Security&Trust トレンド解説

巨人たちを中心に再編の進むセキュリティ業界
〜シマンテックのベリタス買収、マイクロソフトの参入で
 2005年は波乱の年に

鈴木淳也(Junya Suzuki)
2005/2/19


 Microsoft Windows AntiSpywareの実力は?

 ここで実際に、Microsoft Windows AntiSpywareがどの程度のソフトウェアなのかを検証してみよう。米マイクロソフトでは同製品の専用ページを用意しており、そこから製品の詳細の参照のほか、ベータ版のダウンロードが可能となっている。現在提供されているのは英語版のみだが、ローカライズが行われていないだけなので日本語版Windowsにインストールしても問題ない。注意事項としてはベータ版故にマイクロソフト側で動作保証を行っていないことだ。これが原因で重要なファイルやレジストリが破壊される可能性もある。利用の際にはメインマシンを避けるか、あらかじめバックアップをとっておくべきだろう。

 Webサイト上で必要事項の記入を行えば、すぐにダウンロードが可能である。インストール自体もシンプルで、途中で製品のオートアップデートをかけるかどうかの確認が行われるくらいである。製品の使用感としては、Spybotなどの他社製品に比べて全体スキャンの時間が短くスキャン効率が高い印象がある。実は、製品のインストール直前に別の2製品でスパイウェアのスキャンを行っていたのだが、その直後にもかかわらずMicrosoft Windows AntiSpywareで3つほど新たにスパイウェアを検出することに成功した。

米マイクロソフト会長兼チーフアーキテクトのビル・ゲイツ氏

 もともと製品として提供されていたものを買収し、そのまま自社製品として提供しているので製品としての完成度がある程度高いのは当然だろう。ただ、スパイウェア検出後に除去作業を行ったとたんにWindowsがネットワークに接続できなくなるトラブルが発生した。除去の際にWinSockの設定ファイルを破壊してしまったのが原因のようで、マイクロソフトのWebページにあるヘルプ情報に従って修復した。今回は事なきを得たが初心者には難しい作業だろう。製品としての潜在能力は高いので、ある程度実力のあるユーザーならベータ版を試してみる価値はあるだろう。

 米マイクロソフト会長兼チーフアーキテクトのビル・ゲイツ氏によれば、Microsoft Windows AntiSpywareのベータ版はすでに500万本以上がダウンロードされたという。さらに同氏は、製品版に移行後もソフトウェアやアップデータの無償提供を続けるとも述べている。

 企業ユーザーをもターゲットにするマイクロソフト

 マイクロソフトがアンチウイルス市場への参入を表明してから、まだ具体的なアクションは取られていない。唯一の行動と呼べるのが、2005年1月からWindows Updateの一部として提供され始めた「悪意のあるソフトウェアの削除ツール」というアップデータだ。これは、Blasterなどの過去に大きな問題となったウイルス/ワームを除去するツールで、ウイルスなどに対して未対策だったPCにおいて効果がある。すでにアンチウイルスソフトウェアが導入され、以前よりまめに対策が行われているPCには意味がないのであくまで補助的な対策だと考えていいだろう。

 だがこうした状況の下で同社は2月8日、米ニューヨークを本拠とするSybari Softwareの買収計画を発表した。SybariはMicrosoft Exchange ServerやLotus Domino(Notes)などの企業向けコラボレーションソフトウェアに、アンチウイルスやアンチスパムなどのメールフィルタ機能を提供する企業である。Sybariの買収が進むことで、同社はExchangeとOutlookを組み合わせたアンチウイルスソリューションを展開していくことが見込まれる。

 前出のように、マイクロソフトはアンチウイルス市場への参入に際して、個人向けをターゲットとすると発表しているが、Sybariの買収は同時に企業市場への参入も示唆している可能性がある。同社はSender IDの策定作業で中心となってかじ取りを行うなどアンチスパム分野でも強い影響力を行使しようと考えている。

 Sybariの製品はサーバ側が中心のため、現状でシマンテックやマカフィーなどのサードパーティの企業クライアント向けソリューションとすみ分ける形になっている。また、マイクロソフトが提供を予定しているWindowsクライアント向けのアンチウイルス製品はあくまでアンチウイルス機能が中心であり、他社の統合型製品に見られる機能間の連携や中央からの集中管理の機能は当面は提供されないだろう。だが、マイクロソフトはアンチウイルス、スパイウェア、スパム市場での勢力を強めており、サードパーティにとって最後の牙城である企業クライアント向け市場を侵食しない保証はない。シマンテックのベリタス買収はこの懸念の延長線上にあると考えられる。

 シマンテックのベリタス買収を考える

 マイクロソフトの勢力拡大が意味するのは、今後セキュリティソフトウェアの分野において、ポイントソリューションのみを提供する企業は生き残るのは難しいということだ。よほどニッチか、あるいは製品が強力でない限り、マイクロソフトが進出した分野で生き残っていくことは難しいだろう。

米シマンテックCEOのジョン・トンプソン氏

 米シマンテックCEOのジョン・トンプソン氏はRSA Conference 2005の基調講演で「マイクロソフトがカバーするのはWindowsの世界だけだ。シマンテックはヘテロジニアスな混在環境を統合管理できるのが強み」と自社製品のメリットを述べている。だが企業内のWindowsマシンの台数を考えれば、必ずしもこの戦略が通用するとは限らない。

 ここで鍵となるのが機能の統合だ。マイクロソフトでは複数のセキュリティソリューションを提供しているが、現在のところ、それらは互いに独立した存在であり、その結合は緩やかだ。一方で、サードパーティの製品は複数機能を統合する方向で進んでおり、こうした製品の方が好まれる傾向にある。そもそも、アンチウイルス、アンチスパイウェア、アンチスパム、広告除去などに、個別のスキャン作業や設定によって対処するのは非常に面倒だ。一括して最新情報へとアップデートとスキャン処理が行えれば、そちらの方が便利なのは当然である。

 また、ネットワーク企業のシスコシステムズが掲げるNAC(Network Admission Control)構想のように、ネットワーク機器製品とソフトウェア製品がマルチベンダ環境下で連携するアライアンスもユーザーにとっては大きな意味を持つ。NACに限らず、今後もこうしたハードウェアベンダとソフトウェアベンダ間での提携が進んでいくことだろう。

 このロジックでシマンテックのベリタス買収を考えると、どのような効果が考えられるのだろうか。1つは、システム管理に関するソリューションをすべて1つにまとめ、統合製品として提供する可能性だ。シマンテックのセキュリティ、ベリタスのストレージ管理がそろったことで、あとはネットワークそのものの管理を行うソリューションさえそろえれば、ほとんどの管理業務を1社の製品に集約することが可能になる。

 現在不足しているのは、ネットワークのパフォーマンス管理とトラブル解決のツール、サーバの稼働状況監視モニタなどである。製品でいえば、HP OpenViewの一連の製品群が持つ機能が該当する。もしこれら機能の取り込みに成功すれば、シマンテックのライバルは、マイクロソフトに加え、IBMやコンピュータ・アソシエイツなどもターゲットとなる。これにより同社は、セキュリティ企業からシステム管理企業へと変ぼうしていくのかもしれない。

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Index
巨人たちを中心に再編の進むセキュリティ業界
  Page1
企業向け市場への急速シフトを進めるシマンテック
マイクロソフトがアンチウイルス、スパイウェア市場へ参入
Page2
Microsoft Windows AntiSpywareの実力は?
企業ユーザーをもターゲットにするマイクロソフト
シマンテックのベリタス買収を考える



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