Itaniumの登場でハイエンド・サーバ市場が変わる?

1.Itaniumシステムに積極的なのは日本のコンピュータ・メーカーばかり

デジタルアドバンテージ
2000/10/31

 Itaniumを搭載するサーバやワークステーションは、これまでのクライアントPCに比べて、設計が非常に難しいといわれている。そのため、自社でItaniumサーバの設計・開発が行えるのは、メインフレームやハイエンドUNIXサーバを開発してきたベンダに限られるという。そうしたベンダのうち、日本の大手コンピュータ・メーカーを除くと、IBM、Hewlett-Packard(HP)、Compaq、UNISYS、Sun Microsystemsなど数えるほどになる。このうち、Sun MicrosystemsはすでにItaniumへのSolarisの移植を中止し、Intelと正面から戦う道を選んでいる。CompaqとUNISYSは、すでにItaniumシステムの開発を開始しており、Compaqは今回のイベントでもItanium搭載サーバの展示を行った。

 日本電気、日立製作所、富士通*3の3社は、IDF(Intel Developer Forum:インテルの開発者向けイベント)などのイベントでItaniumサーバやワークステーションを展示しており、Itaniumシステムの開発を行っているのは周知の事実となっている。さらに、今回のThe eXCHANGEで三菱電機がItaniumシステムを展示しており、この市場に参入している日本ベンダはほぼ出そろったことになる。

*3 富士通は、2000年10月25日に発表した「2000年度(平成12年度) 連結および単独中間決算概要」の中で、米国子会社のアムダール(Amdahl)社のIBM互換メインフレームからの撤退と、オープンシステムへのリソース集中を行うとしている。ただし、富士通はSun Microsystemsから「Sun Enterpriseシリーズ」などのOEM供給を受けていることから、この「オープンシステム」にはIAサーバとともにSun Microsystemsのサーバ群も含まれていると思われる。

 微妙なのは、IBMとHPの立場だ。この両社は、すでに自社のプロセッサを使ったハイエンドUNIXサーバを販売している(HPは、日本電気と日立製作所にサーバのOEM供給も行っている)。その一方でItaniumシステムの開発も並行して行っているのだ。HPは、Intelと共同でIA-64アーキテクチャを開発したこともあり、IA-64のプロジェクトが発表された当初は、積極的なItanium推進派であった。自社のプロセッサであるPA-RISCを、Itaniumに置き換えていくという発表も行っていたくらいだ。ところがここ1年ほどは、むしろItaniumに対して消極的な姿勢に変わってきている。正式なコメントではないものの、「現在のItanium(開発コード名:Merced)を搭載するシステムを出荷する予定はない」という話も伝わってきている。

 同様にIBMも、これまでSCO、Intelと共同で行ってきたプロジェクト・モントレー(Project Monterey)という、AIX(IBMのUNIX系OS)とUNIX Ware(SCOのUNIX)を融合してIA-64上に移植するプロジェクトを解消し、AIX 5LをIA-64に対応させる方向に転換した。この方針転換は、IBMとしてIA-64へのコミットを強めた印象を受けるが、むしろSCOやIntelの束縛から逃れるためだったようだ。プロジェクト・モントレーでは、共同開発ということもあり、SCOやIntelの都合も尊重しなければならなかった。今回、プロジェクトを解消したことで、リリース時期なども自社の判断で決めることが可能になった。実際、今回Itaniumシステムがパイロット・リリース開始となったものの、IBMはItaniumシステムも、Itanium対応のAIX 5Lも公開していない。プロジェクト・モントレーを発表したときに比べると、かなりトーン・ダウンしている。

 実は、この2社がItaniumシステム普及のカギとなりそうなのだ。ハイエンドUNIXサーバの市場では、1位のSun Microsystemsに続き、HPとIBMが続いている。IDC(International Data)の調査によれば、2000年第1四半期のハイエンドUNIXサーバにおけるSun Microsystemsのシェアは、前年に比べ83%の成長で、42%に達したという(Sun Microsystemsの「IDCの調査に関するニュースリリース」)。それに対し、HPは23%、IBMは5%のシェアに甘んじている。このことからも、この2社が非常に難しい立場に立たされていることが分かる。

 現状のままでは、さらにSunのシェアが増大することは確実である。さらにItaniumがこの市場に殴り込みをかけてくるので、シェア争いの激化が予想される。とはいえ、Itaniumを全面的に採用するとなると、デスクトップPCやエントリ・サーバと同様、ハードウェア的に他社との差別化が難しくなり、価格競争に陥ることは明らかだ。かといって、自社プロセッサで突き進んでシェアを確保できる保証はない(実際、現在ジリ貧状態に陥っている)。Itaniumを採用すると表明しているものの、現在のハイエンドUNIXサーバとどのように棲み分けるのかを決めかねているというのが実情だろう。HPやIBMの態度がはっきりせず、今回のThe eXCHANGEでItaniumシステムを公開しなかったのには、このような事情があると思われる。一方のIntelとしては、IBMとHPを味方につければ、すでにハイエンドUNIXサーバで実績があることから、Itaniumの立ち上げが加速すると期待している。

 日本のメーカーが、明確にItaniumに積極的なのは、自社でハイエンドUNIXサーバを持っておらず、現状はHPやSunからのOEMに頼らざるを得ないからだ。急速に伸びつつあるこの市場をOEM製品でカバーしていたのでは、利益が出ないばかりか、コンピュータ・メーカーとしての存続さえも危うくしてしまう(単なる販売店になってしまう)。これから自社でプロセッサを開発する余力がない以上、Itaniumに賭けるのは必然ともいえるわけだ。

日本電気のItanium搭載サーバ「AZUSA」 三菱電機のItanium搭載サーバ
The eXCHANGEで展示された日本電気のItanium搭載サーバ。 Itaniumを16個搭載し、OSにはLinuxを採用する。ホットスワップによるCPUセル・カードの交換や128Gbytesまでのメモリ拡張、PCIバスを32本持つなど、ハイエンド・サーバにふさわしい機能を持っている。 The eXCHANGEの展示会場の隅にさりげなく展示されていた三菱電機製のItanium搭載サーバ。サーバのモデル名も表示されておらず、プロセッサ数などの構成も不明。ただ、三菱電機もItanium搭載サーバの開発を行っていたことは明らかになった。

関連リンク
2000年度(平成12年度) 連結および単独中間決算概要
IDCの調査に関するニュースリリース
 
 

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    2.垂直統合型と水平分散型のビジネス・モデル
 
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