WebサービスとP2P
〜次世代インターネットをめぐる集中と分散の胎動〜

渡邉利和
2001/06/09

 最近、「Webサービス」が話題になっている(Webサービスについては、Insider.NETの「連載:世界のWebサービス」を参照のこと)。これは、単純にいうと「Webアプリケーションのコンポーネント化」と表現できる。Web上で提供されているサービスをダイナミックに探し出し、利用するというものだ。例えば、「旅行計画サイト」に行ってスケジュールを入れると、行き先が海外であれば航空券予約、国内なら鉄道予約の機能を自動的に見つけ出して利用できるようになる、といったストーリーが語られている。最初の旅行計画サイトにこうした機能がすべて組み込まれているのではなく、ユーザーがいま必要としているサービスを判断し、その場でインターネット上から見つけ出す、ということだ。これが本当に実現するかは別の話として、最低限必要になるインフラとして、サービスを登録し、検索するための仕組みとしてUDDI(Universal Description, Discovery and Integration)が、外部のサービスにアクセスするためのプロトコルとしてSOAP(Simple Object Access Protocol)が規定され、とりあえずの道具立てはそろってきている。

 一方、P2P(Peer-to-peer:ピア・ツー・ピア)技術も注目されている。Napstergnutellaのようなファイル交換サービス・アプリケーションで話題となったが、こうした特定のアプリケーションではなく、P2Pシステム全般をサポートするインフラとして、JXTAがオープン・ソース・プロジェクトとして発足している(JXTAのホームページ)。P2Pは、特定のサーバを必要とせず、クライアント同士が直接通信する技術だと紹介されることが多いようだ。

WebサービスもP2Pもインターネットの限界が生んだ?

 さて、一見まったく別の目的に対応するために独立して出現したかのように見えるWebサービスとP2Pだが、実はどちらも同じ「インターネットの限界」に対応するために生まれた、共通の根に咲いた2つの異なる成果のように思えるのだ。

 筆者が考える共通の根とは、「スマートな検索手段の実現」である。現在のインターネット上のサービスは、基本的には静的なデータベースであるDNSを手がかりとし、これまた静的な情報であるURLをベースにアクセスする仕組みになっている。しかし、インターネットはダイナミックな存在であり、サーバも次々追加されると同時になくなるサーバもある。一方、ISP経由で接続してくるクライアントは、それこそとても把握しきれない頻度で接続/切断を繰り返している。これら膨大なノード上で提供されるサービスを見つけ出すことが不可能に思えるほど、現在のインターネットは巨大化している。

 インターネット上には便利なサービスが多数用意されている。新しいサービスも日々追加されているはずだ。しかし、もはや多くのユーザーにとって新しいサービスをタイムリーに見つけ出すのはほとんど不可能に近い。検索エンジンやポータル・サイトのリンク集も、インターネット全体のダイナミックな変化に追従するのは到底不可能であり、過去のある時点でのスナップショットでしかあり得ない。

 WebサービスとP2Pは、発見不可能になりつつある「新サービス」を利用可能にするための、新しい検索手段の構築の試みだと位置付けられるだろう。Webサービスでは、UDDIという新しい「データベース」によって、そしてP2Pでは独自プロトコルによる「Peerの発見」という手段でこれを実現しようとしている。

 P2Pに関しては、「サーバ不要」という点がことさらに強調される傾向があるように思うが、別にサーバを省略したいという要求が強いということではないだろう。むしろ、固定的なサーバの存在をあらかじめ知らなくても、実行時にダイナミックに「利用可能な通信相手」を発見できるという点が重要なのだ。これにより、ユーザーがあらかじめURLを知っている必要はなくなる。ダイナミックに検索し、見つかったものを利用する、というアプローチだ。結果として、見つかったノードが従来の固定的な巨大サーバであっても別に構わないわけだ。

WebサービスやP2Pはスマートな検索手段となるのか

 さて、「既知のURL」に対して新しい「ダイナミックでスマートな検索」を提供しようとするWebサービスとP2Pだが、その実装方法は正反対ともいえる。Webサービスでは、UDDIという新たなデータベースを構築しようとし、P2Pはデータベースなしに毎回オンデマンドで検索しようとする。しかし、これはどちらが正しい方法か、と考えるべきものではない。結局のところどちらも一長一短があり、用途や条件に応じて使い分ける存在と見るべきだろう。

 WebサービスもP2Pも、現時点ではコンセプトばかりが喧伝され、実際に利用可能なサービスとして一般的に定着するにはまだしばらく時間がかかりそうだ。しかし、「URL探し」にそろそろ飽き飽きし始めている筆者は、これらの技術がスマートな検索手段を提供し、その場その場で必要なサービスやリソースを発見できるようになる日を心待ちにしている。さて、インターネットはユーザーにスマートでインテリジェントな検索サービスを提供できるようになるだろうか?記事の終わり

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「Opinion:渡邉利和」


渡邉 利和(わたなべ としかず)
PCにハマッた国文学科の学生というおよそ実務には不向きな人間が、「パソコン雑誌の編集者にならなれるかも」と考えて(株)アスキーに入社。約1年間技術支援部門に所属してハイレベルのUNIXハッカーの仕事ぶりを身近に見る機会を得た。その後月刊スーパーアスキーの創刊に参加。創刊3号目の1990年10月号でTCP/IPネットワークの特集を担当。UNIX、TCP/IP、そしてインターネットを興味のままに眺めているうちにここまで辿り着く。現在はフリーライターと称する失業者。(toshi-w@tt.rim.or.jp

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