解説 先行するヨーロッパの携帯電話OS事情――世界標準から取り残される日本の携帯電話―― 2. 携帯電話の歩む道はいつか来た道? 塩田紳ニ |
Symbian Developer Expoの模様
Symbianの概要が分かったところで、Symbian Developer Expo(DevExpo)を見ていくことにしよう。DevExpoは、Symbian OS開発者向けのカンファレンスである。中心になるのは、各種のトラックに分かれたカンファレンスだが、午前中にキーノート・スピーチがあり、展示会も併設されている。現在のところ、実際にSymbian OSを採用した携帯電話は、未出荷のものを含めても4機種しかないのが実情だ。しかしSymbianとしては、Symbian OSが本格的に採用されるのは3G携帯電話になってからと予想しており、現状についてはあまり気にしていないようだ。参加者も、そうした将来性に期待しているのか意外と多かった。
初日のキーノート・スピーチに登場したのは、Symbianの最高経営責任者(CEO)のデビッド・レビン(David Levin)氏と、Sony Ericssonの井原勝美社長など。2日目にはNokiaの上級副社長のアンシ・ヴァンヨッキ(Anssi Vanjoki)氏が登場した。
Symbianのデビッド・レビン最高経営責任者 | Sony Ericssonの井原勝美社長 |
PSIONからSymbianへ移り2002年4月8日にCEOとなった。 | SonyとEricssonの携帯電話事業の合併によって誕生した「Sony Ericsson Mobile Communications」の初代社長。キーノート・スピーチに登場した。 |
開催初日の4月23日にはドイツのSiemens Information and Communication Mobile(IC Mobile)がSymbianに出資することや、Texas InstrumentsがSymbian OSを同社チップセット「OMAP」で対応することを発表し、順調にビジネスが推移している印象を与えた(Symbianの「IC Mobileからの出資に関するニュースリリース」「OMPAのSymbian OSのサポートに関するニュースリリース」)。
展示会場では、日本からワコムやACCESS、アプリックスなどが出展しており、またTechnology Showcaseというカンファレンスでは、オムロンソフトウェアと管理工学研究所がプレゼンテーションを行った。このように日本企業がSymbianにかかわっているのは、やはりマーケットが大きなGSM方式の携帯市場を意識してのことと思われる。GSMの主要メーカーであるNokiaやSony Ericsson、Motorola、そしてSiemensがSymbianに出資していることから、GSM方式の市場ではSymbianが有利に働くと思われる。とすると、この市場に参入するためにはSymbian OSに対応しておく必要があるわけだ。
DevExpoの展示会場 |
Convention Centerにある展示スペースの1つを2つに仕切って、半分をキーノート・スピーチ会場としているため、展示会場はあまり大きくない。 |
もっとも出展社のうち管理工学研究所は、EPOCと呼ばれていたころ(1995年)から、同OSの日本語化に取り組んでおり、Symbian OSについてもかなりのノウハウを蓄積していると思われる。現状、日本国内では、Symbian OSを採用した製品がないので日本語化されたSymbian OSを見ることはないのだが、プレゼンテーションを見るかぎり、Symbian OSの日本語化は完了しているようである。3G携帯電話が本格化したときには、管理工学研究所による日本語化されたSymbian OS搭載の携帯電話端末が登場する可能性もあるだろう。
管理工学研究所によるSymbian OSの日本語化のデモ | |
これは、Nokia 9210のSDKに付属するエミュレータ上でのもの。Symbian OSは、国際化対応が行われており、必要なモジュールやフォント、入力手段などを提供することで日本語などにも対応できるという。 |
スマートフォン市場の行方
日本では、かつてPDA機能付きの携帯電話がまったく売れなかったこともあって、携帯電話自体の機能は高度になっているものの、汎用でオープンなOSを採用した機種がまったくない。PHSのデータPCカードが普及しているために、ノートPCやPDAでのモバイル通信環境がすでに整備されているということも理由だろうし、日本メーカーは汎用OSという形よりも独自方式を好む傾向があることも原因だ。
状況的には、かつてのワープロ専用機とパソコンの関係を思い出させるのが、日本の高機能携帯電話と汎用OSを搭載したスマートフォンの関係だ。いろいろと条件が異なるので、パソコンのときのように汎用OSが絶対的に有利とはいえないのだが、長期的にみると、アプリケーションの動作環境を保障できるSymbian OSやPalm OSの方が有利なのではないかと感じる。
かつてのワープロ専用機は、表計算や通信といったパソコン的な機能を取り込みつつ高性能化していった。しかし、結局、ワープロ専用機は廃れ、パソコンが普及することになった。ワープロ専用機が廃れたのは、以下のような要因が挙げられる。
- 汎用的なOS(Windowsなど)の登場により、ハードウェアとソフトウェアが別々に流通できるようになり、高度な機能を持つソフトウェアが流通するようになったこと
- ユーザーにある程度の選択肢ができたこと
- PCの場合、ハードウェア・メーカーがハードウェアのみに専念できるので、性能を向上させつつコストを下げることができたこと
同じことがスマートフォンでも起きないとは断言できない。最終的にユーザーにアピールするのはコストとソフトウェアである。PDAでも、Palmが登場して短い時間で広く普及したのは、さまざまなサードパーティ製のソフトウェアや、周辺機器などのハードウェアの魅力であったと思う。これに対して、Windows CEは当初ソフトウェア開発のコストが高く、普及に時間が必要だった。登場時のWindows CEは専用機に近い存在だったのだ。また、日本国内で大きなシェアを持っていたシャープのザウルスも海外ではあまり人気がなく、その挽回策としてLinuxを搭載し、ユーザーが簡単にアプリケーションを作ることができるPDAを投入している。そう考えるとPDA的な要素が大きいスマートフォンも汎用OSを持つものが有利と予想する。
さて、世界に先駆けて3G携帯電話サービスを開始した日本だが、現時点ではNTTドコモのFOMAを含めて、海外で利用することができない。海外でも利用可能なのは、唯一、au(KDDI)のCDMA方式を採用する機種の一部だけである。現在多数を占めるPDC方式は海外では利用できず、海外からみると日本と韓国だけがGSM方式がまったく使えない国となっている。この状況はかつてのPC-9801シリーズとIBM PC互換機との関係そっくりに見える。日本でパソコンは普及したが、日本のコンピュータ・メーカーはもはや世界の中では主要なプレイヤーではなくなっている。いまや、日本国内で販売されている多くのパソコンは台湾や中国で生産されたものだ。かつて日本国内で生産されていたパソコンの半分以上が海外へ出荷されていたのとは隔世の感がある。
歴史は繰り返すというが、スマートフォンを巡り、かつて日本のパソコン業界が進んできた道をまた、日本の携帯電話がたどりそうな気がするのだが……。
Nokiaの携帯電話「Nokia 7650」 | |
Symbian OSを搭載した最初の第2.5世代携帯電話で、背面にデジタル・カメラを持つ。第2.5世代の特徴であるGPRSは、高速なパケット通信が可能で、それを生かすためにもカメラを搭載したものと思われる。ヨーロッパでは初めてのデジタル・カメラ搭載機種となる。 |
関連リンク | |
IC Mobileからの出資に関するニュースリリース | |
OMPAのSymbian OSのサポートに関するニュースリリース |
INDEX | ||
先行するヨーロッパの携帯電話OS事情 | ||
1.世界の携帯電話事情 | ||
2. 携帯電話の歩む道はいつか来た道? | ||
「System Insiderの解説」 |
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