Security&Trust トレンド解説
巨人たちを中心に再編の進むセキュリティ業界
〜シマンテックのベリタス買収、マイクロソフトの参入で
2005年は波乱の年に
鈴木淳也(Junya Suzuki)
2005/2/19
最近のセキュリティ業界での最も大きなニュースといえば、2004年12月16日に米シマンテックが発表した米ベリタスソフトウェア買収のニュースだろう。シマンテックは、アンチウイルスやパーソナルファイアウォールなどのクライアントPC向けセキュリティ製品のほか、Norton Utilitiesの名称で有名な各種ユーティリティ製品で知られる企業である。一方でベリタスは、Backup Execというサーババックアップソフトウェアでトップシェアの製品を擁するストレージ管理業界の重鎮といえる企業である。一見、コラボレーションする取っ掛かりが見えない両社の合併だが、2005年以降に起こるとみられるセキュリティ業界の地殻変動をにらんだ先行的な戦略である。
企業向け市場への急速シフトを進めるシマンテック |
元来シマンテックは、個人向け市場で大きな勢力を築いてきたメーカーだ。アンチウイルスソフトウェアのNorton AntiVirusを皮切りに、ファイアウォールなどの機能も組み込んだ総合セキュリティ製品のNorton Internet Security(NIS)をリリースしている。最近ではアンチアドウェアやアンチスパムなどの機能もNISに取り込んでおり、クライアントPCのセキュリティ対策をすべて1つのソフトウェアでカバーする方向になりつつある。同社では、個人向け市場でのアドバンテージを生かしつつ今度は企業向け市場での勢力拡大を目指していると考えられる。
その動きは、Symantec Client Security(SCS)という企業ユーザー向けの総合セキュリティ製品をリリースしていることからもうかがえる。SCSの基本機能はNISとほとんど同等だが、企業内の各クライアントPCにインストールし、中央からその稼働状況を監視したりポリシーやウイルスパターンの一斉アップデートをしたりできる。企業において、PC全体のウイルススキャンの実行は個人の裁量に任されているケースが多いと思うが、SCSではそれらをすべて中央で管理・コントロールすることでシステム全体のセキュリティを高めている。
現在クライアントPC向けセキュリティ製品としては、シマンテックのNortonシリーズ、トレンドマイクロのウイルスバスターシリーズ、マカフィーのマカフィーシリーズという3種類のメジャー製品が市場に出回っている。それぞれに得手・不得手があるものの傾向として個人向け分野ではシマンテックの製品が強く、企業向けにはマカフィーの製品が強いといわれている。シマンテックとしてはSCSを推進しつつベリタスを取り込むことで、これまで比較的手薄だった企業向け市場へのプレゼンスを高める狙いがあるのだろう。
マイクロソフトがアンチウイルス、 スパイウェア市場へ参入 |
シマンテックが急速に企業向け市場を狙うのには理由がある。ソフトウェア業界の巨人マイクロソフトが間もなくセキュリティソフトウェアの分野に進出してくることが明らかになっているからだ。
米ロイター通信が2004年夏、マイクロソフトがアンチウイルス製品市場に参入を計画していると報道した。同社ではすぐにその情報を否定したものの、その後続々と関連情報が出てきたことで市場への参入は時間の問題だと考えられるようになった。ZDNet Franceが7月に報道した情報によれば、同社の製品は2003年に買収したGeCadとPelican Softwareという2つのセキュリティ企業の技術がベースになっており、当面は個人向けが中心で提供形態や価格などについては不明ということである。マイクロソフトでは2004年8〜9月、Windows XP用にService Pack 2をリリースしており、パーソナルファイアウォールなどのセキュリティ対策に必要な機能の標準提供を行っているが、SP2にはアンチウイルスや最近急増するアンチスパイウェアなどの製品が含まれておらず、ここにサードパーティが活躍する余地が残されていた。
だが同社がアンチウイルス市場への参入を表明したことで、今後個人向け市場でサードパーティが活躍する場が縮小する可能性が出てきた。たとえマイクロソフトが本体への標準添付を行わなかったとしても、無料でダウンロードできたり安価に更新サービスを提供したりすれば、多くのユーザーはマイクロソフト製品を使うようになるだろう。
マイクロソフトの動きはこれだけにとどまらない。2004年12月、同社はセキュリティ企業のGiant Softwareを買収しアンチスパイウェア市場への参入を表明した。Giant SoftwareはAntiSpywareという製品の開発と販売を行っている企業であり、すでにそれなりの評判を得ている。マイクロソフトは1月初旬に、AntiSpywareを「Microsoft Windows AntiSpyware」という製品名に改称し、ベータ版の提供を同社Webサイト上で開始した。現在は無料でダウンロード可能だが、これが正式版としてリリースされた段階で有料化されるのか、あるいは更新サービスがどのような形態で提供されるのかは原稿執筆時点では不明である。
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巨人たちを中心に再編の進むセキュリティ業界 | |
Page1 企業向け市場への急速シフトを進めるシマンテック マイクロソフトがアンチウイルス、スパイウェア市場へ参入 |
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Page2 Microsoft Windows AntiSpywareの実力は? 企業ユーザーをもターゲットにするマイクロソフト シマンテックのベリタス買収を考える |
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