解説

IDF Spring 2005から読み解くIntelのプロセッサ戦略

1. デュアルコアへと大きく舵を切ったIntel

元麻布春男
2005/04/05
解説タイトル

 Intelにとってこの1年は、事業戦略の見直しを強いられるものだった。2004年春の次世代プロセッサ(TejasJayhawk)のキャンセルと、プロセッサのデュアルコア化/マルチコア化へのシフト、さらにはプロセッサ中心主義からプラットフォーム主義へのシフト、そしてプラットフォーム主義にふさわしい体制作りを標ぼうした組織改革の断行など、これほどハッキリと目に見える形でIntelの苦闘が顕在化したことは過去になかったかもしれない。その影響もあって、2004年秋に開催されたIntelの開発者向けの会議「IDF Fall 2004」は、もう1つ印象がパッとしないものであったことも否めない事実だ。2005年3月上旬に米国で開催されたIDF Spring 2005では、ある意味、Intelの再出発を表明する場となった。ここでは、IDF Spring 2005で再スケジュールが明らかになったIntelの最新プロセッサ・ロードマップを解説する。

新しい体制による初めてのIDF

 この3月に米国で開催されたIDF Spring 2005は、新しい事業戦略に基づく一歩を踏み出したもの、といえるだろう。登壇したキーノート・スピーカーは、1月に断行された組織改革により誕生した、新しい製品担当事業部の長が顔を揃えた。The Digital Enterprise Groupのパット・ゲルシンガー(Patrick P. Gelsinger)副社長、The Mobility Groupのショーン・マロニー(Sean Maloney)副社長、The Digital Home Groupのドン・マクドナルド(Donald J. MacDonald)副社長らだ。The Digital Enterprise Groupは、旧Enterprise Platform Groupの事業をコアに、ビジネス向けデスクトップおよび旧Intel Communications Groupの有線ネットワークおよびストレージ関連事業を統合した事業部となる。Pentium 4、Intel Xeon、Itaniumといったプロセッサの開発の責を担う。The Mobility Groupは、旧Mobile Platforms Groupの事業をコアに、旧Intel Communications Groupのフラッシュメモリ事業や携帯電話向け半導体製品、無線LAN関連製品を統合した事業部だ。Pentium Mなどのx86系のモバイルとXScale系のモバイル、両方を受け持つ。

 新設されたThe Digital Home Groupは、コンシューマ向けの製品、特にDLNA(Digital Living Network Alliance)やNMPR(Networked Media Product Requirements)のような家庭内ネットワーク関連技術に対応した製品の開発を担うことになる。当面は、事業部内にプロセッサやチップセットの開発部門を持たず、適宜The Digital Enterprise GroupやThe Mobility Groupの半導体製品を購入し、それをベースにコンシューマ向けのプラットフォーム製品開発を行う。その意味では、ほかの2事業部に比べ、規模は若干小さくなるが、「デジタル・ホーム」という市場そのものがまだ黎明期にあることを考えればやむを得ないところだろう。Intelには市場のけん引役としての役割が期待されていることを考えると、新事業部長が担う役割は重い。

 これら各製品担当事業部全体に共通する製品戦略の根幹が、プロセッサのデュアルコア化/マルチコア化と、プラットフォーム技術の推進であるわけだが、それを反映するかのように、今回のIDFではこれらに関する大量の開発コード名が公開された。プロセッサ、チップセット、周辺I/Oチップといった半導体製品に加えて、これらを組み合わせたプラットフォームにまでも開発コード名が追加された意味は大きい。下表は、今回のIDFで公開された主なコード名をまとめたものだ(すでに公開されているものを含む)。

  2005年 2006年 2007年以降  
モバイル
プラットフォーム名 Sonoma(ソノマ) Napa(ナパ)    
導入時期 2005年1月 2006年第1四半期    
プロセッサ Dothan(ドーサン) Yonah(ヨナ)    
チップセット Alviso(アルビソ) Calistoga(カリストガ)    
メモリ DDR2-533    
ギガビット・イーサネット なし? Tekoa-M(テコア)    
そのほか (無線LAN) Pro Wireless 2200BG/2915ABG Golan(ゴラン)    
企業向けクライアント
プラットフォーム名 Lyndon(リンドン) Averill(アベリル)    
導入時期 2005年第2四半期    
プロセッサ Smithfield(スミスフィールド)〜Presler(プレスラー) Smithfield(スミスフィールド)〜Presler(プレスラー)    
チップセット Glenwood(グレンウッド)/Lakeport(レイクポート) Broadwater(ブロードウォーター)    
メモリ DDR2-667 DDR2-800?    
ギガビット・イーサネット Intel 82573E(Tekoa) Nineveh(ニネベ)    
そのほか    
ホーム・クライアント
プラットフォーム名 Anchor Creek(アンカー・クリーク) Bridge Creek(ブリッジ・クリーク)    
導入時期 2005年第2四半期      
プロセッサ Smithfield(スミスフィールド)〜Presler(プレスラー) Smithfield(スミスフィールド)〜Presler(プレスラー)    
チップセット Glenwood(グレンウッド)/Lakeport(レイクポート) Broadwater(ブロードウォーター)    
メモリ DDR2-667 DDR2-800?    
ギガビット・イーサネット Intel 82573E(Tekoa) Nineveh(ニネベ)    
そのほか Intel GMA950(内蔵グラフィックス)      
ワークステーション
プラットフォーム名 Glidewell(グライドウエル)    
導入時期 2005年第2四半期 2006年第1四半期    
プロセッサ Smithfield(スミスフィールド) Dempsey(デンプシー)    
チップセット Glenwood(グレンウッド) Greencreek(グリーンクリーク)    
メモリ DDR2-667 DDR2-800?    
そのほか ユニプロセッサ デュアルプロセッサ    
ユニプロセッサ・サーバ
プラットフォーム名    
導入時期 2005年第2四半期    
プロセッサ Smithfield(スミスフィールド) Presler(プレスラー)    
チップセット Mukilteo(マキルテオ)    
メモリ DDR2-667    
そのほか    
デュアルプロセッサ・サーバ
プラットフォーム名 Bensley(ベンスレー)    
導入時期 2005年2月 2006年第1四半期    
プロセッサ Irwindale(アーウィンデール) Dempsey(デンプシー)    
チップセット Intel E7520/E7320 Blackford(ブラックフォード)    
メモリ DDR2-400 FB-DIMM(DDR2)    
そのほか    
マルチプロセッサ・サーバ
プラットフォーム名 Truland(トゥルーランド) Truland(トゥルーランド) Reidland(レイドランド)  
導入時期 2005年第2四半期 2006年第1四半期  
プロセッサ Potomac(ポトマック)/Cranford(クランフォード) Paxville(パークスビル)〜Tulsa(タルサ) Whitefield(ホワイトフィールド)  
チップセット Intel E8500 Intel E8500  
メモリ DDR2-400 DDR2-400 FB-DIMM(DDR2)  
そのほか 物理アドレス空間を1Tbytesに拡張 共通プラットフォーム  
IPFサーバ
プラットフォーム名 Richford(リッチフォード)
導入時期 2005年第4四半期
プロセッサ Montecito(モンテシト) Montvale(モントベール) Tukwila(ツクウィラ) Poulson(ポウルソン)
チップセット Intel E8870/サードパーティ Intel E8870/サードパーティ
メモリ DDR-200 DDR-200 FB-DIMM (DDR2)
そのほか 共通プラットフォーム
表区切り
IDF Spring 2005で再スケジュールされたロードマップと開発コード名

デスクトップPC向けデュアルコア・プロセッサの概要

 これらの開発コード名で示されたすべての製品については、現時点において必ずしも詳細が明らかにされているわけではない。だが、プロセッサに関してはある程度の情報が公開されている。

Intelのマルチコア化のロードマップ
2005年後半には、すべてのセグメントに対してデュアルコア・プロセッサが投入されることが分かる。

 まず最初に登場するデュアルコアのプロセッサは、Smithfield(スミスフィールド)という開発コード名で知られるものだ。90nmプロセスで量産されるSmithfieldは、デスクトップPC向けには「Pentium Dプロセッサ」という製品名で商品化されることも明らかになっている。2次キャッシュは現行のPentium 4と同じ2Mbytesだが、コアが2つあるため、コア当りの2次キャッシュは半分の1Mbytesということになる。プロセッサのダイも生産効率があまりよくない長方形で、単純に現行のPentium 4コアをダイ上に2つ並べたもの、という印象が強い。

 このデスクトップPC向けにPentium Dとして販売されるSmithfieldは、1つのダイに2つのコアを持つものの、Hyper-Threadingテクノロジ(HTテクノロジ)が無効にされているため、同時処理可能なスレッド数は現在販売されているPentium 4と同じ2となる。ただし、コアが増えることにより、処理性能そのものは向上するものと思われる。これに対して、ヘビー・ユーザー/ゲーマー向けに販売される派生型が「Pentiumプロセッサ Extreme Edition」(開発コード名はSmithfield XE)で、Pentium Dにない機能としてHTテクノロジのサポートが加わる。デュアルコアとHTテクノロジの併用で、同時処理可能なスレッド数は4へと倍増することになる。これによりとりあえず、Pentium Extreme Editionは4スレッド、Pentium Dは2スレッド、Celeronはシングルスレッド、というすみ分けが成立する(それぞれのブランドで同時処理可能なスレッド数は、技術進化により将来的には見直される可能性がある)。

間もなく登場する最初のデュアルコア・プロセッサ「Smithfield」の概要
Pentium D(上)とExtreme Edition(下)の違いはHTテクノロジの有無と恐らく動作クロックに絞られる。

 動作クロックもこのPentium Extreme Editionだけは最高で3.20GHz(FSBは800MHz)と公表されているが、動作クロック、FSBクロックとも現時点のハイエンド・プロセッサより低下してしまう(Pentium DプロセッサのFSBも800MHzだが、動作クロックは明らかにされていない。ただし3.20GHzを下回ることがほぼ確実だ)。Intelはデュアルコア化によりトータルでの性能は向上するとしているが、それはソフトウェアに大きく依存するハズだ。果たして主要なアプリケーションにおいて、現行のハイエンドであるPentium 4 Extreme Edition-3.73GHz、あるいは動作クロック的には最も高いPentium 4 570J(動作クロック3.80GHz)との性能関係がどうなるか、注目される。なお、ユニプロセッサ・サーバおよびワークステーション向けに販売されるSmithfieldも、HTテクノロジをサポートする可能性がある。

 SmithfieldのプラットフォームであるLyndon(企業クライアント向け)およびAnchor Creek(ホーム・クライアント向け)には、共通のチップセットとしてIntel 945(Lakeport:レイクポート)とIntel 955X(Glenwood:グレンウッド)の両チップセットが用いられる。LakeportとGlenwoodの関係は、現在のIntel 915G(Grantsdale:グランツデール)とIntel 9125X(Alderwood:アルダーウッド)と同じで、基本的なアーキテクチャは同じと考えられる。Lakeportにはグラフィックスの有無などのオプションが設定されるが、内蔵グラフィックスがIntel GMA950(既存のIntel 915Gに内蔵されているグラフィックス機能)と呼ばれていることから考えて、大幅な機能の向上はないものと思われる。

 Intel 945/955Xにおける強化のポイントは、メモリ・クロックの引き上げ(DDR2-667のサポート)、最大8Gbytesのメイン・メモリ容量のサポート、ブリッジチップの併用による2本のPCI Express x16スロットのサポート(NVIDIAのSLI対応)、内蔵RAID機能によるRAID 10およびRAID 5のサポートなどだ。Smithfieldは、現行のPentium 4と同じLGA775ソケット対応だが、利用に際してはIntel 945/955Xが不可欠となる。Intel 945/955Xに現行のPentium 4を組み合わせることは可能だが、Intel 915/925XにSmithfieldを組み合わせることはできない。

 このほか、Lyndon/Anchor Creekプラットフォームではギガビット・イーサネット・コントローラがIntel製の「Intel 82573E」となる。特にLyndonではIntel Active Management Technology(iAMT)のサポートの点からも、このIntel製コントローラが不可欠となる見込みだ。2006年以降に実用化される見込みのセキュリティ技術(LaGrandeテクノロジ)がそうであるように、Intelが導入するプラットフォーム技術にはプロセッサやチップセット個別では対応できないものがだんだん増えてくると考えられる。モバイル向けのCentrinoで、プロセッサとチップセット、無線LANチップを1つのプラットフォームとしてプロモートしたことの成功に倣う部分もあるだろうが、技術的な必要性もある、ということなのだろう。もちろん、チップセットをサードパーティに委ねるAMDとの差別化、という要素も含まれているに違いない。

 次ページでは、主にサーバ向けに提供されるデュアルコア・プロセッサについて見ていくことにする。

 

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  [解説]IDF Spring 2005から読み解くIntelのプロセッサ戦略
  1.デュアルコアへと大きく舵を切ったIntel
    2.デュアルコア/マルチコアを中心に展開されるサーバ向けプロセッサ
 
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