解説NASは新時代ファイル・サーバか? 1. Windows Storage Server 2003の機能拡張ポイント デジタルアドバンテージ2004/03/16 |
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2003年10月7日 、マイクロソフトは「Windows Storage Server 2003 日本語版」を発表した。その後、サーバ・ベンダやストレージ・ベンダから同OSを搭載したNAS製品が次々と出荷されている。Windows Storage Server 2003は、その製品名のとおり、Windows Server 2003をベースにしたストレージ機器向けのOSである。Windows 2000 Advanced ServerをベースにしたWindows Powered Network Attached Storage(Windows Powered NAS)の後継製品に当たる。
製品名 | ベースOS | 特徴 |
Windows Powered NAS | Windows 2000 Advanced Server | Windows OSベースの初のNAS OS。WebブラウザによるNASの設定が可能 |
Windows Storage Server 2003, Standard Edition | Windows Server 2003, Standard Edition | ボリューム・シャドウ・コピーなどWindows Server 2003のストレージに関する拡張機能が利用可能 |
Windows Storage Server 2003, Enterprise Edition | Windows Server 2003, Enterprise Edition | Standard Editionの機能に加え、クラスタ構成をサポート |
Windows Server 2003がベースとなったことで、Windows Storage Server 2003では「ボリューム・シャドウ・コピー・サービス(Volume Shadow Copy Service、以下VSS)」が利用可能になったのが最大の特徴だ。
また、Windows Server 2003と同様、SANの対応も行われており、ファイバ・チャネルによりSANストレージを接続することも可能だ。実際、EMCなどではWindows Storage Server 2003を採用したNASゲートウェイ(NASヘッド)を製品化している。NASゲートウェイは、SANストレージのフロントエンドとして機能し、サーバやクライアントPCからSANストレージをNAS(ファイル・サーバ)として利用可能にする。これにより、これまで別々のストレージを接続していたファイル・サーバやデータベース・サーバなどを、SANストレージとNASゲートウェイを組み合わせることで統合可能となるわけだ。Windows Storage Server 2003がSANに対応したことにより、IAサーバをベースとしたNASゲートウェイが登場可能となった。
Windows Storage Server 2003をNASゲートウェイとした場合のストレージ構成 |
クライアントPCからは、SANストレージがNASゲートウェイを介してファイル・サーバのストレージに見える。一方、WindowsサーバやUNIXサーバは直接SANストレージを接続し、データベースにアクセスすることが可能だ(NASゲートウェイを介してファイル・サーバのストレージにも見える)。 |
これまで、Windows Powered NASを搭載したNASは、25万円前後の比較的エントリ・レベルの製品が多かった。ところが、このように機能が拡張されたためか、Windows Storage Server 2003搭載NASでは、エントリ製品が少なく、どのベンダもミッドレンジ製品を中心にラインアップしている。VSSなどのWindows Storage Server 2003のメリットが生きるのは、ミッドレンジ製品であるという理由もあるようだ。そのためか、現在のところWindows Powered NAS搭載NASをエントリ、Windows Storage Server 2003搭載NASをミッドレンジとしてラインアップを形成するベンダが多い。今回は、そのミッドレンジ・クラスのNASの典型として、デルのPowerVault 775Nを取り上げ、機能などを見ていくことにする。
Windows Storage Server 2003の概要
PowerVault 775Nを見る前に、そのOSであるWindows Storage Server 2003の概要を簡単に説明しておこう。前バージョンであるWindows Powered NASと異なり、Windows Storage Server 2003はStandard EditionとEnterprise Editionの2製品がラインアップされている。Enterprise Editionは、クラスタリングをサポートしており、最大8台までのクラスタ構成が構築可能となっている。Windows Storage Server 2003のベースは、Windows Server 2003 Enterprise EditionのMulti User Interface(MUI/多言語)版で、ドメイン・コントローラやDNSサーバ、DHCPサーバなどの機能が省かれている。Multi User Interface版をベースとしていることから、言語に「日本語」を選択することで、メニューやヘルプなどの日本語への切り替えが可能だ。一部、アイコンなどが英語のままになってしまうが、実用上は、ほぼWindows Server 2003 日本語版と同じなる(修正プログラムは英語版向けを適用する必要がある点に注意が必要)。Windows Server 2003の管理者ならば、違和感なく利用できるだろう。Windows Powered NASでは、Windows 2000 Advanced Serverの英語版をベースにして開発されていたため、メニューやヘルプなどは英語のままであったのとは大きく異なる。ただしWindows Powered NASでも、日本語フォントがインストールされており、ブラウザでの日本語表示は可能である。
Windows Storage Server 2003の特徴は、Windowsネットワークとの親和性が高いことだ。BSD OSやLinuxをベースとするNAS OSでも、Windowsのドメイン・コントローラと協調して、ユーザー情報などが取得できるものもあるが、Windows Storage Server 2003では完全にドメイン環境での統合が可能である。Active Directoryによるユーザー/ネットワークの統合管理が行えるため、単純な共有ファイル・サーバと利用するだけならば、NASをネットワークに接続し、5分程度で設定が完了する。もちろん、UNIX/LinuxやMacintoshでも、Windows Storage Server 2003にユーザー情報を追加することでファイルの共有が可能だ(Windowsのワークグループ・ネットワークも同様)。また基本的なOSやデバイス・ドライバの構造がWindows Server 2003とWindows Storage Server 2003では同じなので、Windows OS向けの豊富なバックアップ・アプリケーションや周辺機器などがそのまま利用できるのもメリットといえるだろう。すでにコンピュータ・アソシエイツのバックアップ・ソフトウェア「BrightStor ARCserve Backup Release11 for Windows 日本語版」などはWindows Storage Server 2003の対応を表明している。このように、ほかのWindowsサーバとバックアップ・デバイスが共用できたり、同じ手法で管理できたり、と運用面でのメリットも大きい。
Windows Storage Server 2003では、NASに特化した管理ツールが付属しており、ユーザー・アカウントや共有フォルダの管理などの各種設定は、Webブラウザを介してリモートから利用可能だ。専任の管理者を置けない支社などでもファイル・サーバとして運用できるだろう。また災害時に備えて、遠隔地のNASにデータを複製するといった使い方においても、容易にリモートで設定が行えるのはメリットである。
NASを利用したディザスタ・リカバリ・サイトの構築例 |
本社と支社を専用線で接続し、本社のNASに保存したデータを支社のNASへ複製しておくことで、本社が災害に遭った場合でもデータの保護が可能だ。 |
またWindows Server 2003の新機能である「ボリューム・シャドウ・コピー・サービス(Volume Shadow Copy Service、以下VSS)」も、Windows Storage Server 2003はサポートする。VSSについては、Windows Server Insider「Windows Server 2003完全ガイド:可用性を向上させるボリューム・シャドウ・コピー・サービス」に詳しいので、参照していただきたい。Windows Storage Server 2003では、VSSの各種設定も前述の管理ツールに統合されており、Webブラウザによって管理可能だ。VSSは単なるファイルのバックアップとは異なり、ある特定時点での瞬間的なファイルやデータの状態を記録した「スナップショット」を保存する機能である。バックアップ・データそのものではないため、大量のデータでも小さな格納領域に保存可能で、作成にもあまり時間がかからないのが特徴だ。また、VSSでは開いているファイルに対してもバックアップが可能であるため、バックアップのためにサービスを止めるなどの必要がない。
VSSには、もう1つ「共有フォルダのシャドウ・コピー」と呼ばれる機能がある。共有フォルダに対してVSSを設定しておけば、誤ってファイルが削除されたり、上書きされたりした場合でも、簡単に元のファイルに戻すことが可能である。だれにでも、共有フォルダ上のファイルを誤って削除してしまったり、古いファイルで上書きしてしまったりした経験はあるだろう。こうした場合でも、特定の共有フォルダに対して、共有フォルダのシャドウ・コピー機能を設定しておけば、変更が加えられるたびにスナップショットが記録されるため、削除されたり上書きされたりしても、元のファイルに戻すことが可能だ(ただし履歴が記録されるのは、管理者が指定した時間だけなので、常にファイルを復帰できるというわけではない)。
このようにWindows Storage Server 2003は、Windows Powered NASに比べて、大幅に機能が向上している。前述のようにこのような機能向上が、各ベンダがWindows Storage Server 2003搭載NASをミッドレンジ製品と位置付ける一因ともなっている。またWindows Storage Server 2003のライセンス料も、Windows Powered NASに比べて、若干高くなっていることが予想される。Windows Storage Server 2003は、基本的にハードウェアとセットで販売されるため、OS単体でのライセンス価格が不明だ。ほぼ同等のハードウェアを採用するIAサーバとNASとの比較から推察するところ、Windows Storage Server 2003 Standard EditionはWindows Sever 2003 Standard Editionと、Enterprise EditionはWindows Sever 2003 Enterprise Editionとほぼ同価格のようだ。同様の換算のおいて、Windows Powered NASがWindows 2000 Serverよりも若干安めだったことを考えると、やはり少し値上げされている印象を受ける。
Windows Storage Server 2003とWindows Server 2003の価格がほぼ同じだとすると、Windows Storage Server 2003は機能が制限されている分、ライセンス料が割高だと感じるかもしれない。だが、Windows Storage Server 2003では、CAL(クライアント・アクセス・ライセンス)が不要である点を考慮する必要がある。例えば、Windows Server向けのCALは5CALで2万6000円、20CALで10万4000円となっている。この分が不要となるので、1台のファイル・サーバを利用する人数が多い企業では、大幅なコスト・ダウンが実現可能になる。
関連リンク | |
Windows Server 2003完全ガイド:可用性を向上させるボリューム・シャドウ・コピー・サービス |
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[解説] NASは新時代ファイル・サーバか? | ||
1.Windows Storage Server 2003の機能拡張ポイント | ||
2.IAサーバがベースになるNASのハードウェア | ||
「System Insiderの解説」 |
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