特集
Itaniumの登場でハイエンド・サーバ市場が変わる?
−The eXCHANGEで明らかになったIntelのハイエンド・サーバ戦略−
デジタルアドバンテージ
2000/10/31
|
「ニュース:Intelがe-Businessに関するイベント「The
eXCHANGE」を開催」で紹介したように、2000年10月11日と12日の2日間にわたって、米国サンフランシスコでIntel主催のIT管理者向けのイベント「The
eXCHANGE」が開催された(「The
eXCHANGE開催に関するニュースリリース」)。The eXCHANGEの開催に合わせ、Itanium搭載システムがパイロット・リリース(特定のユーザーに対する限定的なシステム提供)段階に入ったこともあり、各社からItanium搭載システムや対応アプリケーションの発表が行われた。Itaniumがターゲットとする市場は、これまでIntelが得意としていた、クライアントPCやIA(インテル・アーキテクチャ)サーバとは大きく異なっている。Intelも、それを十分に意識しており、これまでのようにプロセッサ単体での発表は行わず、ソリューションを含めたパッケージでItaniumを売り込むことに専念しているようだ。ここでは、Itaniumがターゲットとするハイエンド・サーバ市場について、The
eXCHANGEで明らかになったIntelの戦略と併せて解説しよう。
e-Businessで変わるサーバ市場
現在のサーバ市場は、これまでのエントリ・サーバとワークグループ・サーバ、エンタープライズ・サーバといった分類から、インターネットの普及に伴い、フロントエンド、ミッドティア、バックエンドという3階層(スリーティア:3-tier)のモデルに移行しつつある。このうち、フロントエンドの大半はIAサーバで占められているという。また、ミッドティアについても、IAサーバは順調に伸びており、Intelはこの市場をフロントエンド・サーバ同様、制覇することに自信を持っているようだ。ところが、最近、急速に注目を集めている64bitプロセッサを搭載するようなバックエンド・サーバについては、現在のところハイエンドUNIXサーバの採用が大半を占めており、Sun
Microsystemsのシェアが高い。フロントエンド・サーバで圧倒的な強さを見せるIAサーバは、バックエンド・サーバではほとんどシェアを持っていないというのが実情だ。Itaniumの当面のターゲットは、まさにこのバックエンド・サーバ市場なのである。
|
サーバの3階層モデル
|
インターネット/イントラネットへの接続を前提とし、サーバを用途や稼働させるアプリケーションで分類し、3階層に分けてモデル化したもの。フロントエンド・サーバは、Webサーバやディレクトリ・サービスなどに使われる。このエリアは、サーバ単体の処理能力を高めるよりも、複数台のサーバで分散処理をさせる方が効率的であるといわれている。ミッドティア・サーバは、eコマースやミドルウェア向けのアプリケーションを動かし、フロントエンド・サーバとバックエンド・サーバの間で、処理を仲介する。そして、バックエンド・サーバは、主にデータベースを稼働させることを目的とする。フロントエンド・サーバとは異なり、このバックエンド・サーバの処理性能を上げたければ、サーバ単体の性能を高めるのが効果的といわれている。
|
|
スケールアップとスケールアウト
|
スケールアップは、プロセッサの動作クロックを上げたり、マルチプロセッサ化するなどして、サーバ単体の性能を向上させて処理能力を上げること。これに対しスケールアウトは、ロード・バランシング(負荷分散)などを行って、複数台のサーバに処理を分散させることで、処理能力を上げること。
|
なぜ、Intelがこのバックエンド・サーバ市場にこだわるのか。それは、インターネットの急速な普及と、それに伴う「e-Business」の台頭により、バックエンド・サーバの需要が急速に伸びているからだ。また、ASPなどの新しいコンピューティング環境も登場し、バックエンド・サーバの需要がさらに拡大する一方で、クライアントPCにはこれまでのような性能向上率が求められなくなってきている。クライアントPC用のプロセッサで大きな収益を上げてきたIntelとしては、大きな問題である。これまで、クライアントPCからエントリ・サーバ、ワークグループ・サーバと、順調にサーバ市場のシェアを広げてきたIntelも、インターネットの普及によって、そのテンポを速めて、サーバ市場で大きな利益が上げられる構造をつくる必要に迫られているわけだ。
こうした状態のIntelに対し、以前はワークステーションやエントリ・サーバでもそれなりのシェアを誇っていたSun Microsystemsは、ハイエンド・サーバ(バックエンド・サーバ)市場に追いやられた形となっていたが、ここにきてインターネットの普及が追い風となり、徐々にワークグループ・サーバ(ミッドティア・サーバ)へと再び市場を広げつつある。
また、e-Businessの普及は、併せて企業のコンピューティング環境も大きく変革しつつある。これまで、製造や販売、総務、人事といった各部署が別々に管理していたデータを一元的に管理し、それを見直すことで生産性を向上させようという動きが活発化してきた。例えば、サプライチェーン・マネージメント(Supply
Chain Management:SCM)などもその1つだ。サプライチェーン・マネージメントとは、資材の調達から製造、物流、販売といった製品の流れと、それに伴う情報の流れを管理することで、資材や部品の調達、生産、在庫管理、物流、人員配置などの製品供給に関するプロセスの最適化を行おうというものだ。サプライチェーン・マネージメントを実現するには、これまでの資材調達や製造、物流、販売と別々に管理していた情報を統合し、中央で管理しなければならない。これは、各部署に分散していたサーバを統合し、大規模なサーバですべての情報を管理・処理しようという動きにもつながる。
同様にカスタマー・リレーションシップ・マネージメント(Customer Relationship Management:CRM)*1やビジネス・インテリジェンス(Business
Intelligence)*2といった、情報の一元管理化による生産性の向上についても語られることが多い。ここ20年近く続いたメインフレームの否定から始まったサーバ/クライアント・モデルが、皮肉にもここにきて否定されはじめている。
*1 カスタマー・リレーションシップ・マネージメントとは、顧客と接するすべての部門で顧客情報などを共有・管理することで、顧客に対して素早い対応とよりよいサービスを提供しようというもの。 |
*2 ビジネス・インテリジェンスとは、企業活動に必要な情報の収集・分析を行うことで、ビジネスの意思決定を的確化するためのツールとサービスを統合したもの。 |
この流れに乗り遅れることは、サーバ/クライアント・モデルの普及によって業績を伸ばしてきたIntelにとっては危機的な状況といえる。もちろん、Intelだけでなく、Intelとともにサーバ/クライアント・モデルを推進してきたPCベンダも同様だ。この危機的な状況を打破するための戦略製品がItaniumなわけだ。
System Insider フォーラム 新着記事
- Intelと互換プロセッサとの戦いの歴史を振り返る (2017/6/28)
Intelのx86が誕生して約40年たつという。x86プロセッサは、互換プロセッサとの戦いでもあった。その歴史を簡単に振り返ってみよう
- 第204回 人工知能がFPGAに恋する理由 (2017/5/25)
最近、人工知能(AI)のアクセラレータとしてFPGAを活用する動きがある。なぜCPUやGPUに加えて、FPGAが人工知能に活用されるのだろうか。その理由は?
- IoT実用化への号砲は鳴った (2017/4/27)
スタートの号砲が鳴ったようだ。多くのベンダーからIoTを使った実証実験の発表が相次いでいる。あと半年もすれば、実用化へのゴールも見えてくるのだろうか?
- スパコンの新しい潮流は人工知能にあり? (2017/3/29)
スパコン関連の発表が続いている。多くが「人工知能」をターゲットにしているようだ。人工知能向けのスパコンとはどのようなものなのか、最近の発表から見ていこう
System Insider 記事ランキング
本日
月間