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システムインフラベンダ ブリーフィング(9)

ヴイエムウェアがvSphereを「クラウドOS」と呼ぶ理由


三木 泉
@IT編集部
2009/6/16

ヴイエムウェアが2009年5月下旬に出荷開始した仮想化プラットフォーム製品の新バージョン、「VMware vSphere 4」。同社はこれを「クラウドOS」と呼ぶ。その真意は何か。また、今後予想されるマイクロソフトの追撃をどうかわそうとしているのか

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 ヴイエムウェアは、仮想化プラットフォーム製品の新バージョン、「VMware vSphere 4」を2009年4月22日に発表、5月21日に出荷開始した。

 前メジャー・バージョンの「VMware Infrastructure 3」発表から約3年。マイナーバージョンアップながら大幅に機能が強化された「VMware Infrastructure 3.5」の発表からは約1年。vSphere 4では、仮想マシン当たりの対応CPU数やメモリ容量を大幅に向上するとともに、無停止サーバを実現する「VMware FT」などの機能を投入。同社としては初めて、中小企業向けに専用のパッケージを提供開始した。

 ヴイエムウェアは2008年時点では、同社の仮想化プラットフォームを「Virtual Data Center OS」(仮想データセンターOS)に進化させると説明していたが、vSphere 4の発表に合わせて「クラウドOS」という表現を持ち出した。その真意は何か。また、マイクロソフトに駆逐されないためのカギとは何か。以下に、米ヴイエムウェア サーバ ビジネス部門担当副社長 ラグー・ラグラム(Raghu Raghuram)氏へのインタビュー内容の抜粋をお届けする。太字は編集部による質問である。

 「クラウドOS」は新たな製品カテゴリだ

 自社の仮想化プラットフォームの最新版としてのvSphereをどう形容するか。

 われわれは単一サーバを対象としたシンプルな仮想化から始め、VMotionやDRSで複数のサーバの管理に進化させてきた。新製品はこの流れに沿ったものだ。

 提供する機能という点からは革命的な製品だともいえる。初めて、われわれは説得力をもってすべての顧客に対し、あらゆるアプリケーションが仮想化プラットフォーム上で稼働できるということを示すことができた。100%仮想化されたデータセンターの世界が、vSphereで開けたことになる。

 また、今回のリリースで、社内データセンターが、グーグルのようなメガ・クラウドデータセンターと同等の効率性と管理性をもって稼働できるようになった。特にVMware FT機能は、1クリックであらゆるアプリケーションを対象に、フォールトトレランスを実現できる。つまり、物理環境では実現できなかったような、新次元のセキュリティや可用性機能を投入している。

 つまり、進化と革新を双方兼ね合わせたのが今回のリリースだといえる。

 製品のパッケージングに関しては、より手の届きやすいようにする取り組みが見られるようだが、これについてはどう説明するか。

 新しい機能の導入によって、小規模な顧客と大規模な顧客の双方に対応できるようになった。

 vSphere Essentialsは、中小規模の顧客のための製品だ。20台、25台といった数の物理サーバを持っているなら、これを3台のESXに集約し、可用性をはじめとした魅力的な機能を、安価に使うことができる。つまり、われわれは、仮想化を中小企業にとって身近なものにした。

 また、新しい革新的な機能を中堅レベルの企業に使ってもらえるように、パッケージングで努力した。VMware FT機能はEnterpriseやEnterprise Plusだけでなく、(中堅向けの)Advancedパッケージにも組み込んでいる。VMotionやセキュリティゾーニング機能(vShield Zones)も中堅向けのパッケージに組み込んだ。

 あまり大規模な環境を運用するつもりがなくても、仮想化環境の可用性、セキュリティ、信頼性に興味がある中堅企業のために、多数の新機能を提供している。

 ハイエンドの顧客に対しても新たな機能を提供し、小規模と大規模の双方に対象を広げている。

 Advancedが最も人気のエディションになるということか。

 Advancedはメインストリームの顧客のうち多くにとって非常に魅力的だと思う。20〜30以上のESX環境になってくると、Enterprise Plusの機能が魅力的になってくる。DRSや電源管理、シスコ製品との互換性などだ。こうした機能を使って、顧客はデータセンターを単なるサーバの集合体でなく、社内クラウドのように管理することができる。中堅のメインストリーム顧客で、強靭な本格的仮想化環境を運用したい場合はAdvancedを選ぶだろう。

 VMware vSphere 4について、ヴイエムウェアは「クラウドOS」という表現を使っているが、これはパブリック・クラウドサービスを提供するグーグルやアマゾンと同じ土俵に立つような誤解を受けるリスクがあり、あまり適切ではないのではないか。どういう意図で「クラウドOS」という表現をしているのか。

 CIOの人たちと話すと、彼らはグーグルやアマゾンがやっている(クラウドサービス)の考え方を気に入っていることが分かる。これらのサービスが提供するメリットとして、次のことがいえる。

 第1に、彼らは業界標準のハードウェアを用いている。第2に、キャパシティは事前に決まっているものでなく、すべてが動的に変更できて柔軟性が高い。第3に、アプリケーションの可用性を高めるためにこれまでと異なるモデルを提示している。サーバに障害が発生した場合に、グーグルやアマゾンはこのサーバに技術者をすぐに派遣して修理をするというようなことはしない。ハードウェアベンダに電話をかけるということもない。ソフトウェアが自動的にこのサーバを無視し、残りのサーバで稼働を続ける。毎週1回くらい、見習いの人が故障したハードウェアを新しいものとつなぎ変えるくらいだ。つまり、大規模データセンターの運用の方法がこれまでと大きく異なる。

 彼らは大規模なサービスデスク/ヘルプデスク機能を持っているわけでもない。Amazon EC2の場合、クレジットカードを持っていれば、仮想マシンを設定し、アプリケーションを指定するだけで、すぐに利用開始できる。すべてがセルフサービスだ。

 企業のCIOも、自社のデータセンターを同じように運用したいと考えている。

 そこでわれわれがいっているのは、これを実現するために新たなクラスの技術が必要だということだ。これは通常のOSではない。なぜなら通常のOSは1台のサーバしか管理できないからだ。複数の汎用サーバにまたがって管理するものでなければならない。仮想化された演算処理、ストレージ、ネットワークを提供できるものでなければならない。また、OS的なソフトウェアが、基盤となるハードウェアの可用性や障害を管理できなければならない。セルフサービスを実現できる必要もある。

 われわれは新しい技術カテゴリが必要だと考えていて、これを「クラウドOS」と呼んでいる。アマゾンなどとの類似点は、顧客が得られるメリットにある。しかし重要な違いとして、多くのCIOはアプリケーションを書き換えたくはないということが挙げられる。

 しかし、アマゾンがオープンソースXenを使っていることは周知の事実で、稼動環境を限定しているのはポリシー的な意図に基づくことではないのか。

 たしかにアマゾンはXenを使っているが、これを多数の独自ソフトウェア群で覆っている。仮想マシンのコンテナがXenだというだけだ。可用性確保やファイアウォール、仮想マシンイメージの管理など、多くがアマゾン独自の技術だ。こうした技術も含めて、われわれは「クラウドOS」と呼んでいる。

 アマゾンはこれを現在サービスとして提供している。われわれは顧客に対し、アマゾンのような世界まで連れていけると同時に、同社が現在提供していない重要なメリットを提供できると話している。

 第1に、LinuxやWindowsなど、あらゆるアプリケーションを、仮想マシンを通じて非常に良好に稼働することができる。第2に、社内データセンター内でもこれを動かすことができる。データセンター管理者が望むセキュリティも確保できる。第3に、エンタープライズ向け機能の充実がある。例えば、アマゾンではCPUを保証することができない。仮想マシンを「大」「中」「小」から選べるだけだ。つまり仮想マシンやアプリケーションが利用するリソースを指定できない。セキュリティモデルは単純なファイアウォールで、ゾーニングなどはできない。われわれは、複数のクラウド環境を、フェデレーション(連携)によってつなぐこともできる。

 このように、われわれはクラウド的なインフラの上で、もっとエンタープライズ的なデータセンター機能を提供できると考えている。われわれがvSphereを「クラウドOS」と呼ぶ理由はここにある。将来は、ほかからもクラウドOS的な製品が登場するだろう。これは新たなソフトウェア製品カテゴリになるはずだ。

 
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Index
ヴイエムウェアがvSphereを「クラウドOS」と呼ぶ理由
Page1
「クラウドOS」は新たな製品カテゴリだ
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ヴイエムウェアは第2のネットスケープにならない

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