解説

新世代を迎えるIntel、その方向性は?

2. 新プロセッサ「Intel Core」を発表

元麻布春男
2006/01/28

解説タイトル

新しいモバイル・プラットフォームをリリース

 この新しいブランディングに基づき発表された実際の製品は、3世代目となるCentrinoと、現行のNetBurstマイクロアーキテクチャを用いたデスクトップPC向けのプロセッサ(Pentium Extreme Edition、Pentium D、Pentium 4 6x1)だ。加えてデュアルコア・プロセッサを用いたデジタル・ホーム向けプラットフォーム・ブランドのViiv(ヴィーブ)についても、ブランディングを満たす具体的な要件、さらには関連製品およびサービスの立ち上げが行われた。

 まず新しいCentrinoだが、これまで「Napa(ナパ)」という開発コード名で知られてきたものだ。その中核となるのは、主にモバイルPC向けのプロセッサとなるIntel Coreだ。「Yonah(ヨナ)」という開発コード名で知られるIntel Coreだが、デュアルコア版(Intel Core Duo)とシングルコア版(Intel Core Solo)があり、デュアルコア版には低電圧版も用意される。Viivはデュアルコア・プロセッサを用いたプラットフォームにのみ与えられるブランドだが、Centrinoは既存のPentium Mとの関係もあり、Intel Core Duo、Intel Core Soloともに該当する。

 これらIntel Coreの概要は、プロセッサ・ナンバで容易に識別できる。最初のアルファベットが「T」(Thin & Lightの略だと考えられる)であれば通常電圧版、「L」(Low Voltageの略だと考えられる)であれば低電圧版だ。アルファベットは、全部で4種類あるといわれているが、残る2つはまだ発表されていない。そして、数字の1番上の桁(1000の桁)がコアの数で、T2xxxなら通常電圧版のデュアルコアという具合だ。プロセッサの物理サイズやパッケージは従来のPentium Mと変わらないため、同じソケット、熱容量的に問題がなければ同じヒートシンクが利用可能だ。ただし、ピン配列が異なっているため、Pentium MとIntel Coreで同じプラットフォームを共有したり、Pentium MからIntel Coreへ差し替えて利用したりすることはできない。

 Intel Coreの機能的な詳細については下表にまとめておいたので、そちらを参照してほしい。現行のPentium M(Dothan)に比べ動作電圧は下がっているものの、トランジスタ数が若干増えていること(1億4000万個から1億5160万個)、FSBが引き上げられていることなどから、4WほどTDP(熱設計電力)は増えている。しかし、チップセットや無線LANモジュールといったプラットフォームを構成するほかのパーツで省電力化を図った結果、プラットフォームとしてのNapaはSonomaに比べ、28%ほど消費電力が低下したという。なお、デュアルコアのCore Duoは、シングルコアのCore Soloに比べてTDPが4Wしか高くない。デュアルコアが、性能向上に比べて、消費電力に与えるインパクトが小さいことが分かる。これでIntelがデュアルコア/マルチコア/メニーコア路線へ転じた理由が実証された。

プロセッサ名 プロセッサ・ナンバ コード名 コア数 2次キャッシュ 製造プロセス FSBクロック TDP HT 同時処理スレッド数 EM64T VT SIMD命令
Intel Core Duo T2xxx Yonah デュアル 2Mbytes 65nm 667MHz 31W なし 2スレッド なし あり SSE3
Intel Core Duo L2xxx Yonah デュアル 2Mbytes 65nm 667MHz 15W なし 2スレッド なし あり SSE3
Intel Core Solo T1xxx Yonah シングル 2Mbytes 65nm 667MHz 27W なし 1スレッド なし あり SSE3
Pentium Extreme Edition 955 Presler-XE? デュアル 2Mbytes×2 65nm 1066MHz 130W あり 4スレッド あり あり SSE3
Pentium D 9xx Presler デュアル 2Mbytes×2 65nm 800MHz 130W/95W なし 2スレッド あり あり SSE3
Pentium 4 6x1 Cedar Mill シングル 2Mbytes 65nm 800MHz 86W あり 2スレッド あり なし SSE3
表区切り
2006年1月3日に発表されたプロセッサ群とその機能
950(3.4GHz)および940(3.2GHz)は130W、930(3GHz)および920(2.8GHz)は95W

 さて、プロセッサのTDPを抑える一方で、性能は最大で70%向上したとしている。ここで示されている70%という数字は、製品レベルのシリコンによるSPECfpの性能比較で、もちろんプロセッサ・コアがデュアル化された恩恵やFSBの引き上げによる性能向上分が含まれる。さらにチップセットの改良によるメモリ・クロックの引き上げ(533MHzから667MHz)も貢献している可能性がある。

   
パフォーマンス・モード
バッテリ・モード
プロセッサ 米国OEM価格 動作クロック TDP コア電源電圧 動作クロック TDP コア電源電圧
Intel Core Duo T2300 241ドル 1.66GHz 31W 1.1625〜1.3V 1GHz 13.1W 0.95V
Intel Core Solo T1300 209ドル 1.66GHz 27W 1.1625〜1.3V 1GHz 13.1W 0.95V
Intel Core Duo L2400 316ドル 1.66GHz 15W 1.0〜1.2125V 1GHz 13.1W 0.95V
表区切り
Intel Coreの同じ動作クロックによる比較

 また、SIMD命令がSSE2までのサポートであったDothanに対し、SSE3をサポートしたYonahでは、浮動小数点演算においてx87互換命令に依存しないで済む点も性能向上に寄与しているハズだ。それでも先行して発売されたデスクトップPC向けのデュアルコア・プロセッサ(SmithfieldコアのPentium D)とシングルコア・プロセッサ(PrescottコアのPentium 4)を比べた場合より、性能向上比が大きくなっているのは、2つのコアで2次キャッシュを共有するSmartCacheの恩恵だろう。

 IntelはこのIntel Coreについて、2つの意味でモバイルPC専用のプロセッサではないとしている。1つはブランドという意味で、「Intel Core」はIntelのプレミアム・プロセッサのブランドであり、置き換えるのは「Pentium」であって「Pentium M」ではない。つまり、今後、ノートPC用には必ずしも適さないプロセッサ(例えば新マイクロアーキテクチャを搭載したデスクトップPC向けのConroe)も、Intel Coreブランドで登場する可能性が高い。

 2つめは、このYonahによるIntel Coreの位置付けである。確かに用途はモバイルPCが中心になるが、省スペースのデスクトップPC、あるいはファンのノイズを徹底的に排除したいような用途においては、デスクトップPCに用いることが想定されており、こうした用途向けのチップセットも提供される(Intel 945GT)。Intelがすでに公開している省スペースタイプのリファレンス・デザインにYonahを用いたものがあるほか、CESの翌週に開催されたMac World Expoで発表されたデスクトップ・タイプのMacintosh(iMac)にもYonah(Intel Core Duo)が採用されていた。

 さて、Napaプラットフォームを構成するほかのコンポーネントだが、チップセットのMobile Intel 945 Expressチップセット・ファミリ、無線LANモジュールであるIntel PRO/Wireless 3945ABGで構成される。これまでCalistoga(カリストガ)というコード名で知られてきたIntel 945 Expressチップセット・ファミリは、PCI ExpressのサポートやDDR2 SDRAM対応といった基本的な機能は、デスクトップPC向けのIntel 945 Expressチップセットと同じである(SATAポートの数が少なかったり、1.5Gbits/sに抑えられていたり、といった違いはある)。グラフィックス機能を持つIntel 945GMおよびIntel 945GT(デスクトップ用途向け)、グラフィックス機能を持たないIntel 945PMの合計3種が発表されている。GTはGMに比べグラフィックス・コアの動作クロックが高く(つまりグラフィックス性能が強化)設定されている半面、低電圧版のプロセッサをサポートしない。

 デスクトップ用途向けのGTも含めて、いずれのチップセットでも組み合わされるICH(I/Oコントローラ・ハブ)はICH7-Mとなる。これは、Yonahの省電力モード(Intel SpeedStep TechnologyおよびDeeper Sleepモード)に対応するのがICH7-Mであるからだ。このICH7-Mには、通常版(Base)とデジタル・ホーム向け(DH)の2種類があり、後者ではPCI Expressポートが2ポート増えているほか、Intel Quick Resume Technologyのサポートが行われる。

 Intel Quick Resume Technologyは、電源スイッチを押すことで、ディスプレイ出力とオーディオ出力を無効にし、電源スイッチ以外の入力デバイス(キーボードおよびマウス)への応答を停止するものだ。PCそのものは動作状態にあるため、再び電源スイッチを押すことで瞬間的にディスプレイ表示とオーディオ出力が復元される。PCに家電のような使い勝手を与えることを目的とした機能である。

 無線LANモジュールの3945ABGは、その名前のとおり、IEEE 802.11a/b/gの3つのモードに対応した無線LANモジュールで、Intelとしては初のPCI Expressのミニカード製品となる。既存のPCI ベースのmini Cardと比べ半分ほどの大きさだ。スペックを見る限り、ソフトウェアのアップデート以外に大きな改善はないように見受けられるが、2945ABGに比べ実効到達距離が改善されているという。

 最後のページでは、新プラットフォーム「Viiv(ヴィーブ)」を見ていこう。

 
 INDEX
  [解説]新世代を迎えるIntel、その方向性は?
  1. プロセッサからプラットフォームへと舵を切るIntel
2. 新プロセッサ「Intel Core」を発表
  3. 新たなプラットフォーム「Viiv」をリリース
 
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