解説今後の10年を占う新Pentium 4プラットフォームを考察する1.PCI Expressをサポートした初のチップセット 元麻布春男2004/07/29 |
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2004年6月22日にインテルが発表した新しいPentium 4プラットフォームは、デスクトップPC関連としてはここ数年で最も革新的なものだ(インテルの「新プラットフォームに関するニュースリリース」)。新しいプロセッサ・パッケージとバス・アーキテクチャ、メモリがサポートされており、見方によっては今後10年のデスクトップPCを占うものである。まったく新しいバス・アーキテクチャ(PCI Express)が製品として登場するのは、Pentiumの登場に合わせてリリースされた1993年のPCIバス以来のことである。またPCI Expressは、ノートPCやサーバでも採用されることから、デスクトップPCに限らない。つまり、PCIバス以来の大変革ということになる。
新しいパッケージを採用したPentium 4
新しいPentium 4プラットフォームでは、プロセッサのパッケージがこれまでのμPGA478パッケージから、LGA(Land Grid Array)775パッケージに変更される(Pentium 4はパッケージのみの変更で、プロセッサ・コアは以前のものと同じ)。μPGA478パッケージとは、パッケージのピンとソケットの窪みの凹凸が逆になり、プロセッサ側にはピンがないのが特徴だ。つまり、プロセッサ側は平らな接点(Land)が並んでいるだけで、ソケット側に接点に接触するピンが並ぶ。これまでのパッケージに比べ、接点のピッチを小さくできる(小さなパッケージで接点数を増やすことができる)こと、点接触の方がインダクタンス(電磁誘導のおこりやすさ)が小さく高速動作に向く、といった利点が挙げられている。
新しいパッケージを採用したPentium 4(ソケット側) |
新しいPentium 4は、LGA775と呼ばれる新パッケージが採用された。Land Grid Arrayの名前からも分かるように、ピンに代わりフラットな接点が採用されている。 |
この新しいパッケージ/ソケットに組み合わせの導入に伴って、ヒートシンクを固定する仕組みも変更になっている。これまでは、マザーボードにリテンションと呼ばれるヒートシンク固定用のパーツを固定し、ヒートシンクをリテンションに対して取り付ける形だったが、LGA775パッケージではヒートシンク側に固定用のブッシュが一体化しており、マザーボード上の固定穴にそのまま押し込んで固定するよう改められた。現時点では着脱を繰り返した場合の耐久性などは分からないが、少なくとも初回の取り付けだけは格段に容易になっている。この固定メカニズムの変更に加え、ヒートシンクファン用の電源コネクタも4ピンのもの(いままでの3ピン・コネクタの上位互換)に改められ、冷却ファンの回転数制御の精度が向上している。
LGA775ソケットの形状 |
写真のようにLGA775ソケットは、これまでのμPGA478とは異なり、ソケット側にピンが付く形状になった。写真上側の穴はヒートシンクを固定するためのもの。なおマザーボード購入時は、ピンを痛めないようにカバーが取り付けられている。 |
新しいヒートシンクの固定法 |
ヒートシンクには、固定用のブッシュ(ヒートシンク手前の黒いピン)が一体化されており、マザーボードの穴に直接固定する方式になっている。これにより、プロセッサに対して力が直接加わらなくなるため、重い、大型のヒートシンクも取り付け可能となった。 |
さらに、このLGA775パッケージの採用と同時に、すでにモバイル向けのPentium Mプロセッサで採用されていたプロセッサ・ナンバが、デスクトップPC向けのプロセッサでも採用された(プロセッサ・ナンバについては、「解説:IDF JapanのキーワードはItaniumとUWB?」参照のこと)。今回発表されたのは、プロセッサ・ナンバで560(動作クロック3.60GHz)、550(同3.40GHz)、540(同3.20GHz)、530(3GHz)、520(2.80GHz)の5種類の90nmプロセスによるプロセッサ(Prescottコア)と、130nmプロセスによる3.40GHz動作のPentium 4 Extreme Edition(Pentium 4 EE)の合計6種類である。新たに追加された動作クロックは3.60GHzのみで、発表時点では入手性が悪かったが、すでに店頭でも見かけるようになっている。またPentium 4 EEはプロセッサ・ナンバではなくこれまでどおり動作クロックで呼ばれることになるが、年内にもプロセッサ・ナンバで呼ばれるPentium 4 EE(90nmプロセスによるPentium 4 EE)が登場するといわれている。
新しい3種類のチップセットの位置付け
これらのプロセッサと同時に発表されたのがIntel 925X/915P/915Gの3種類のチップセットだ。新しいプロセッサが、既存のμPGA478パッケージと同じコアを使用していることでも分かるように、今回発表されたLGA775パッケージの外部バスも、基本的に変更がない。その気になれば既存のチップセット(Intel 875/865)で対応することも可能だ。実際、市場にはLGA775パッケージに対応したIntel 865チップセット搭載のマザーボードが存在する。だが、Intelはあえてプラットフォームを全面的に更新する道を選んだ。逆にいうと、新しいチップセットでμPGA478ソケット対応のマザーボードも可能なわけだが、Intelは2004年後半、PCI ExpressをCeleronプロセッサに対しても利用可能にするまで、こうした構成のマザーボードは提供しない方針らしい。
Intel 925X/915P/915Gは、前世代のIntel 875PとIntel 865P/Gと同様、同じチップセット・コアをベースにしたものだと考えられる。0.18μmプロセスで製造されていたIntel 875P、Intel 865P/Gと異なり、0.13μmプロセスで製造されるのも、Intel 925X/915P/915Gの特徴の1つである。
Intel 925Xはハイエンド・デスクトップならびにシングルプロセッサのローエンド・ワークステーション、Intel 915Pがハイエンド・デスクトップ、Intel 915Gがメインストリームをそれぞれターゲットとする。Intel 925Xは、Intel 875Pと同様、メモリ・アクセスの最適化技術を用いた性能上のプレミアム(2〜5%程度)を有している。いずれのチップセットもPCI Expressによるグラフィックスをサポートしており、Intel 915Gのみがグラフィックス機能を内蔵する。
Intel 925X | Intel 915P | Intel 915G | |
メインターゲット | ハイエンド・デスクトップ/ローエンド・ワークステーション | ハイエンド・デスクトップ | メインストリーム |
対応するFSB | 800MHz | 533MHz/800MHz | 533MHz/800MHz |
サポート・メモリ | DDR2 533/400 | DDR2 533/400 または DDR 400/333 | DDR2 533/400 または DDR 400/333 |
メモリ・バスのECCサポート | あり *1 | なし | なし |
DIMMスロットの数 | 4本 | 4本 | 4本 |
メモリ・アクセスの最適化 | あり | なし | なし |
内蔵グラフィックス・コア | なし | なし | あり (GMA900) |
x16 PCI Expressスロット | あり | あり | あり |
Intel 925X/915P/915Gの主な仕様 | |||
*1 一部、サポートしていないリビジョンあり |
新しい拡張インターフェイス「PCI Express」のサポート
Intel 925X/915P/915Gで採用されているPCI Expressは、現在幅広く使われているPCIバスと、そのバリエーションであるAGPを置き換える新しい外部バス技術である。当初、2001年春のIDFで紹介されたときは3GIO(3rd Generation I/O;ISA、PCIの次となる第3世代I/O技術の意)という仮称が付けられていた。その後、PCIの後継として同技術の標準化団体であるPCI SIGへ提案され、「PCI Express」として正式に承認された。PCI SIGはIntelだけでなく、最大のライバルであるAMDもメンバーに名を連ねており、そこでの承認はPCI ExpressがPCIに代わるものとして広範に使われていくことが、事実上認められたことを意味する。また、PCI Expressの前にIntelが提案したNGIO(現在のInfiniBand)が、主にサーバ向けのI/O技術であったのに対し、PCI ExpressはノートPCからサーバまで幅広い応用分野が想定されている。
PCI Expressが過去のバス技術と大きく異なるのは、シリアル・インターフェイスを元にしたものである、という点だろう。基本となるのは0.8Vで差動駆動される電気信号線による単方向のポイント・ツー・ポイントのインターフェイスだ。低電圧化により、新しい微細化した半導体プロセス技術に統合することが容易になる。クロック信号は8b/10bエンコーディングによってデータ信号自体に埋め込まれており、外部クロックを必要としない。クロック信号を埋め込む代償として帯域の20%が消費されるが、(外部クロック用を含む)信号線が少なくて済み、クロック信号のズレ(スキュー)を気にせずに済むため、高速化が容易になるというメリットがある。今回製品化されることになった第1世代のPCI Express(PCI Express 1.0)がサポートするデータ・レートは2.5Gbit/s(実効データ・レートは上述のペナルティを差し引いた2Gbit/s)だが、将来的には5Gbit/s、10Gbit/sへの引き上げが計画されている。
実際のPCI Expressでは、この単方向のリンクを2本、双方向で組み合わせて用いる(4本の信号線が用いられる)。この最小単位を「レーン」と呼ぶ。1レーンの実効帯域は、上りと下りそれぞれ250Mbytes/sということになる。PCI Expressでは、必要とされる帯域に応じて複数のレーンを組み合わせて用いることが可能だ。
Intel 925X/915P/915Gでは、グラフィックス用に16レーン(x16)のPCI Expressをサポートする。上り/下り方向、それぞれ16本の単方向リンクで構成されていることを意味しており、それぞれ1方向当たりのピーク帯域は4Gbytes/s、双方向で8Gbytes/sの帯域がグラフィックス用に確保されている。
PCI Expressのレーン構成 |
PCI Expressは、4本の信号線を1レーンとするシリアル・インターフェイスである(1レーンのPCI Expressは、PCI Express x1と表される)。グラフィックス用では、16レーンのPCI Expressがサポートされる。 |
余談になるが、NGIOでは複数のリンクを必要とされる帯域に応じて非対称に用いることが可能であった。例えば、上りが20本、下りが12本といった使い方も可能なように設計されていた。しかし、この仕様ではソフトウェアが複雑化するため、PCI Expressではそれぞれの伝送路の方向性が固定された。帯域は常に対称となるようになったわけだ。
x16のようにレーン数の多いスロットは、x1スロットやx4スロットに対して上位互換性を持っており、グラフィックス用のx16スロットに、x1スロット対応のカードを差したり、サーバなどで用いられるx4スロット対応のカードを差したりすることもできる。AGPスロットが、グラフィックス・カード以外の周辺機器を接続できなかったのと大きく異なるところだ。PCI Expressはデータ・レートの引き上げだけでなく、複数レーンの組み合わせというオプションを用意したことで、長期に渡ってさまざまな用途に耐えられるスケーラビリティを確保したといえるだろう。
次ページでは、PCI Express以外のIntel 925X/915P/915Gで強化された機能を解説する。
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IDF JapanのキーワードはItaniumとUWB? |
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[解説] 今後の10年を占う新Pentium 4プラットフォームを考察する | ||
1.PCI Expressをサポートした初のチップセット | ||
2.新チップセットで強化された機能 | ||
「System Insiderの解説」 |
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