System Insider Interview

デュアルコア・レースでAMDは勝利できるか?

デジタルアドバンテージ
2005/04/12
解説タイトル

 2000年初頭、AMDとIntelは、プロセッサの動作周波数を1GHz以上に引き上げるべく、激しい争いを繰りひろげていた。このときの両社の争いは、「GHzレース」として広く知られるところだ。このレースを制したのは、IA-32プロセッサの本家であるIntelではなく、AMDだった。2000年3月、AMDはIntelに先駆けて、1GHzで動作するAMD Athlonを発表した。しかも、その直後にIntelが発表した、1GHzで動作するPentium IIIは、実際には限定したPCベンダにのみ少量が出荷されたのだけの、「ペーパーのみの発表」とまでいわれたものであった。それに対し、AMDは1GHzで動作するAMD Athlonの量産体制に入っており、このレースはAMDの圧勝となった。

 あれから5年が経過した2005年、両社は再び激しい争いを繰りひろげている。いうまでもなく、それはデュアルコアをめぐる争いであり、上記の「GHzレース」にならって名付ければ、「デュアルコア・レース」とでもいうべきものだ(「解説:AMDはサーバ向けデュアルコア・プロセッサでIntelに先行できるか?」)。これまでのところ、このレースもIntelではなくAMDがリードしている。2004年夏、AMDは、Intelに先駆けてデュアルコアのサーバ向けプロセッサ「AMD Opteron」の動作デモを公開した。また、2005年に入って、デュアルコアのクライアント向けプロセッサ「AMD Athlon 64」の動作デモも公開している。

 対するIntelも、負けじとAMDを追走してきた。2004年秋に米国で開催した開発者向けカンファレンス「IDF Fall 2004」では、デュアルコアを搭載した次世代Itanium 2(開発コード名:Montecito)の動作デモを公開した。それに続いて、2005年3月上旬に開催したIDF Spring 2005では、デュアルコアのクライアント向けプロセッサ「Pentium D」の動作デモを公開している。

 このように正式な製品発表前から盛り上がりを見せるデュアルコア・レースだが、このレースを制するのは、果たしてどちらだろうか。現在、レースは序盤戦〜中盤戦を過ぎて、いよいよ終盤戦を迎えたところだ。そこで、今回はデュアルコアへの取り組みをテーマに、日本AMD株式会社 アジア・パシフィック グローバルサポートサービス本部長の小島洋一氏に、お話をうかがうことにした。

日本AMD株式会社アジア・パシフィック
グローバルサポートサービス本部長小島洋一氏

デュアルコア・レースを制するのは……

 AMDとIntelが繰りひろげてきた「デュアルコア・レース」。このレースの勝敗が決するのは、そう遠い日ではなく、まもなくのことと予想される。両社ともに現時点での公式見解では「発表は今年前半」としており、それに従って予想すれば、遅くとも6月末までに両社から最初のデュアルコア・プロセッサが発表されることになるが、このレースが6月末までもつれ込むことはないだろう。海外の情報筋が伝えるところによれば、第2四半期の比較的早い時期、早ければこの4月末にも第一報があり、両社は相次いで、最初のデュアルコア・プロセッサを発表するものと予想される(CNET News.comなどの報道によれば、AMDは4月21日にニューヨークで開催されるイベントでデュアルコアのAMD Opteronを発表するとしている)。

 AMDは、まずサーバ向けのAMD Opteronから、Intelはクライアント向けのPentium Dから、デュアルコアを採用していく計画である。サーバ向け、クライアント向けと用途は異なるものの、先にリリースされるプロセッサが、「x86プロセッサで初のデュアルコア」という栄冠を手にすることになる。AMDは、今回のレースでもIntelよりも先にゴールラインを通過し、歴史にその名を刻みたいところだ(AMDは「GHzレース」を制したときに「歴史に名を刻んだ」という誇らしげなコメントを発表している)。対するIntelも、2004年は年初から新プロセッサのキャンセルなどトラブルが続出し、2005年は心機一転、建て直しを図りたいところだろう。

 これまでのところ、レースをリードしているように見えるのは、AMDのAMD Opteronだ。すでにデュアルコア・プロセッサの概要、ブロック図、ダイ写真などを公開している。AMDによれば、すでに多くのシステム・ベンダの手元でテスト機が動作しているという。

 一方、Intelは前述のようにIDF Spring 2005で、Pentium Dの動作デモを初めて公開し、主にスペックに関する情報を公開した。それによれば、90nmプロセスで製造される、最初のデュアルコアのクライアント向けプロセッサ(開発コード名:Smithfield)は、「Pentium D」という新しい商品名で販売されること、Pentium 4のコアがベースになっていること、合計2Mbytes(コア当たり1Mbytes)の2次キャッシュが搭載されること、パッケージは現在のPentium 4と同じくLGA775であること、などの情報が明らかになった。

 しかし、期待されたPentium Dのブロック図やダイ写真は公開されず、デュアルコアの構造をおおまかに示す、構造図のようなものが公開されただけだった。公開された構造図は、1個のダイ上にPentium 4のコアを単純に2個並べ、それぞれ独立したバス・インターフェイスを持つ2個のコアが、2分割されたフロント・サイド・バス(FSB)に接続されることを示していたからだ。2個のコアが共有するリソースは一切なく、コアのトランジスタの再配置も一切行なわれていないようだ。つまりこの構造図は、Pentium 4のコアを2個並べただけという印象を強く与えるものだった。「これは間に合わせのデュアルコアではないのか」「これは本当の意味でのデュアルコアとはいえない」という厳しい批判の声も聞かれるほどだ。

Pentium Dの構造図
単純に2つのPentium 4をダイ上に実装しているように見える。Intelは、1つの物理的なパッケージにプロセッサ・コアが2つ含まれていれば、1つのダイに統合されていたり、共用部分がなかったりしても、デュアルコアであるとしている。

 もっとも、こうしたIntelのデュアルコアへのアプローチは、限られた時間の中で、ぎりぎりのところで選択されたものだろう。もともとPentium 4/Intel Xeonが採用するNetBurstアーキテクチャは、動作クロックの引き上げに主眼を置いて設計されたもので、デュアルコア/マルチコア化は想定していなかった(「解説:IDF Spring 2005から読み解くIntelのプロセッサ戦略」)。しかし、動作クロックが思ったように上がらないため、Intelは予定を変更し、NetBurstアーキテクチャで予定していなかったデュアルコア化を急がなければならなくなった。というのもライバルのAMDは、AMD Athlon 64/AMD Opteron(AMD64)の設計当初からデュアルコア/マルチコア化を想定しており、着々とデュアルコアの準備を進めていたからだ。

 IntelがPentium Dで選択したデュアルコアへのアプローチを、AMDはどのように見ているのだろうか。小島氏は「IntelのNetBurstアーキテクチャは、マルチプロセッサという点では、最大4個のプロセッサでFSBを共有する設計思想だ。従って、デュアルコア〜マルチコアへのアプローチにおいても、2個あるいは4個のコアでFSBの帯域幅を共有するというのは、自然な考えだったのではないか。もともとデュアルコア/マルチコア化することを想定せずに開発されたNetBurstアーキテクチャのプロセッサで、デュアルコアを早期に実現するためには、あのようにするしかなかったのだろう」と分析した。

 また、AMDがAMD64で選択してきたデュアルコアへのアプローチと、IntelがPentium Dで選択したデュアルコアへのアプローチを比較し、「AMDのダイレクトコネクト・アーキテクチャは、複数のプロセッサやI/Oをポイント・ツー・ポイントで接続する『HyperTransport』と呼ばれるインターフェイスを特徴の1つとしている。複数のプロセッサを共有バスに接続する設計思想ではない。デュアルコア/マルチコアへのアプローチにおいても、同じことがいえる。今回、両社のデュアルコアへのアプローチの違いが明らかになったとすれば、それはマルチプロセッサの設計思想の違いから、必然的にもたらされたものだ」と補足した。

AMD Opteronのプロトタイプのダイ写真
 
デュアルコア版AMD Opteronの構成図
同じデュアルコアでもAMD Athlon 64では、HyperTransportが1本になる。図のようにメモリ・コントローラは、ピン互換性を維持するため2つのコアで共用される。

デュアルコア・レースはユーザーにどのようなメリットをもたらすのか

 アプローチの違いはあっても、デュアルコア・レースの初戦は目前に迫っている。このレースを制するのは、AMD Opteronなのか、Pentium Dなのか。それは興味の尽きないところだが、肝心な点はゴールラインを先に通過することだけではない。むしろその結果、どのような製品がユーザーに提供されるのか、あるいは性能の優劣といった問題の方が、ユーザーにとっては重要だ。AMDのアプローチが、Intelのそれより先進的であったとしても、性能の優劣はまた別の話だ。両社の製品が手元にない現時点では、すべては予想にすぎないが、AMDのデュアルコア・プロセッサに弱点を指摘する人もいる。例えば、AMDのデュアルコア・プロセッサでは、2個のコアが単一のメモリ・コントローラを共有する。ここがボトルネックになり、結果、それほど性能がでない可能性もある。

 小島氏はこの指摘に対し、「メモリ・コントローラの共有によるデメリットは、実アプリケーションではあり得ないようなメモリ・アクセスを行うベンチマーク・テストなどでは、若干影響があるかもしれない。が、デュアルコア化によりユーザーが享受できるパフォーマンスの向上は、それを補ってあり余るものであって、ユーザーがそれを理由にシングルコア・プロセッサを2個使うことなどあり得ない」と説明する。もちろん、デュアルコア・プロセッサに2個のメモリ・コントローラを内蔵することも可能だが、従来のシングルコア・プロセッサとのピン互換性を維持できなくなる。AMDのデュアルコア・プロセッサは、従来のシングルコア・プロセッサのシステムで使用する場合、BIOSの更新を必要とするものの、既存のソケットにそのまま差して使用することが可能だ。既存のAMD Opteron搭載サーバを、デュアルコア・プロセッサにアップグレードすることも容易である。また、現在のAMD64の内蔵メモリ・コントローラは、DDRメモリ対応のもので、DDR2メモリには未対応という別の問題もあるが、小島氏は「DDR2メモリ対応のメモリ・コントローラへの改良は、すでに計画に入っている。またFB-DIMMは当然の流れだ」という。

 また、Hyper-Threading(HT)テクノロジが、Intelのデュアルコア・プロセッサにとって有利に働くのではないか、と予想する人もいる。IntelはIDF Spring 2005で、Pentium DではHTテクノロジを有効にせず、ハイエンド・ユーザー向けのPentiumプロセッサ Extreme Editionでのみ有効にすると説明した(サーバ向けのデュアルコア・プロセッサでは、すべてHTテクノロジが有効化されるものと思われる)。こうした差別化はマーケティング上の理由によるものだろう。

 HTテクノロジ対応のインテル製デュアルコア・プロセッサは、同時に4つのスレッドが処理できるという点において、同時に2つのスレッドしか処理できないAMDのデュアルコア・プロセッサの性能を上回るのではないか、という予想もある。小島氏はそうした見方に対し次のように反論する。「本当のデュアルコアとは異なり、HTテクノロジは、1個のプロセッサで2つのスレッドを同時に処理できるといっても、実際には多くの制限があり、メリットを享受するためにはソフトウェアの最適化に手間がかかる。しかし、本当のデュアルコアは最適化の手間がかからないので、はるかに扱いやすい」。

 実際のところ、AMDとIntelのデュアルコア・プロセッサで、性能の優劣を比較するためには、両社のデュアルコア・プロセッサが出揃うことになる2005年後半から2006年まで待たなければならない。クライアント向けのデュアルコア・プロセッサは、AMDが2005年後半に投入する予定のAMD Athlon 64を待たなければならない。またサーバ向けのデュアルコア・プロセッサは、同じく2005年後半に投入されるIntel Xeonのデュアルコア版を待つ必要がある。この時点で、両社のデュアルコア・プロセッサの優劣が比較できるようになる。

 レースはいよいよ終盤戦を迎えたが、デュアルコア・プロセッサが真価を問われるのは、まさにこれからであり、性能の優劣を含め、評価にはこれから長い時間を費やしていかなければならない。特にデュアルコア・プロセッサがユーザーにもたらすメリットは、サーバにおいては比較的想像しやすいが、クライアントにおいてはかならずしも明確化されていないのが現状だ。

 GHzレースでは、競争の結果、プロセッサの性能は短期間で大幅に向上し、PCの低価格化にも貢献した。デュアルコア・レースでは、性能向上と低価格化が目的なのか、それとも新しい利用モデルの提案なのだろうか、デュアルコア・プロセッサの発表を急ぐAMDとIntelは、いったいどのようなユーザー・メリットを回答として用意しているのだろうか。レースの勝敗ばかりに気をとられがちだが、そのような点も頭に入れながら、レースの結末を見とどけることにしたい。記事の終わり

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