データセンター省電力化の実像
三木 泉
@IT編集部
2009/1/6
グリーンITに関連して、企業や商用のデータセンターでは、IT機器以外の要因による電力消費/損失を最小化することが大きなテーマとなってきている。本記事では、しばしば指標として利用されるDCiEの意味や現実的な対策について検討する |
DCiEは万能ではない
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本稿では、グリーンITにおける重要トピックの1つである企業データセンターでの電力効率向上につき、特にIT機器以外の電力消費および電力損失対策の実状について説明する。
企業データセンターにおける電力利用効率の向上と、これによるCO2の削減を推進するための指標として、よく引き合いに出されるのは、グリーン・グリッドの提唱するDCiE(Data Center infrastructure Efficiency)だ。文字通り、企業データセンター・インフラの電力効率を示す数値で、次の式で表される。
企業データセンターに供給される電力は、IT機器に到達する前に、無停止電源装置や分電盤などで一部が失われる。また、データセンターでは、IT機器が発する熱を抑え、その動作に適した環境温度を維持するための空調が必要で、これにも電力が使われる。データセンターに供給される電力のうちできるだけ多くがIT機器に使われることを「効率」と捉えれば、DCiE値を向上することがグリーンIT活動の目標の1つになる。
この指標は、企業データセンターにおける電力利用には多くの「無駄」があるということに気付かせてくれる。また、個々の企業におけるITの規模が大きくても小さくても、ITの電力利用効率を向上する取り組みにおける定量的な目安として利用できるというメリットを持っている。DCiE値が上がるということは、同一の電源供給量でより多くのIT機器を稼働できることを意味するため、容量限度に近づいたデータセンター・インフラの延命にもつながる。
しかし、空調ニーズや電力変換ロスが存在するかぎり、DCiEを100%にすることはほとんど不可能だし、100%を目指す必要もない。また、DCiE値はIT機器の消費電力が増加することにより、何の改善努力もせずに上昇してしまうことがあり得る。逆に、電力効率の高いサーバ機に乗り換えるなど、IT機器側での消費電力が減少するだけで、DCiE値が低下することも十分考えられる。このため、DCiE値の向上は、それだけでは目標として十分でない。IT機器における電力消費を抑制しながら、これと並行してDCiEの向上を図ることで、全体としての電力消費を抑える必要がある。
グリーン・グリッドも、DCiEを唯一の指標として推進しているわけではなく、複数の指標の整備を進めている。
一般的なデータセンターのDCiEは本当に30%か
DCiEは万能といえないにもかかわらず、注目を集めるようになった理由の1つとして、「一般的なデータセンターのDCiEは30%」と伝えられたことが挙げられる。DCiEを解説したグリーン・グリッドのホワイトペーパー「エネルギー効率のよいデータセンタのガイドライン」(PDF)にも、下のような図が登場する。図には、「この図は定格容量の約30%で稼働している、2N電源とN+1 冷却設備を持つ典型的なデータセンタに基づいています」との但し書きがついている。
図1 グリーン・グリッドのホワイトペーパー「エネルギー効率のよいデータセンタのガイドライン」に掲載されているデータセンター消費電力の内訳の図 |
IT機器以外の電力消費(あるいは損失)が70%も占めていると聞かされれば、これを無視することはできなくなる。もっとも、グリーン・グリッドは別のホワイトペーパー「グリーン・グリッドのデータセンタ電力効率指標:PUEとDCiE」で、「(ローレンス・バークレー国立研究所が実施した調査では)測定を行なった22のデータセンタでPUEの値が1.3〜3.0の範囲内でした。また、設計が適切なら2.0が実現可能とする調査結果もあります」としている。PUE(Power Usage Effectiveness)はDCiEの逆数なので、同研究所の調査結果ではDCiEの値が33〜77%だったことになる。日本のデータセンター事業者では、DCiEが50%を多少下回るレベルが多く見受けられるようだ。
実際のDCiE値は、個々の環境によって大きく異なる。しかしここでは、前述のDCiE=30%の図に従って、DCiE値を低下させる要因を検討してみたい。
この図から分かるのは、冷却装置(チラー)とCRAC(コンピュータ室内空調設備)を合わせて42%と、冷却が最大の要因になっていることだ。さらに目立つのは無停電電源装置(UPS)で、18%の電力ロスを生じている。これに配電関連ロスとしてPDU(分電盤)の5%を加えれば、23%に達する。
UPSにおける電力損失の中身
なぜUPSでこれほどのロスが生じるのか。その手がかりは図の説明にある。「定格容量の約30%で稼働している」「2N電源」の2つの要素が、UPSの利用効率を大きく引き下げている。
UPSや冷却装置のメーカーであるAPCによるホワイトペーパー「データセンタの電力効率のモデル化」は、このことを明確に示している。このホワイトペーパーによると、一般的なUPSでは、IT機器の負荷が100%であれば効率は91%(つまり電力損失は9%)だが、負荷が60%では88%、30%では80%と、負荷が小さくなるほど効率が大きく低下する。これは負荷率に比例する損失に加え、負荷率にかかわらず固定量で発生する損失が定格の4%程度存在するからだという。負荷がどのレベルにあっても、最大負荷時と同一ワット数の損失が発生するため、負荷が小さくなればその分だけ損失分が比率として目立つようになってくる。実際にはUPSの方式によって損失レベルは異なるが、IT負荷との相関関係は類似している。
また、「2N電源」ということはUPSを二重化していることを意味する。この構成では、IT機器の電力負荷が2つのUPSユニットに分散される。このため、それぞれのUPSにおける負荷率が2分の1になり、効率はより大きく低下する。
これらのことから、UPSを原因とする電力損失を減らすには、UPSユニット当たりの負荷率を高めることが効果的であり、構成も2NよりN+1として冗長度を下げたほうが効率の観点からは有利であるということができる。つまり根本的には、オーバースペックなUPSの稼働をどう避けるかが課題となる。
ただし、現実にUPSで18%ものロスが発生することは、最近のUPSでは考えられないと、APCジャパン ソリューション事業部 ビジネスデベロップメント ディレクターの有本一氏は話している。
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データセンター省電力化の実像 | |
Page1 DCiEは万能ではない 一般的なデータセンターのDCiEは本当に30%か UPSにおける電力損失の中身 |
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