特集 1. IEEE 802.11bとIEEE 802.11a |
各無線LAN規格の特徴
現在、無線LANの代名詞ともなっているのが「IEEE 802.11b」と呼ばれる規格である。2.4GHz帯の無線周波数を利用し、最大11Mbits/sの転送レートを実現している。2.4GHz帯はISM(Industry Science Medical)バンドと呼ばれ、利用者が無線免許を取得しなくても使える周波数となっている。屋内だけではなく屋外でも利用でき、無線LANの構築に限らず、ホットスポットやラスト・ワンマイルのインターネット・アクセスでも利用可能だ。一方でIEEE 802.11bだけでなく、Bluetoothやコードレス電話といった無線機器のほか、電子レンジや医療機器などでも2.4GHz帯の無線は利用されており、こうした機器との電波干渉が問題になることがある。
利用できる周波数帯については、規制などによって国ごとに異なっている。日本におけるIEEE 802.11bで利用可能な中心周波数は、以下のとおりだ(第14チャンネルは若干周波数が離れている点に注意)。
チャンネル | 中心周波数 | 日本 | 米国 | ヨーロッパ |
第1 | 2.412GHz |
○
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○
|
○
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第2 | 2.417GHz | |||
第3 | 2.422GHz | |||
第4 | 2.427GHz | |||
第5 | 2.432GHz | |||
第6 | 2.437GHz |
○
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○
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第7 | 2.442GHz |
○
|
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第8 | 2.447GHz | |||
第9 | 2.452GHz | |||
第10 | 2.457GHz | |||
第11 | 2.462GHz |
○
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○
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第12 | 2.467GHz |
−
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第13 | 2.472GHz |
−
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○
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第14 | 2.484GHz |
○
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−
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−
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日本および欧米におけるIEEE 802.11bが利用する中心周波数 | ||||
各チャンネルの中心周波数は5MHzおきに連続しているが、最後の第14チャンネルだけは不連続になっている。〇は、オーバーラップしないように割り当てる場合の中心周波数帯の例。 |
米国では第1から第11チャンネルまで、ヨーロッパのほとんどの国では第13チャンネルまでとなっている。なお、フランスは2.457G〜2.472GHzの4チャンネル、スペインに至っては2.457GHzと2.462GHzの2チャンネルに制限されている。この周波数はあくまで中心周波数であり、通信には前後約10MHzの合計20MHzが利用される。そのため、近接したチャンネルはオーバーラップして相互に干渉することになり、通信速度の低下や通信の途絶といった弊害をもたらす。そのため、干渉を完全に回避させるためには、22MHz以上離して設定する必要がある。日本の場合は、第1、6、11、14の各チャンネルを利用すれば、オーバーラップなしにアクセス・ポイントが設置できることになる。
このIEEE 802.11bと同じ周波数帯を利用して互換性を維持しつつ、通信速度の向上を図ったのが「IEEE 802.11g」という規格である。IEEE 802.11aと同様、変調方式をOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)方式に切り替えることで高速化を実現している(IEEE 802.11bは直接拡散スペクトラム方式を採用)。IEEE 802.11gは、現在正式承認待ちの状態にあり、本格的な製品出荷は2002年中頃からになると思われる。
一方、今回評価を行う「IEEE 802.11a」は、5GHz帯を利用して、最大54Mbits/sの転送レートを実現する規格だ。米国では5.150G〜5.250GHz、5.250G〜5.350GHz、5.725G〜5.825GHzの周波数帯の合計300MHz、日本では5.150G〜5.250GHzだけで100MHz、ヨーロッパでは5.150G〜5.250GHz、5.250G〜5.350GHz、5.470G〜5.725GHzの周波数帯の合計455MHzがそれぞれ利用できる。チャンネルは、5.000G〜6.000GHzにわたって5MHz単位で割り当てられるため、5.150GHzは第30チャンネルとなる。IEEE 802.11bと同様、近接したチャンネルはオーバーラップするため、IEEE 802.11aは20MHz以上離して設定する。そこで、オーバーラップしないようにチャンネルを割り当てた場合、次の表のようになる。
チャンネル | 中心周波数 |
第34 | 5.170GHz |
第38 | 5.190GHz |
第42 | 5.210GHz |
第46 | 5.230GHz |
第50 | 5.250GHz |
第54 | 5.270GHz |
第58 | 5.290GHz |
第62 | 5.310GHz |
第149 | 5.745GHz |
第153 | 5.765GHz |
第157 | 5.785GHz |
第161 | 5.805GHz |
米国におけるオーバーラップをしない場合の中心周波数 | |
このように米国では、IEEE 802.11bが3チャンネルしか確保できないのに対し、IEEE 802.11aでは12チャンネルが確保可能だ。ヨーロッパでも同様に12チャンネル以上の確保が可能であり、この点でもIEEE 802.11aのメリットがあることが分かる。 |
欧米においてIEEE 802.11aは、IEEE 802.11bに比べて多くのチャンネルが割り当て可能であり、転送速度に加えてチャンネル数の面でもメリットがあることが分かる。
日本では、前述のように5.150G〜5.250GHz帯しか許可されていないため、表のうち第34〜46の4チャンネルだけが利用可能である。チャンネル数という点では、IEEE 802.11bと同じ数でメリットがないわけだ。また日本ではこの周波数帯は、衛星携帯電話や気象レーダーのアメダス(AMeDAS)、高速道路の自動料金徴収システム(ETC)などでも利用されているため、法律的に屋外では利用できない(欧米では一部周波数が屋外でも利用可能)。屋外利用に関しては、総務省の情報通信審議会・情報通信技術分科会の「5GHz帯無線アクセスシステム委員会」で検討が行われおり、4.900G〜5.000GHz帯ならびに5.030G〜5.091GHz帯が開放される予定となっている。5GHz帯の屋外利用が可能になれば、2.4GHz帯と異なり、ほかの機器との電波干渉が少ないため、ホットスポットやラスト・ワンマイルのインターネット・アクセスでは使いやすいかもしれない。
SSIDとWEP
IEEE 802.11aも、IEEE 802.11bと同様、クライアント同士で通信を行う「アドホック・モード」と、アクセス・ポイントを中継点として有線LANと通信する「インフラストラクチャ・モード」をサポートする。アドホック・モードとインフラストラクチャ・モードなど、IEEE 802.11b無線LANについては、「連載:ネットワーク・デバイス教科書 第3回 ネットワークの自由度を高める『無線LANアクセス・ポイント』」を参照していただきたい。
SSID(Service Set Identifier)と呼ぶ識別子を使用する点も、IEEE 802.11aとIEEE802.11bは同じだ。SSIDとは、アクセス・ポイントとクライアント(アドホック・モードではクライアント同士)に設定することで通信相手を指定するためのものだ。これにより、特定のアクセス・ポイントとクライアント群を、相互に通信可能な1グループとして設定できる。ただし、クライアント側の無線LANカードのドライバで「ANY」もしくは空欄にしておくことで、接続可能なアクセス・ポイント/クライアントのSSIDを自動的に設定することもできる(アクセス・ポイントによっては、「ANY」を拒否する設定も可能)。つまり、SSIDは単なるアクセス・ポイントとクライアントの組み合わせを指定する識別子であり、セキュリティ機能を果たさないことに注意したい。
IEEE 802.11b/aのセキュリティ機能として、「WEP(Wired Equivalent Privacy)」と呼ばれる暗号化機能が用意されている。IEEE 802.11bは40bitまたは128bit、IEEE 802.11aは64bitまたは128bitのキー(任意の文字列)を、アクセス・ポイントとクライアントの両方に指定しておくことで、通信相手を認証しつつ、通信内容の暗号化と復号化を行おうというものだ。これによって通信が傍受されてもデータを解読できないし、WEPを知らないクライアントがネットワークにアクセスするのを防ぐことも可能になる。さらにアクセス・ポイントによっては、クライアントのMACアドレスを登録することで通信可能なクライアントを制限できるものもある。
関連記事 | |
第3回 ネットワークの自由度を高める「無線LANアクセス・ポイント」 |
関連リンク | |
IEEE 802.11規格に関する情報ページ |
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[特集]新世代高速無線LAN「IEEE 802.11a」の世界 | ||
1.IEEE 802.11bとIEEE 802.11a | ||
2.IEEE 802.11aの設定 | ||
3.IEEE 802.11aの実力を測る | ||
4.無線LAN規格の今後 | ||
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