解説 先行するヨーロッパの携帯電話OS事情――世界標準から取り残される日本の携帯電話―― 1. 世界の携帯電話事情 塩田紳ニ |
日本は、第3世代(3G)携帯電話を世界で初めて運用開始するなど、携帯電話分野では先進的な国と見られている。しかし、世界的な携帯電話のシェアを見ると、以下のようになっており、日本のベンダは上位5社の中に1社も入っていない(ガートナー ジャパンの「2001年の世界携帯電話端末に関する調査結果」)。2002年第1四半期では、ソニーとEricssonの合弁会社である「Sony Ericsson Mobile Communications(以下、Sony Ericsson)」がやっと入っているという状態だ(ガートナー ジャパンの「2002年第1四半期の世界携帯電話端末に関する調査結果」)。
順位 | ベンダ |
2001年
|
2000年
|
対前年成長率 | ||
販売台数 | シェア | 販売台数 | シェア | |||
1 | Nokia |
1億3967万2000台
|
35.0%
|
1億2636万9000台
|
30.6%
|
10.5%
|
2 | Motorola |
5909万2000台
|
14.8%
|
6009万4000台
|
14.6%
|
-1.7%
|
3 | Siemens |
2975万3000台
|
7.4%
|
2698万9000台
|
6.5%
|
10.2%
|
4 | Samsung |
2823万4000台
|
7.1%
|
2063万9000台
|
5.0%
|
36.8%
|
5 | Ericsson |
2695万6000台
|
6.7%
|
4146万7000台
|
10.0%
|
-35.0%
|
そのほか |
1億1587万6000台
|
29.0%
|
1億3717万3000台
|
33.3%
|
-15.5%
|
|
合計 |
3億9958万3000台
|
100.0%
|
4億1273万1000台
|
100.0%
|
-3.2%
|
|
2001年の世界携帯電話端末シェア 出典:ガートナー データクエスト(2002年3月) |
順位 | ベンダ |
2002年第1四半期
|
2001年第1四半期
|
対前年同期成長率 | ||
販売台数 | シェア | 販売台数 | シェア | |||
1 | Nokia |
3253万1000台
|
34.7%
|
3350万6000台
|
34.4%
|
-2.9%
|
2 | Motorola |
1453万3000台
|
15.5%
|
1322万5000台
|
13.6%
|
9.9%
|
3 | Samsung |
903万台
|
9.6%
|
607万6000台
|
6.2%
|
48.6%
|
4 | Siemens |
822万9000台
|
8.8%
|
663万3000台
|
6.8%
|
24.1%
|
5 | Sony Ericsson |
600万9000台
|
6.4%
|
N/A*1
|
N/A*1
|
N/A*1
|
そのほか |
2342万3000台
|
25.0%
|
3798万7000台
|
39.0%
|
-38.3%
|
|
合計 |
9375万5000台
|
100.0%
|
9742万7000台
|
100.0%
|
-3.8%
|
|
2002年第1四半期の世界携帯電話端末シェア 出典:ガートナー データクエスト(2002年5月) | ||||||
*1 2001年第1四半期は合併前のため、Sony Ericssonとしての数値はない。同四半期のエンド・ユーザーに対する販売台数は、Sonyが190万台、Ericssonが640万台 |
これは日本の第2世代(2G)の携帯電話がPDC(Personal Digital Cellular)方式であり、ヨーロッパやアジアを中心に百カ国以上が採用するGSM(Global System for Mobile Communications)方式と異なるためだ。GSM方式は、いまや世界シェアの70%を超えるといわれており、2G携帯電話の世界標準となりつつある(GSM Associationのホームページ)。日本国内の携帯電話メーカーは、PDC方式とGSM方式の端末を別々に開発する必要が生じ、GSM方式の開発に出遅れてしまったことがシェアを上げられない要因ともいわれている。
さらにヨーロッパでは、GSM/GPRS方式(General Packet Radio Service:GSM方式にデータ通信規格を付加した2.5G携帯電話方式)やW-CDMA/cdma2000(どちらも3G)にPDA機能を付加した携帯電話(スマートフォン)が注目を集めており、日本の携帯電話端末とは方向性が異なってきている。スマートフォンには、PDA機能を実現するため、強力なアプリケーション・プロセッサとOSが搭載されることになり、現在、各社とも業界標準を勝ち取るため熾烈な戦いを行っている。そこで、ここでは日本国内とは異なる携帯電話事情を、2002年4月23日から24日まで英国ロンドンで開催されたSymbian OSの開発者向けイベントを中心に解説していくことにする。
Symbianって何?
Symbian(シンビアン)は、1998年に携帯電話メーカーのNokiaとEricsson(現、Sony Ericsson)、PSIONなどが出資して設立した、「Symbian OS」の開発とライセンスを行う会社である。日本ではあまりなじみがないが、Symbian OSとは、PSION(サイオン)がPDA用に開発したEPOC(エポック)というOSがベースになっている。
Symbian OSを採用するNokiaの携帯電話「Nokia 9210 Communicator」 |
一般的なPDA機能のほか、電子メール・クライアントやWebブラウザなどが装備されている。写真は端末を開いた状態だが、閉じると一般的な携帯電話の形状となる。ユーザー・インターフェイスにはUIQを採用しており、開発者向けにSDK(ソフトウェア開発キット)が配布されている。 |
EPOCは、PSIONのPDA「Psion Series 5mx」や「Psion Revo」など採用されている32bit OSで、ARM系プロセッサ上で動作する。ARMもイギリス生まれであり、ある意味、Symbianプラットフォームは、ヨーロッパ製で固められたプラットフォームともいえる。
Symbian設立の背景には、2つの要因がある。1つは、携帯電話の普及に伴い、データ通信の伸びが予測され、そのためには高度な機能を持つ携帯電話(つまりPDA機能などのデータ通信が行えるもの)が必要になると予想されたこと。もう1つは、MicrosoftがWindows CEでスマートフォン分野への参入を行おうとしていたことだ。その当時、3G携帯電話と呼ばれているIMT-2000の仕様が決まりつつあり、高速なデータ通信を利用するためにもPDAのようなコンピュータ的な機能の必要性が認識されつつあったということも影響しているだろう。中心になったNokiaとEricssonは、大手の携帯電話メーカーであり、すでに米国や日本へも進出していた。すでにPCマーケットでのMicrosoftの独占を見ており、何もしなければスマートフォンでもWindows CEを採用せざるを得なくなる可能性を憂慮したのだと思う。そこで、見出されたのが、イギリスのPDAメーカーであるPSIONのEPOCなのである。
すでにヨーロッパでは、NokiaとSony EricssonがSymbian OSを採用した携帯電話を発表し、Nokia 9200シリーズはすでに出荷を開始している。Sony EricssonのP800も2002年第3四半期に出荷予定になっている。Symbian OSには、UIQというGUIシステムが実装されており、Nokia 9200やSony EricssonのP800に採用されている。UIQは、アプリケーション・フレームワークや、標準的なアプリケーションなどを含むもので、かつて「Quartz(クオーツ)」という開発コード名で呼ばれていたシステムだ。PSIONのPDA(Psion Series 5mxやPsion Revo)に採用されていたEikon(エイコン)というGUIシステムを発展させたものである。
Sony Ericssonの携帯電話「P800」 | |
2002年第3四半期に販売が予定されているSymbian OSを搭載した携帯電話。大型の液晶ディスプレイとデジタル・カメラの搭載が特徴である。 |
Nokiaは、1999年10月13日にPalmとの提携を発表し、Symbian OS上にPalm OSのユーザー・インターフェイス部分を実装することを発表していたが、現在のところ具体的な製品の発表はない(Nokiaの「Palmとの提携に関するニュースリリース」)。すでにSymbian OS上に、UIQが実装されたことから、Palm OSのユーザー・インターフェイスは必要ないということなのかもしれない。
ちなみにEPOCを使ったPSIONのマシンは、米国や日本ではあまり見かけないが、ヨーロッパではある程度普及しているようだ。米国向けには、SONICblue(旧S3)がPSIONの「Psion Revo」というPDAのOEM供給を受け、「Mako(マコ)」という名前で販売したことがあったが、ほとんど普及しなかったようである。ただ、今回ロンドンでSymbianのイベント取材中、会場でPSIONのPDAやSymbian OSを採用したNokia 9200シリーズを使っているユーザーを多く見かけた(Symbianのイベントなので当たり前かもしれないが)。
前述のように、ヨーロッパの携帯電話はGSM方式が主流であり、世界の百カ国以上で利用可能だ。世界で最も普及しているデジタル携帯電話方式でもある。このGSMには、SMS(Short Message Service)という、日本でいえば、ショート・メールのようなサービスがあり、さらに第2.5世代(2.5G)と呼ばれる機種では、GPRSで高速なパケット通信が可能である。このGPRSを使ってMMS(Multimedia Message Service)という音声画像付きのショート・メッセージ・サービスも行われている。つまり、環境としては、高度なOSを持つPDAと高速な通信を提供する携帯電話が融合する準備はできているというわけだ。このようにGSM方式は、市場が大きく広がっているため、米国メーカーも無視できない存在になっている。Palm OS系ではHandspringがGSM方式の携帯電話機能を取り入れた「TREO(トレオ)」を出荷しているし、Compaq(現Hewlett-Packard)もiPAQ用としてGSM携帯電話ジャケット(iPAQの拡張モジュール)を出荷しているほどだ。
次ページでは、Symbian Developer Expoの様子から、今後の携帯電話向けOSの動向を探ってみよう。
関連リンク | |
2001年の世界携帯電話端末に関する調査結果 | |
2002年第1四半期の世界携帯電話端末に関する調査結果 | |
GSM方式のライセンス管理団体 | |
Palmとの提携に関するニュースリリース |
INDEX | ||
先行するヨーロッパの携帯電話OS事情 | ||
1.世界の携帯電話事情 | ||
2. 携帯電話の歩む道はいつか来た道? | ||
「System Insiderの解説」 |
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