連載
ネットワーク・デバイス教科書
第7回 プリンタとネットワークの橋渡し「プリント・サーバ」(1)
渡邉利和
2001/09/05
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今回は、ネットワーク機器としてはやや特殊な存在となった感じがする「プリント・サーバ」について解説する。プリント・サーバは、パラレル・インターフェイスを持つ、ネットワーク対応でないプリンタをネットワーク・プリンタとして利用するためのデバイスである。現在では、専用のネットワーク・インターフェイスをベンダが純正オプションとして用意しているプリンタも珍しくなく、インターフェイスとしてUSBを利用する機種が増えてきていることもあって、プリント・サーバの用途は限定される傾向にある。ただ、ネットワークの構成やプリンタの仕様によっては、これ以外に適切な選択肢が見あたらない、という場合もあるはずだ。
プリント・サーバの基本的な構成
プリント・サーバとして店頭で簡単に見つかるのは、Windows対応の比較的小型の機種である。ネットワーク・インターフェイスとして10BASE-Tまたは100BASE-TXを1ポートと、パラレル・インターフェイスを1ないしは数ポート程度備える機種が大半だ。現在、最も機種が多いのは、ネットワークとパラレルを1ポートずつ備えた「イーサネット−パラレル変換器」といった感じの機種である。ネットワーク・インターフェイスからプリント・ジョブを受け取り、これをパラレル・ポートからプリンタに送り出すことで、印字作業を実行する。プリンタからは、PCのパラレル・ポートに直接接続され、そこからプリント・ジョブが送られてきているようにみえるわけだ。
プリント・サーバを利用する場合は、前提として「ネットワーク対応ではないプリンタをネットワーク・プリンタとして利用する」ことになる。このため、実際の利用に当たってはプリンタを利用するクライアントPC側で細工を施してやる必要があることが多い。つまり、各クライアントPCでは、あたかもプリンタがローカルのパラレル・ポートに接続されているかのように設定しておいてから、製品に添付のユーティリティによって作成されたネットワーク・インターフェイスに切り替える、という手順を採用するものが多いのだ。この方法のメリットは、ネットワークでの利用を一切想定していないプリンタでもネットワーク・プリンタとして利用可能になる点だ。反面、デメリットとしてはプリンタを利用するクライアントPCに対して、あらかじめ個々に設定を行わなくてはならない点と、Windowsのプリンタ共有の機能を使って共有されたネットワーク・プリンタとは同じ扱いにはならない点だ。
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各種プリント・サーバの例 |
左から今回例として取り上げたプラネックスコミュニケーションズの「Mini300plus」、アイ・オー・データ機器の「ET-FPS1E」、ハイウエスト・ブレインネットの「PBRW001」。Mini300plusは、3ポートのプリント・サーバ、ET-FPS1Eは1ポートの直結型プリント・サーバ、PBRW001は無線ブロードバンド・ルータにプリント・サーバ機能を内蔵したもの。このように多様な製品がラインアップされており、用途や目的に合わせて選択可能だ。 |
ネットワーク・プリンタを利用する理由としては、やはり複数のクライアントPCからプリンタを共有する、というのが最も大きいだろう。昔は「高速化」という理由も考えられたが、現状では高速化のためにプリンタをネットワーク接続する意味はほとんどないと考えてよい。
プリント処理の高速化
かつて、MS-DOSのようなシングル・タスクOSが一般的に利用されていた時代には、プリント・アウトは大変時間のかかる処理であった。当時のアプリケーションでは、プリント処理を開始するとそれにかかりきりになってしまい、ほかの作業が一切できなくなるといったことも珍しくなかった。「30ページのドキュメントを印刷する」といった場合、プリンタが30枚の紙を印刷し終えるまで、事実上PCは使用不能のままなので、ユーザーはその間コーヒーでも飲んでのんびり待つしか手がなかったわけだ。これを解消するために、プリンタ・バッファというデバイスが使われた。プリンタが実際に印字を終える前に、アプリケーションを印刷処理から解放するために、プリンタに代わってプリント・ジョブを受け取って記憶しておき、プリンタに順次流す、という処理をするための、「パラレル・インターフェイスを装備したバッファ・メモリ」という感じのデバイスである。
プリント・サーバも本体内にバッファ・メモリを内蔵しているモデルならば、同様の効果が期待できる。しかも、イーサネットはパラレルに比べるとデータ転送速度が圧倒的に速いため、アプリケーションからのプリント・ジョブをより短時間で受信できる可能性がある。ただし、現在ではWindowsのようなマルチタスクOSが一般的であり、仮にアプリケーションが印刷処理に専念してしまったとしても、PC全体が利用できない状態になることはない。しかも、プリンタ・スプーラと呼ばれるバッファ機能もWindowsに標準で組み込まれているため、プリンタの印刷処理終了を待つこともない。このため、「印刷処理からアプリケーションを素早く解放する」ことを目的として、ネットワーク・プリンタを導入する意味はほとんどない。
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ネットワーク上でプリンタを共有するためには、プリンタ自体がネットワーク・インターフェイスを備えている必要はない。Windowsには標準でプリンタ共有機能が備わっているので、これを利用すればPCのパラレル・ポートに接続したプリンタを公開し、LAN内で共有することが追加コストなしに実現できる。また、プリント・サーバを利用することで、サーバを用意することなしに、手軽に既存のプリンタをネットワーク対応させることも可能だ。
そこで、今回は実際にプリント・サーバを用意し、具体的な設定手順を紹介しながら、プリント・サーバの機能や効用などを解説しよう。
プリント・サーバの機能と効用
今回用意した機種は、プラネックスコミュニケーションズのMini300plusというパラレルを3ポート備えた比較的大規模な機種である(プラネックスの「Mini300plusの製品情報ページ」)。TCP/IP、IPX/SPX、NetBEUI、AppleTalkといった各種プロトコルに対応し、Windows、UNIX、Macintoshといったさまざまなプラットフォームが混在する環境でも利用可能である。ただし、今回はWindows環境でのみ試用している。
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プリント・サーバの接続イメージ |
一見、ローカル接続のプリンタをネットワークに公開しているのと同じに見えるかもしれないが、実態は大きく異なる。Windowsマシンにローカル接続されたプリンタを公開する場合は、Windowsのプリンタ共有プロトコルに従って、ネットワーク上での共有名が与えられ、ほかのクライアントから直接参照できるようになる。一方プリント・サーバの場合は、Windowsのプリンタ共有プロトコルをサポートしているわけではないため、WindowsネットワークのクライアントPCから直接参照することはできない。このため、ローカル・プリンタとしてプリンタ・ドライバをインストールした後、接続先を専用ユーティリティによって作成した仮想ポートに切り替える、という手順を踏むことになる。
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接続は非常に容易で、イーサネット・ケーブル、プリンタ・ケーブル、電源アダプタをそれぞれのコネクタに差し込むだけだ。続いて、プリント・サーバ本体側での設定を行う。これには、製品添付の専用ユーティリティ・ソフトウェアを利用する。添付のユーティリティ・ソフトウェアは使いやすく工夫されており、ネットワーク・デバイスの管理にあまり慣れていない人でも、そうとまどうことはないだろう。最低限、LANの状況に合わせたTCP/IPの設定が必要なのだが、このユーティリティではネットワークに接続されたプリント・サーバを自動的に検出するため、作業は簡単だ。
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Mini300plus添付の専用管理ユーティリティ「Smart Print Manager3」 |
ネットワーク上のプリント・サーバを自動的に検出する。詳細な設定項目が用意されており、専用ツールだけあって使いやすい。 |
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プリント・サーバは自動的に認識され、このようにMACアドレスが表示される |
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古い機種では、まずプリント・サーバの工場出荷時のTCP/IP設定に合わせてPC側のネットワーク設定を変更しないといけないものなどもあったが、さすがにそうした不便は解消されているようだ。製品を選ぶ場合は、設定ユーティリティがどういったものかを確認した方がよいだろう。Mini300plusの場合、メッセージこそ英語で表示されるが、見慣れたフィールドに数値を設定すればよい。基本的な設定項目としてはこれだけだ。なお、本機ではIPアドレスさえ適切に設定すれば、以降の管理作業はWebブラウザを介して実行することもできるため、専用ユーティリティをインストールしていないPCからでも管理作業を実行できる。
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Smart Print Manager3によるIPアドレスの設定 |
この機種では、DHCPクライアントとして運用することも可能だが、推奨はされていない。
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Webブラウザによる設定画面 |
本機種ではWebブラウザを利用して設定を行うこともできるようになっている。素っ気ない画面だが、専用ユーティリティをインストールしなくても設定が可能な点はありがたい。ただし、専用ユーティリティを利用してプリント・サーバのIPアドレスを適切に変更してからでないと、Webブラウザによる設定は使えない。 |
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