プロダクト・レビュー
手ごろになった無線LANキット「airDirect Starter Kit」 澤谷琢磨 |
*1 複数のアクセス・ポイントを設置する場合、近接するチャンネルを使用すると、電波が干渉しあって正常に動作しないため、3チャンネル以上あけて設定するのが望ましい。また、周波数が重なるような無線機器がある場合も、同様に干渉を避けるため、使用する周波数帯(チャンネル)を変更する必要がある。14チャンネルをサポートしているということは、それだけ設定が幅広く採れることを意味する。
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日本では、ノートPCの普及率が高いこともあり、煩雑なネットワーク・ケーブルの引き回しを必要としない無線LANの人気が、ビジネスやホーム・ユースの区別なく高まっている。特にレイアウトが頻繁に変更されるようなオフィスや、オフィスの形状や機能性の点から(フリー・アクセス・フロアを使えないなど)ネットワーク・ケーブルを配線しにくい場合などには、無線LANは有効なソリューションである。そのため、ネットワーク製品専業ベンダのほか、PCベンダも無線LAN機器をPC本体のオプションとして販売するなど、各社から対応製品が提供されている。今回紹介するairDirectシリーズは、コスト・パフォーマンスの高いネットワーク製品を開発・販売しているアクトンテクノロジィがこの分野に投入した製品である。 IEEE 802.11b無線LAN規格をサポートairDirectは、最大転送レートが11Mbits/sのIEEE 802.11b対応の無線LAN製品だ。ただ、IEEE 802.11b対応といっても、暗号化機能など一部で互換性の問題が残っており、他社製品との相互接続は必ずしも保証*2されていない。
IEEE 802.11b規格において既定されている接続形態は2つあり、それぞれ「インフラストラクチャ・モード」、「アドホック(インディペンデント)・モード」と呼ばれる。airDirectはもちろんこの2つのモードをサポートしている。アクセス・ポイントを含むairDirect Starter Kitは、当然インフラストラクチャ・モードをターゲットとした製品構成である。
無線LANの設定は容易現時点のWindows 2000/NT/9xには、ESS ID(Extended Service Set ID:無線LANのグループID)、WEP(Wired Equivalent Privacy:データの暗号化機能)、省電力といったIEEE 802.11bに固有の機能をサポートするソフトウェアは、OS標準では組み込まれていない。そのため無線LANシステムでは、この固有機能を制御する付属の設定ソフトウェアの完成度が、使い勝手を大きく左右する。airDirect付属の設定ソフトウェアには、設定ダイアログやヘルプなどに日本語化されていない部分が見られる。詳細な日本語マニュアルが付属するため、インストール、設定ともに容易ではあるが、保守を容易にするためにも、ヘルプなどの完全な日本語化を望みたい。 マニュアルにも記載されているが、アクセス・ポイントとクライアントPCともにまずデフォルト設定でインストールしてテストを行い、その後で各設定項目を変更すべきだ。ESS IDとWEPそれぞれの暗号キーは、通信したいアクセス・ポイントとクライアントの間で一致させる必要がある。他社製品と相互接続を行う場合、WEPの暗号化を有効にすると接続できないことがあるので注意したい。 ESS IDは、IEEE 802.11b無線LANのMAC層において、アクセス制限を行うための識別子で、ESS IDが一致したときのみアクセス・ポイントとクライアント間で通信を確立できる。また、ローミング機能は、ESS IDが一致するアクセス・ポイント同士の場合のみ有効となる。なお、ESS IDを変更すると、アクセス・ポイントとの通信が確立しないことがあった。これは、無線LAN PCカードAD11C-1のデバイス・ドライバ側にもESS IDを設定可能なプロパティがあり、「Accton Wireless Card Control Utility」での設定より、こちらの設定が優先されることが原因のようだ。同様の問題に遭遇した場合は、この項目を確認した方がよい。 WEPは、共有鍵暗号方式(暗号化する側と復号化する側で同じ鍵を使用する暗号化方式)によるデータ暗号化を提供する。このためクライアントPCとアクセス・ポイントの両方に共通のキー(暗号鍵)を設定する必要がある。 無線LANの転送速度は約500Kbytes/sIEEE 802.11bがサポートする規格上の最大転送レートは11Mbits/sであるが、実効転送レートは一般的にはこの値よりも低いと言われている。これを確認するため、100Mbytesのバイナリ・ファイルをftpで転送する実験を行った。サーバとアクセス・ポイントのみを10Base-Tのハブで接続し、クライアントPCが無線LANを使って、サーバ上のファイルをftpで転送するというものだ。各種設定は基本的にデフォルトで、なるべく最良の状態で通信が行える環境で実施した。このときの転送速度は、517Kbytes/s(=4Mbits/s)となった。ちなみに、編集部で同種の他社製品を簡単に評価したところ、結果はほぼ同様であった。同じファイルを有線の10Base-T経由でftpした場合では、1078Kbytes/s(=8.4Mbits/s)の値を得た。このことから、現状の無線LANの速度は、規格上の最大値から比較すると約36%、10Base-Tと比較すると約48%の転送能力にとどまっていることが分かった。 また、無線LANは通信環境が悪化すると転送速度が低下することが知られている。そこで、airDirectをインストールしたPCとアクセス・ポイントの間に鉄製の防火扉を挟んで、同様の実験を試みたところ、252Kbytes/s(=2Mbits/s)と最良の条件で測定した場合に比べ2分の1の速度にまで低下した。 このようなテスト結果にだけ注目してしまうと、無線LANの実用性に疑問を抱くかもしれない。しかし、Webや電子メールなどのインターネット・サービスや社内利用で、大量のデータを常時転送するような用途でなければ(例えば、サイズの大きなマルチメディア・データなどを常時扱うなど)、それほど問題になるレベルではないだろう。 コスト・パフォーマンスに優れたairDirect実売ベースでは、airDirect Starter Kitは他社の同種の製品と比較して同等か、より低価格で販売されている。またairDirectは、他社のIEEE 802.11b無線LAN対応製品と比べ、14チャンネル対応、SNMPエージェント機能内蔵と、アクセス・ポイントの機能充実が目立つ。アクセス・ポイント自体の価格も同等製品に比べ割安に設定されている。現状ではIEEE 802.11b対応製品の相互接続性には不安があり、導入時は同一ベンダの製品で揃えるほうが望ましい。airDirectシリーズのアドバンテージは、初期導入コスト、拡張時のコストともに低く抑えた点にあるといえる。 なお、これは他社のIEEE 802.11b無線LAN対応製品でも同様なのだが、airDirectシリーズをネットワーク管理者の視点から見ると、クライアントPC側の設定を簡素化する仕組みを持たないことに不満を感じる。クライアントPC向けにカスタマイズしたインストール・イメージを作成する仕組みが提供されれば、管理者の負担はかなり減るだろう。管理者側の使い勝手を向上させるソフトウェアの提供を望みたい。 |
メーカー名 | アクトンテクノロジィ |
製品名 | airDirect Starter Kit |
価格 | 5万9800円 |
問い合わせ先 | 営業部 TEL 03-3257-9809 |
URL | http://www.accton.co.jp/ |
airDirect 11Mbps共通スペック | |
規格 | IEEE 802.11b |
伝送方式 | DS-SS(スペクトラム直接拡散)方式 |
周波数帯 | 2.4GHz帯 |
チャネル数 | 14チャンネル |
データ伝送速度 | 11Mbits/s、5Mbits/s、2Mbits/s、1Mbits/s自動切り替え |
変調方式 | CCK(11Mbits/s、5Mbits/s)、QPSK(2Mbits/s)、BPSK(1Mbits/s) |
伝送距離 | 屋内:35〜100m/屋外100〜300m |
アンテナ形式 | ダイバーシティ方式アンテナ |
暗号化 | 40bit WEP |
airDirect 11Mbps Access Point(AD11A-1) | |
LAN接続部 | 10Base-T/100Base-TX(RJ-45モジュラ・コネクタ) |
ネットワーク管理 | SNMPプロトコル(MIBU、IEEE 802.11 MIB)対応 |
LEDランプ | RFアクティビティ、電源、リンク |
消費電力 | 最大4.0W |
外形寸法 | 136(W)×40(D)×126(H) mm |
重量 | 138g |
airDirect 11Mbps PC Card(AD11C-1) | |
対応OS | Windows 95 OSR2/98/Me/NT 4.0/2000、Windows CE 2.1以降 |
LEDランプ | RFアクティビティ/リンク |
消費電力 | 最大1.75W |
外形寸法 | 110(W)×54(D)×6(H) mm |
関連リンク | |||
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「PC Insiderのプロダクト・レビュー」 |
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