特集 −低価格PCはこれまでのPC選択の基準を変えるのか?− デジタルアドバンテージ |
結論 |
今や最低価格のPCでも、ビジネス アプリケーション用途ならば、十二分な性能を備えている。使用されているデバイスは、最新のものではないが、だからといって信頼性が劣るものではない。こうした低価格PCの登場により、高性能だが高価なPCを長期間に渡って使うという従来の運用から、低価格PCを一定の期間でリプレイスしながら使うという運用に変わる可能性がある。TCO(Total Cost of Ownership:導入コストと管理コストを合計した所有期間中にかかるすべての費用)の概念を大きく変える可能性を秘めている。 |
1999年末時点で最速のデスクトップPC用のプロセッサは、IntelがPentium III-800MHz、AMDがAthlon-750MHz(2次キャッシュが外付けのタイプ)であった。これに対し、この原稿を執筆している2000年9月上旬現在では、それぞれIntelがPentium III-1.13GHz(障害の発生により出荷は行われていないが)、AMDがAthlon-1.1GHz(2次キャッシュをプロセッサ ダイに同梱したタイプ)である。つまり、クロック上の単純計算では、8カ月間でIntelプロセッサは1.4倍、AMDプロセッサは1.46倍に性能が向上したことになる。
このように急速にプロセッサの性能が向上するということは、いくら最速のPCを購入しても、半年も経てばメインストリームPC(平均的な性能のPC)、1年も経てばエントリPCと同等になってしまうことを意味する。科学技術計算や大規模なソフトウェア開発といった、PCの性能が生産性を大きく左右する用途ならば、それでも最速のPCを購入する必要があるかもしれないが、これらに比べて処理が比較的軽いビジネス アプリケーション用途ならば、必ずしも最速のPCを使う必然性はない。現在のエントリPCでも十分にストレスなく利用できるからだ。実際、編集部ではCeleron-500MHzやAthlon-600MHzを搭載するPCで、原稿の執筆やWebページの制作を不満なくこなしている。Webページ制作は、少なからずイメージ処理などを伴う比較的重い作業だ。もっぱらワードプロセッサを使うなど、軽量なアプリケーションを使う企業などでは、3年以上前のMMX Pentium-266MHzを搭載したPCを現役で使っているところもあるだろう。
このように現在のソフトウェア環境は、それほど高い実行性能をPCに求めていない。これに対し従来のソフトウェア環境は、バージョン アップのたびに機能が増え、PCにより高い実行性能を求める傾向にあった。そのため、企業ではなるべく長期間に渡って利用できるように、購入時に最も性能の高いものを選択するケースが多かったわけだ。一方で、最近ではPCの価格は全体的に下がっているうえ、前述のように性能向上のテンポが速いため、すぐにPCが型遅れとなり、さらに低価格化に拍車がかかる傾向にある。つまり、性能の高いPCを購入しても、その性能を活かしきれない間に、PCが古くなってしまい、その頃には同程度の性能を持つ非常に安価なPCが登場してしまうわけだ。こうなってくると、多少は高価でも、購入時点である程度の性能を持った機種を選んで長く使うという従来のアプローチではなく、多少は性能が低くても、低価格な機種を常に短期間で買い換えるという製品導入計画が成立する。
もちろん、頻繁にリプレイスを行うことになると、PCのデータを移行したり、設定したりする必要が生じ、管理コストがかさむことになる。単純に従来の方法を低価格PCに適用したのでは、TCO的にはむしろ不利になってしまう。しかし、逆に発想を転換し、頻繁にリプレイスを行うことを前提にすれば、従来型TCOから脱却することも可能だ。たとえば、クライアントPCにデータを置かず、部署内のサーバですべてのデータを一元管理するなどすれば、クライアントPCのリプレイスは比較的容易になる。このような方法を徹底すれば、サーバでのデータの一括管理を促すことになり、データのバックアップなどが容易になり、結果としてTCOを大幅に削減することも可能になるはずだ(各クライアントPCのデータ バックアップなどが不要になるメリットは大きいだろう)。
周知のとおり、クライアントPCの管理・運用コストが予想外に大きく、情報システム全体の管理費用を押し上げるというクライアント サーバ コンピューティングの反省から、現在では、データだけでなく、アプリケーションすらも中央のサーバで一元管理しておき、クライアントはこれを必要に応じて実行するというASP(Application Service Provider)が注目されている。伝統的なホスト コンピュータ用の端末と比較すれば、ASPクライアントにはGUIが不可欠であり、Webブラウザなどのアプリケーションを十分な性能で実行できなければならない。しかし少なくともスペックで見るかぎり、低価格PCにおいても、その程度の条件は十分にクリアしているように思える。はたして、低価格PCの登場と一般化は、ASPのような新しいコンピューティング モデルを後押しする原動力となるのだろうか? 安価なのはうれしいことだが、企業利用では特に重要な信頼性や、サポートなどが犠牲にされてはいまいか? 必要性は低下しつつあるとはいえ、柔軟なPCの配置を可能にするための拡張性は維持されているか?
そこで本稿では、低価格PCの代表として、エプソンダイレクトの「TC535MN/TC535LN」を取り上げ、性能や信頼性などを評価すると同時に、低価格化を可能にしている背景についても探ってみることにする。
INDEX | ||
[特集]5万円PCがオフィスを変える | ||
1.低価格PCの中身を探る | ||
2.拡張性とサポートは必要十分 | ||
3.4万9800円実現の裏側 | ||
「PC Insiderの特集」 |
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