
Compaq Computerからスピンアウトした人々が中心となって設立したブレード・サーバ開発ベンダ。いち早くブレード・サーバを開発して出荷を開始したこと、またプロセッサにIntel製ではなくTransmetaのCrusoeを採用したことで注目を集めた。IBMとも提携している。

 ブレード・サーバがはやる理由はいろいろあるのだろう(もちろん上述の省スペース性や省電力性も含まれているハズ)が、確かに実物を見ていると、「サーバの1つの究極の姿なのだろうなぁ」という気がしてくる。これまでの一般的なサーバは、内部のさまざまな機能部品が故障した場合に備え、こうした部品が二重化されていたり、ホットスワップ可能になっていたりしていた。ブレード・サーバの考え方は、サーバ内部の部品を交換するのではなく、故障があったらサーバを丸ごと交換すればいいし、サーバ単位で二重化しておけばいい、というものだ。これだけPCの低価格化が叫ばれるのだから、いちいち部品単位でチマチマと保守するなんて割に合わない、とでもいいたげだ。実のところブレード・サーバの価格は、薄く小さいという「付加価値」のせいか、決して安くはないのだが、それでも後述のように信頼性を向上させるよりは安く済むかもしれない。

コンパックが発表したブレード・サーバ「ProLiant BL10e」
拡張カードのような基板上に超低電圧版Pentium III-700MHz(主にノートPC向けとして低消費電力を実現したPentium III)やメモリ、ハードディスクなどサーバを構成する部品が実装されている。電源やインターフェイス機能は、エンクロージャと呼ばれるケース側に実装されており、そこに写真のようなブレードを20枚まで搭載できる。主にデータセンターのフロントエンド・サーバとして利用される。

冗長性が信頼性をカバーする

 こうしたサーバの部品を二重化するのではなく、サーバの機能を二重化しておくというのは、これまたある意味でPCらしいアプローチであるようにも思う。よくPCサーバはメインフレームやUNIXサーバに比べて、信頼性や耐障害性が低い、といわれる。これが、ある意味事実であることは、日常、われわれが使っているクライアントPCが、さまざまな理由でフリーズしたり、クラッシュしたりすることからも容易に想像がつく。PCサーバといえど、その基本的なハードウェアや、OSなどの基本ソフトウェアのベースは、たとえチューンされているにしても、根本的には同じであるからだ。

 しかし、だからといってPCサーバで構築したシステムが、信頼性の低い、脆弱なものとは限らない。フリーズしたりクラッシュしたりするのなら、2台、3台、4台と複数台用意して、サーバ機能を分散させておけばよいのである。同様の仕組みは飛行機のエンジンや、RAIDにも採用されている。RAIDでは、1台、1台のハードディスクは安価で、必ずしも信頼性の高いものでなくても、冗長性を持たせて複数台をアレイにしておくことで、メインフレーム用の高価なディスク・サブシステムに引けを取らない信頼性を実現している(「特集:RAIDの基礎知識」参照のこと)。

 いくら信頼性の低いPCサーバでも、製品の不良でもない限り、同時に2台以上のサーバが故障したり、フリーズしたりするはずがない。PCサーバを4台入れる方が、UNIXサーバを1台入れるより安ければ、そちらの方が勝ち、という理屈になる。50%の信頼性を70%に向上させるのはたやすいが、すでに信頼性が90%程度に達している製品を95%に引き上げるためには、膨大な開発費が必要になるからだ。たった5%の信頼性の向上に多くの金額を投入するのは、経済的に割の合わない行為、ということになるだろう。これまでメインフレームやUNIXサーバは、この5%を向上させるために開発費を投入し続けてきたが、PCサーバでは冗長性によって最終的な信頼性を向上する方向に向かっているように感じる。

 まさか、何度リリースされてもWindowsの信頼性が劇的に向上しない理由がこれだとは思いたくないが、実はサーバOSとしてのWindowsの信頼性は、このくらいでよいのかもしれない(信頼性とセキュリティは、また別の問題だし、二重化されないクライアントはどうしてくれる、という声が聞こえてきそうだが)。3Uサイズのケースに20台のサーバが収まるブレード・サーバの発表会で、ふとこんなことを考えた。記事の終わり

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RAIDの基礎知識

  関連リンク
ブレード・サーバの製品情報ページ
ProLiant BL10eの製品情報ページ
 
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