解説 IDF Fall 2002 Japanレポート「融合」の先にあるIntelの展望 2. クライアントPCと通信の融合で変化するオフィス デジタルアドバンテージ |
ノートPCが重要な役割を担う「デジタル・オフィス」
IDF Fall 2002 Japanの3日目の基調講演では、まずモバイル・プラットフォーム事業本部 副社長 兼 モバイル・プラットフォーム事業本部長のアナンド・チャンドラシーカ(Anand Chandrasekher)氏とワイヤレス・コミュニケーションズ & コンピューティング事業本部 副社長 兼 マーケティング・ディレクタのアンソニー・F・シーカ(Anthony F. Sica)氏が「クライアントの融合−ひとつのインターネット」と題して、デジタル・ホームならびにデジタル・オフィスの実現に必要なプラットフォームと、携帯電話向けプロセッサなどについて講演を行った。
デジタル・ホームでは、PCと家電製品の相互接続が可能なネットワークを構築することが重要であると述べた。そのための要素技術として、有線/無線のイーサネット、IP、UPnPを挙げ、さらに著作権保護やアプリケーションなどの標準化が求められているとした。
デジタル・ホームを実現するために必要となる標準規格 |
PCと家電の相互接続を可能にするネットワークの構築には、これらの標準化が不可欠であると述べた。 |
Intelでは、デジタル・ホームを実現するための第一歩として、「Extended Wireless PCプラットフォーム」を開発している。また、PCとテレビ、ステレオ間を接続し、PCで録画したビデオをテレビ画面で見られるようにする、一種のセット・トップ・ボックスともいえる「デジタル・メディア・アダプタ」を開発しており、すでにリファレンス・デザインが完了したという。ショーケースでは、中国のLegend Group(連想集団)と台湾のMiTACによる製品のデモも行われていた。
また、Pentium 4-3.06GHzを2002年第4四半期に、開発コード名「Prescott(プレスコット)」で呼ばれる次世代のデスクトップPC向けプロセッサを2003年後半にそれぞれリリースすることもあらためて強調していた。さらに、PCI Expressを採用したデスクトップPCの開発ロードマップを明らかにし、対応製品のリリースが2004年になると述べた。
「Big Water」の開発ロードマップ |
Big Waterは新しいPC像を探るための実験的なプラットフォームである。Big Waterの開発で得られたノウハウが、PCの設計へとフィードバックされることになる。 |
デジタル・オフィスでは、今後ノートPCが重要な役割を担うようになると予想していた。「Intelでは、社員にノートPCを持たせることで、1週間に4〜12時間分の実労働時間を増やすことを可能にした」と実績をアピールした。また、「こうした効率の向上は、企業の競争力を高めるばかりでなく、社員の自由な時間を増やすことにもつながる」と社員側のメリットを主張するのも忘れなかった。チャンドラシーカ氏がこうした実績を強調するのは、もちろん2003年早々に発表が予定されているノートPC向けプロセッサ「Banias(開発コード名:バニアス)」のためだ。Baniasは、性能と消費電力のバランスを取ることを念頭において開発されたプロセッサである。
Baniasを搭載したノートPCでは、開発コード名「Calexico(キャレキシコ)」と呼ばれるIEEE 802.11aとIEEE 802.11bの両規格に対応したデュアルバンド無線LAN接続技術が組み合わされる。Calexicoでは、自動的に無線LAN機能をオフにしたり、IEEE 802.11bとIEEE 802.11aを切り替えたりすることができる。チャンドラシーカ氏によれば、「サードパーティがBanias向けのチップセットを開発したり、Intel製チップセットに独自の無線LANチップを組み合わせたりすることも可能だが、そうした組み合わせではBaniasプラットフォームの省電力機能を十分に発揮することはできない」という。そのため、多くのPCベンダがBaniasとCalexicoを組み合わせてくるものと思われる。
携帯電話関連では、「価値の方程式=2M/2m」を推進すると述べた。2M/2mというのは、アプリケーション・プロセッサの性能(MIPS)、メモリ部の容量(Mbits)と容積(millimeter3)、ベースバンド・チップの低消費電力(milliwatts)である。Intelでは、「2M/2m」を実現する製品として、StrataFlashメモリ(フラッシュメモリ)とXScale(組み込み用プロセッサ)を1つのパッケージに積層した「PXA261」「PXA262」をすでに発表している。顧客の要望に応じて、こうした製品を順次投入する予定であるという。また、ベースバンド・チップを含めて1チップ化した開発コード名「Manitoba(マニトバ)」で呼ばれるGSM/GPRS向けチップを市場に投入する予定であることも明らかにした。
携帯電話向けチップセットにおける方向性を示したもの |
Intelでは、「価値の方程式=2M/2m」によって携帯電話市場でもシェアを確保していくとしている。 |
「センサ・ネットワーク」の応用例
基調講演の最後は、「デジタルワールドの未来を築く」と題して、コーポレート・テクノロジ本部副社長 兼 リサーチ担当ディレクタのデイビッド・L・テネンハウス(David L. Tennenhouse)氏が、Intelの研究開発について講演した。2002年8月19日に発表した3次元構造を持つトランジスタ「トライ・ゲート・トランジスタ」や、現在Intelが取り組んでいるナノテクノロジならびにMEMSなどについての解説を行った。
3次元構造を持つトランジスタ「トライ・ゲート・トランジスタ」 |
2002年9月17日に発表した「トライ・ゲート・トランジスタ」。3次元構造とすることで、現在よりも小型でなおかつ十分な容量を持つトランジスタが実現可能になったという。 |
また、IDF Spring 2002でコンセプトを発表した「センサ・ネットワーク」の応用例を今回いくつか取り上げた。センサ・ネットワークとは、温度や振動などを計測するセンサと、そのセンサのデータを集計するためのコンピューティング機能、さらにデータを送受信するための通信機能を一体化したモジュールを用いて、自律型のネットワークを構築しようというものだ。将来的には、これらを1つの小さなチップにすることで、いろいろな応用を行うことを考えている。
IDF Spring 2002でコンセプトを発表してから6カ月間で、すでに75種の実験プロジェクトが動いているという。その中から米国東海岸にあるグレート・ダッグ島の鳥の観察に適用した事例を紹介した。この事例は、鳥の巣にセンサ・ネットワークを置き、温度や湿度を計測することで鳥の行動を観察しようというものである。センサ・ネットワークは太陽電池を動力とし、無線LANを使って別のセンサ・ネットワークと通信することで、自律的にネットワークを構築するという。そのほか、地震や振動の研究などにも応用実験中であると述べた。
グレート・ダック島におけるセンサ・ネットワークの実験 |
鳥の巣と農場のいくつかの場所にセンサ・ネットワークを設置し、そのセンサが得たデータを自律的に構築されたネットワークを介して研究所に送るという実験を行っているという。 |
次ページでは、ショーケースで披露されていた製品などについて解説していく。
関連リンク | |
Legend Group(連想集団)のホームページ | |
MiTACのホームページ |
INDEX | ||
IDF Fall 2002 Japanレポート | ||
1.Intelが描く「融合」の世界とは? | ||
2.クライアントPCと通信の融合で変化するオフィス | ||
3.ショーケースでは「融合」を実現するためのコンポーネントを披露 | ||
「System Insiderの解説」 |
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