システムインフラベンダ ブリーフィング(11)
ITインフラの仮想化にはコスト削減の先がある
三木 泉
@IT編集部
2009/9/24
仮想化やクラウドの注目度が高まっているが、こうした言葉から想起するイメージは人によってまちまちだ。日本IBMはこれらのトレンドで、特にリアルタイム性を強調する。従来のトランザクション系、バッチ処理とは性質が異なり、データの量も頻度も予測できないなかで、複数のシステムを一気通貫で情報をその都度処理していく世界だ。 |
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仮想化を前提としたサーバの調達を考える人々が急速に増えている。サーバ仮想化は明らかに現在のIT業界における最大の潮流の1つだ。しかしその一方で、CPUやチップセットは仮想化への対応による差別化を進めているものの、サーバ機の世界では画一化が進んできているようにも見える。
IBMはサーバ仮想化で何を目指し、製品では具体的にどのような差別化を進めているのか。日本IBMのシステムズ&テクノロジー・エバンジェリスト、佐々木言氏と早川哲郎氏に聞いた。太字は編集部による補足である。
佐々木氏は、仮想化はコスト削減が大きなメッセージだが、それだけではないと強調する。IBMは最近、ビジョンとして「Smarter Planet」を掲げ、これを実現するインフラは「Dynamic Infrastructure」 (ダイナミック・インフラストラクチャ)だとアピールしている。これらはサーバ仮想化と、密接な関係にあるという。
Smarter Planetとダイナミック・インフラストラクチャはビジョンであるとともに、新しいビジネス形態を指向する考え方でもある。「Smarter」という言葉は「賢い」という意味だが、「無駄のない」と解釈できる場合もある。つまりSmarter Planetは、「もっと効率的な地球」を目指すということでもある。
一方、ダイナミック・インフラストラクチャのビジョンにおいて、私たちは企業基盤をビジネスインフラの融合体だと考えている。例えば百貨店やデパートなら、店舗がビジネスインフラだといえる。では、これまでITインフラとビジネスインフラが本当に効率的につながっていただろうか。これを見直して2つを効率的につなげ、無駄のない、賢い地球のインフラを構築していくというのがダイナミック・インフラストラクチャのビジョンだ。
仮想化はリアルタイム性のために必要
ITインフラとビジネスインフラをつなげるときには、温度センサで空調を制御するなど、さまざまなセンサとITを融合させる必要がある。これを実現するというのがダイナミック・インフラストラクチャだ。タクシー会社で客から連絡を受けると、その客の位置情報を取得し、車両の位置情報と照らし合わせて最適な配車をするといった例が考えられる。キーワードはリアルタイムだ。
日本IBM システム製品事業 システムx事業部 テクニカル・セールス システムズ&テクノロジー・エバンジェリスト ICP・コンサルティングITS 佐々木 言氏 |
リアルタイム性を特徴とする情報処理は、従来のトランザクション系、バッチ処理とは性質が異なる。データの量も頻度も予測できない。これを即時に、複数のシステムを一気通貫でその都度処理していく世界だ。
こういうデータを扱う際に、仮想化という概念が必要になってくる。従来のITシステムはサイロ型で密結合であり、サーバ単位で能力を増やしていくしかなかった。これが仮想化になると、サーバはハイパーバイザのうえで仮想マシンという単位で動く。そしてリソースの空いているところに仮想マシンを動的に配置して、余っているリソースを使っていける。そういう意味で、仮想化による共通基盤を構築することが重要だ。こうした基盤の上で動くデータベースの処理能力拡張についても、グーグルなどが使っているBigTableのような、従来のリレーショナルデータベースでないものも注目される。つまり、単純なコスト削減だけがサーバ仮想化の意味ではない。これが第1のポイントだ。
これは「クラウド」の動きともかかわってくる。IBMは外部サービスとしての「パブリッククラウド」と、企業が社内にインフラを持つ「プライベートクラウド」の双方で、ITインフラの提供を進めている。社内ITインフラのプライベートクラウド化は、オンデマンドでのリソース提供を意味すると佐々木氏は説明する。
典型的なクラウドサービスに見られる側面の1つは、ユーザーがコンピュータ環境を欲しいというときにすぐ提供することにある。そういう環境を自社内で作っていくのがプライベートクラウドだ。今後はさらに、あるときはパブリックを使い、別のときはプライベートといったハイブリッド的なものも出てくる。こういう考え方もSmart Planet、ダイナミック・インフラストラクチャというビジョンのもとで説明できる。ビジネスとITが融合した世界は、ハードウェアを買ってきてOSを入れて、アプリケーションを入れて環境を設定して、というスピード感ではない。
IBMは、管理ツールの「Tivoli Provisioning Manager」で、まさにそのような形を目指している。あらかじめ定義されたバーチャルアプライアンスを用意しておき、これを必要に応じて構成を加えて展開できる。
では、IBMのいう仮想化共通基盤はどのような仮想化技術で構成されるのか。特にx86サーバではさまざまな仮想化技術が登場してきており、利用する側は混乱しがちだ。
IBMは、仮想化という観点からzVM、PowerVMを提供してきた。x86系の世界ではVMware、Xen、Hyper-V、KVMを採用している。IBMでは、これらを適材適所で使うことを考えている。
仮想化共通基盤は複数のプール(リソースのグループ)で定義できる。レスポンス、ダウンタイムなどシステムの機能要件に合わせて、これらを使い分けることができる。言い替えれば、業務に求められる要件が決まると、これを支えるものがPowerベースのシステムなのかメインフレームなのかが必然的に決まる。同様x86の仮想化の世界でも、VMware、Xen、Hyper-Vなどを、業務要件によって選択できる。いまの仮想化はそれぞれ特性があり、使い分けがしやすい。
IBMのサーバ管理ツール「Systems Director」は、当社のサーバ群すべてをサポートするようになってきている。その上に「Virtualization Manager」というプラグインがある。そのプラグインでPowerVM、VMware、Xenを一元的に1つの画面で管理できるようになっている。zVMにも「zVM Center」というプラグインが用意されているため、zVM環境も含めて1つの画面で見られるようになってきている。適材適所を考えるとハイパーバイザは複数になってくる。IBMではこれをいかに管理するかにいち早く注目し、管理ツールを2年半くらい前から出している。
将来的に向けても、複数のハイパーバイザを使いながらも共通のインターフェイスを提供する取り組みを進めていく。下位のレイヤではさまざまな仮想化技術が使われていても、上位レイヤからは同じように見せられるに越したことはないからだ。
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Index | |
ITインフラの仮想化にはコスト削減の先がある | |
Page1 仮想化はリアルタイム性のために必要 |
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Page2 IBMのサーバはほかとどう違うのか |
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