解説

新世代を迎えるIntel、その方向性は?

1. プロセッサからプラットフォームへと舵を切るIntel

元麻布春男
2006/01/28

解説タイトル

 2006年1月3日、Intelは新しい企業ロゴとそれを用いたブランディング、新ブランドに基づく製品群を発表した。その2日後に米国ネバタ州ラスベガスで開催された2006 International CESにおけるIntelのポール・オッテリーニ(Paul Otellini)社長兼CEOの基調講演は、これら新ロゴとブランドのお披露目の場となった。

Intelのポール・オッテリーニ社長兼CEO
2006 International CESの基調講演で、Intelのポール・オッテリーニ社長は新しい企業ロゴとブランドを披露した。

プラットフォーム戦略へのシフトの意味

 2005年1月に実施した組織改革を期に、Intelは自らをプラットフォーム・カンパニーと呼び始めた。Intelのいうプラットフォームとは、マイクロプロセッサ、チップセット、さらにはソフトウェアまで含んだものだが、これらの製品の販売を始めたのは、何も2005年のことではない。Intelが最初にチップセットをリリースしたのは1988年のことであり、1990年代半ばにはマザーボード・ビジネスを展開している。MMX命令を始めとするSIMD命令セットの導入に際し、Intelはソフトウェア・サポートを提供してきたし、すでにIntelのコンパイラのメジャー・バージョンは「9」まで重ねている。マイクロプロセッサ以外の製品の開発や供給も、昨日、今日に始めたものでないことは明らかだ。

 もし違いがあるとすれば、従来はマイクロプロセッサ以外の製品に、マイクロプロセッサを売るための従属物的な要素が強かったのに対し、現在はマイクロプロセッサ以外の製品に、より大きな価値を認めていることではないかと思う。これまで高性能のプロセッサは、無条件に顧客に望まれるものであり、高い価格で売れた。現在でも高性能は望まれているものの、消費電力とのバランスや、システム全体における価格バランスを無視することができなくなりつつある。

 どんなに高性能でも、巨大な冷却ファンがうるさいほど回るシステムはもはや望まれていないし、大型の液晶パネルを採用した高価なコンシューマ向けPCにおいて、安価なCeleronを搭載した製品ももはや珍しくない。サーバにしても、マシンルームの設置スペースや空調まで考えると、もはや消費電力の問題は避けて通れないものになりつつある。

 そもそも消費電力の問題は、プロセッサ製造プロセスの微細化による、リーク電流の増大に起因している。これが消費電力を深刻な問題にすると同時に、以前のように動作クロックを引き上げてマイクロプロセッサの高性能化を図ることを困難にしている。登場時に、5GHzを超えて10GHzを目標にすることをうたい文句にしていたNetBurstマイクロアーキテクチャのプロセッサ(Pentium 4)の動作クロックが、4GHzを前に足踏みしてひさしい。単純な力任せの高性能化/高クロック化を続けることは、それを欲しいと思う側からも、それを作る側からも限界に達しつつある。

 動作クロックの引き上げによる力任せの高性能化に代わる「価値」は何か。もし新しい「価値」が見つからなければ、新しい高価なプロセッサは必要とされなくなる。Intelはムーアの法則を今後も継続させていくための技術的な道筋は付けたと述べているが、ムーアの法則により増加するトランジスタの価値が認められなければ、ムーアの法則を続けていく意味がない。

 単純な動作クロックの引き上げに代わるものとして、Intelが提案しているのがプラットフォーム戦略だ。その第一弾となったのが2003年1月に発表、同年3月に製品化されたモバイル向けプラットフォーム技術のブランドとなる「Centrinoモバイル・テクノロジ」である。Centrinoではマイクロプロセッサ、チップセット、無線LANモジュール、Intel PRO/Wirelessソフトウェアが1つのプラットフォームを構成する。そしてCentrinoが、性能とバッテリ駆動時間のバランスに優れたものであるとアピールすると同時に、無線LANホットスポットの互換性検証/動作確認を行った。

 もちろん、Centrinoだからといって、無線LAN技術の規格そのものに違いがあるわけではない。他社の無線LANモジュール/チップであろうと、IEEEの規格に準拠していれば接続できる。しかし単に技術的に接続できることと、接続できることが保証されていることでは、やはり異なるのである。同じ無線接続技術であるBluetoothに比べ、無線LAN(Wi-Fi)の方が普及の立ち上がりが早かったのは、こうした検証とマーケティングのおかげだと考えられる。

 Intelのプラットフォーム戦略は、成功したCentrinoの戦略をほかの分野にも広めていくことだ。リビングルームPC、ビジネス・クライアント、サーバなど特定の用途にプラットフォームをチューニングすることで、性能だけでなくエネルギー効率も高まる。それがプラットフォームそのものの価値につながるわけだ。2005年当たりからIntelがよく口にするプラットフォーム技術「*Ts(スター・ティーズ)」は、I/OAT(Intel I/O Acceleration Technology)、iAMT(Intel Active Management Technology)、VT(Intel Virtualization Technology)などどれもマイクロプロセッサ、チップセット、ソフトウェアを組み合わせたものだが、例えばI/OATによるネットワーク・スループットの向上は、マイクロプロセッサだけ、ネットワーク・コントローラーチップだけで行う場合に比べて効率がよい。

一新された企業ブランド

 こうしたプラットフォーム戦略は、まだ始まったばかりだが、今回のCESで発表された新ブランディングは、この新しい戦略を象徴するものと考えられる。Intelでは操業当初から1980年代初めのメモリが事業の中心だった時代をIntel 1.0、1980年代から1990年代のプロセッサ中心の時代をIntel 2.0、そして21世紀のプラットフォーム企業としての自らをIntel 3.0と呼ぶ。新しいブランディングは、新しいIntel 3.0を顧客へ伝えるためのもの、といってもいい。

年月 マイルストーン
1988年9月 初の自社製チップセットとして82350を発表
2003年1月 モバイル・プラットフォームのブランドとして「Centrino」を採用すると発表
2003年3月 Centrinoブランド初となる製品をリリース
2004年2月 IDF Spring 2004でAMD互換の64bit拡張技術の採用を発表
2004年5月 ラージ・コア・プロセッサであるTejas(テジャス)とJayhawk(ジェイホーク)をキャンセル
2004年5月12日 エンタープライズ・プラットフォーム事業部長であったマイク・フィスター(Mike Fister)副社長辞任
2004年5月13日 春のアナリスト・ミーティングでデュアルコア/マルチコア路線を明確に
2004年6月 初の64bit拡張技術(EM64T)搭載Intel Xeon(Nocona)を発表
2004年11月 次期CEOにポール・オッテリーニCOO(当時)を選任
2005年1月 プラットフォーム中心の組織改革を断行
2005年5月 初のデュアルコア・プロセッサとなるPentium D(Smithfield)をリリース
2005年5月 ポール・オッテリーニ氏、CEOに就任
2005年8月 IDFでデジタル・ホーム向けプラットフォームのブランドとして「Viiv」を採用すると発表
2006年1月 新企業ロゴとブランディングを発表
2006年1月 新ブランドのプロセッサIntel Coreをリリース
2006年1月 Viivプラットフォームの立ち上げを発表
表区切り
Intelがプラットフォーム・カンパニーに生まれ変わるまでのマイルストーン

 新しい企業ロゴは、2本のスォッシュ(Swoosh:太さが徐々に変わっていく曲線。スニーカー・メーカーのNikeのロゴで有名)で構成されるだ円の中に、Intelの文字が収められたものだ。従来のIntel Insideロゴをベースにしながら、新しいフォントを採用、eの文字を半分下げることも止めている(色もわずかに変更された)。また、企業ロゴとして利用する際は、英文であれば「Leap ahead」、和文であれば「さあ、その先へ」というタグラインが加わる。このタグラインはロゴと一体化したものであり、当面、変更する予定はない。

大きな図へ
Intelの新ロゴ
Intel Insideロゴも新しい企業ロゴをベースにしたものに変更される。すでに各PCベンダの2006年春モデルのPCには、このIntel Insideロゴが貼られている。

 このIntelロゴを上部に配し、下部にプラットフォーム名やプロセッサ名を配したものが、統一された製品ロゴとなる。従来は製品系列ごとにバラバラのデザイン、配色となっていたが、今回、一貫性を持ったデザインとなったわけだ。従来の企業ロゴ、製品ロゴは認知度が高く、それだけで膨大な価値があったわけだが、イメージが固定しつつあった。そのイメージは、高品質、安定、堅実といったポジティブなものの一方で、手堅すぎて面白みに欠ける、というものもあったという。そうしたイメージを一新する狙いも、新しい企業ブランドにはこめられている。

 次ページからは、2006年1月3日に発表された製品群を見ていこう。

 
 
 INDEX
  [解説]新世代を迎えるIntel、その方向性は?
1. プロセッサからプラットフォームへと舵を切るIntel
  2. 新プロセッサ「Intel Core」を発表
  3. 新たなプラットフォーム「Viiv」をリリース
 
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