特集 CrusoeはノートPCに革新をもたらすのか? コラム
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6月27日から29日まで米国ニューヨーク市で開かれたPC EXPO2000には、かねてよりウワサのCrusoe搭載のノートPCの試作機が多数展示された。展示を行ったのは、IBM、日本電気、日立製作所などで、富士通はノートPC用のマザーボードのみの展示だった。なおこれらは各メーカーのブースではなく、すべてTransmetaブースにて展示されており、Transmetaブースで説明にあたっていたのもTransmetaの社員であった。このあたり、各メーカーとも直接発表はしないが、Crusoe搭載ノートPCには手をつけていることはアピールしておきたいという気持ちと、Transmetaのプロモーションが一致した結果なのではないかと思われる。Transmetaの出展が開催直前に発表されたにもかかわらず、ブースはIntelと隣り合わせという、Transmetaのアピールにはうってつけの場所でもあった。このあたり、何か作為的なものを感じないではいられない。
各社のCrusoe搭載ノートPC
完全にケースに入った完成品としてのノートPCは、IBM、日本電気、日立製作所の3社から出展されていた。IBMは、ThinkPad 240をベースにしたもの。日立製作所は、Prius Noteをベースにした青色と緑色の本体の2台を展示、日本電気は業務向けのタッチパネルを装備したマシンをベースにしていた。説明員の話によると、どの機種もTM5400-700MHzを搭載しており、ファンを装備していないという。実際、動作中のマシンのあちこちを触れてみたが、まったく発熱を感じない。それでいて、DVDビデオの再生がソフトウェアのみでスムースに行われ、並行してウィンドウ操作を行っても、ほとんどひっかかりを感じなかった。気になる性能は、十分であると感じた。
Crusoe専用のツールとして、現在のクロック周波数とコア電圧を表示するものがインストールされていた、Crusoeは稼動中にクロックやコア電圧を変更できるが、これを使うことで現在の状態を調べたり、クロックの下限/上限を決めることができる。これを見ていると、DVDビデオのソフトウェアによる再生のみを行っているときは、動作クロックは400MHzあたりで落ち着いており、ときおりちょっと上がっては下がることがあるという程度だった。そしてウィンドウ操作を行うと、最高クロックまでぐっと上昇した。Windowsのアイドル ルーチンを検出しているとのことだが、かなり細かい時間間隔でクロックやコア電圧を調整しているようだ。
ウワサによると、日立製作所のマシンには未発表のTM5600を搭載していたというのだが、これについては確認がとれなかった。なお、TransmetaのPC EXPOに関するニュースリリースには、TM5000シリーズとしてTM5600という型番が表記されている(今年1月のCrusoeの発表時には、TM5400とTM3120の2つのみが発表されている)。おそらく、正式に発表していないTM5600が搭載されていたのだと思われる。
富士通は、完成品としてのノートPCの展示はないものの、ノートPC用のマザーボードの展示を行っていた。Crusoeは、インテルのチップセットでいうノースブリッジ(North Bridge:メモリ コントローラ、PCIコントローラなどの機能を提供する)を内蔵しており、PC互換機とするためには、外部にサウスブリッジ(South Bridge:USBインターフェイスやIDEコントローラなどの機能を提供する)が必要になる。このマザーボードには、ALiのM1533が搭載されており、グラフィックス コントローラには、ATI RAGE Mobilityが使われていた。
WebPadもCrusoeのターゲット
Crusoeのもう1つのデバイスであるTM3200(TM3120が名称変更したもの)のほうは、WebPadと呼ばれるTransmetaの提案するwebアプライアンス機器に組み込まれて、デモが行われていた。これは、おそらくOEMに提示するための試作機であると思われる。Webアプライアンス機器は、必ずしもPCベンダが作るとは限らないため、基本設計をすべてTransmeta側で行い、カスタマイズ程度で製品が作れるようにしているようだ。Transmetaが提供するMobile Linuxも、つまりOSも含めて「Kit」化するためには必要なものだから提供するのであろう(いままでPC製造の経験のないメーカーにOSの移植とか、MicrosoftとのOEM契約を行わせるのはかなり難しいだろう)。
このWebPadは、2〜3cm程度の厚さで、タッチパネル付きの液晶を搭載する。正面左側には、操作用のボタンなどがあり、側面にはPCカード スロットやUSB、IEEE1394などのインターフェイスを装備している。なお、このマシンもファンは装備していないとういう。
デモマシンでは、Mobile Linux上でX-Window(XFree86と思われる)が動作しており、そのうえでNetscape NavigatorによるWebアクセスのデモが行われていた(インターネット接続は、無線LANカードで行っていた)。
説明員によると、「Mobile Linuxは、x86ベースのバイナリを使っており、Crusoeのネイティブコードで作られてはいない」という。Mobile Linuxは、特殊なLinuxではなく、こうした機器用のコンパクトなディストリビューションということのようだ。Linux自体は、外部記憶装置であるコンパクトフラッシュ(CompactFlash)に格納されており、IDEデバイスとしてブートするという。また、この機種でもBIOSは必要らしい。おそらく、x86用のLinuxをほとんどそのまま用い、ハードウェアもほとんどPC互換機となっていると思われる(TM3200もNorth Bridgeを内蔵しており、PC互換機が簡単に作れる)。
Webアプライアンスとはいえ、たとえば、ユーザーが受信したメールをセーブする必要があったり、このデモのように無線LANを接続したり、長文を入力するためにUSBキーボードを接続したり、あるいはそのほかの周辺装置を接続したりする必要が出てくる。また、OEMメーカーがカスタマイズを行うような場合にも、それらが容易でなければならない。そうすると、手っ取り早いのは、現在のPCの資産をそのまま流用することである。こうした構成になっているのは、そうした理由からだろう。
もう1つのアプライアンス「ゲートウェイ サーバ」
会場には、Rebel.comのゲートウェイ サーバであるNetWinderにCrusoeを採用したものが展示されていた。こちらは、TM3200とTM5400の2機種があり、Linuxを採用していた。xDSLモデムや11Mbpsの無線LANなどが統合可能だという。また背面には、PCカード スロットも装備されていた。さらに、UPSを内蔵しているのが特徴だ。
消費電力は12W程度と小さく、Crusoeが低発熱のためファンが必要ないという。こうした機器は、一度設置すると、1日24時間、1年365日動かし続ける必要があり、ファンなどは障害の原因となりやすい(ホコリがたまり、廃熱効率が落ちて内部温度が上昇してしまったり、ファンのモーターが故障したりする)。こうした機器に、低消費電力であなりがら、パフォーマンスの高いCPUを使うことはかなり有利でもある。また、低消費電力であるため、UPSを内蔵することも可能になったという。
発表から半年しか経っていない互換プロセッサでありながら、Crusoe搭載の機器は、このように次々と開発されている。PC EXPOには展示されなかったものの、Compaq ComputerもCrusoe搭載のノートPCを企画しているという。ノートPCに新風を吹き込むプロセッサとして、メーカーからの期待の高さを感じる。あとは、これらの機器が早期に製品化され、比較的安価に市場に投入されることを望むだけだ。
関連リンク | |
PC EXPOに関するニュースリリース | |
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コラム:PC EXPO2000で披露されたCrusoe搭載ノートPC | ||
1.Crusoe成功の秘密 | ||
2.Crusoeの秘密を解く | ||
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