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最新の無線技術が分かるキーワード

1. 次世代無線技術に関するキーワード

鈴木淳也
2004/05/27

 まず、次世代無線技術に関するキーワードを解説しよう。

■UWB(Ultrawideband)
 10m未満の短距離で100Mbps超の通信を行う高速無線技術。

 UWBでは、パルスと呼ばれる微弱な信号を広帯域にまたがって送出することで高速通信を実現している。これが「超広帯域(Ultra-Wide-Band)」と呼ばれるゆえんである。WPANを策定するIEEE 802.15.3aで標準化作業が進められており、同じ短距離無線技術で1〜2Mbit/sの通信速度を持つBluetoothを置き換える技術として注目されている。実質的には100〜150Mbits/sクラスが標準的な速度だが、実験レベルではFCC準拠の出力で110〜480Mbits/sの通信にも成功しており、今後さらに通信速度が伸びると期待される。

 技術の標準化にあたっては、IEEE 802.15.3aタスク・グループ(TG3a)を中心に、IntelやTexas Instruments(TI)らが参加する業界団体のMBOA(Multi-Band OFDM Alliance)と、Motorolaを中心とした陣営が、それぞれの標準を提案している。だがUSBやIEEE 1394など、幅広いメディアをサポートしたいMBOA側と、現状で進んでいる提案を維持したいMotorola陣営とで対立が発生している。

 一時MBOAがTG3aを離脱して、独自に仕様策定を進めると発表したことから規格の分裂が懸念されていた。だが4月15日にもう1つの業界団体であるWiMedia AllianceがMBOA側の主張を認めたことで、UWB規格分裂の危機は回避されたとみられる。今後は、TG3aでMBOA案を中心に標準化が進むことになるだろう。このペースでいけば、実際の製品登場は早くて2005年中旬とみられている。

 UWBでは「MBOA UWB PHY」「MBOA MAC」という2つの物理層と、物理層の上で動作するアプリケーションとの仲介役となる緩衝層の「WiMedia」らの層を定義することで、Wi-Fiのような通常のデータ通信以外にも、ワイヤレスUSB(WUSB)、ワイヤレス1394(W1394)、DHWG(Digital Home Working Group)策定によるTCP/IPスタックなどの各種メディアのサポートが行われる。中でもWUSB 1.0は、2004年内には策定が完了する見込みだ。
 
■WiMedia(ワイメディア)
 非営利の業界団体であるWiMedia Allianceが提案する、UWB向けの抽象層。

 高速無線通信を実現するUWBでは、無線LANの代替や、高精細(High-Definition)テレビでのストリーミング、PC周辺機器を接続するUSBまで、各種メディアでの利用が想定されている。UWBという共通のインフラ上で、これら技術を同時にサポートする目的で提案されたのが「WiMedia」だ。WiMediaは、USBやIEEE 1394などのアプリケーション層と、UWB本体の物理層の間に存在し、両者の通信を仲介し、抽象化する中間層として動作する。これにより、各種メディアの同時サポートのほか、無線で問題となる通信の干渉を防ぎ、帯域の利用効率をアップさせる効用がある。
■MBOA(Multi-Band OFDM Alliance)
 UWB利用促進と標準化推進のために設立された業界団体。

 IntelやTIなどの半導体メーカーから、ソニーなどのAV家電メーカーまで、業界関連120社が集まり、2003年6月に設立された。主に、MAC PHYなどのUWB向けの物理層での提案を行っている。IEEEのTG3aを中心に、WiMedia AllianceなどUWB標準化団体が多数存在しているが、事実上、MBOAがUWB標準化の陣頭指揮を行っているといえるだろう。
■MIMO(Multi Input / Multi Output)
 2点間の無線通信に複数アンテナを用いることで、高速、高信頼性通信を実現する技術。

 通常の無線通信では、送受信者ともに1つのアンテナを用い、通信に用いるのも1チャネルというのが一般的だ。だが、両者ともに複数のアンテナを用意して、複数チャネルを使って同時に通信を行うことで、より高い伝送レートを得ることが可能となる。例えばアンテナが4本になれば、単純計算で4倍の帯域を得られることになる。また複数チャネルを用いることで、ある特定の通信中のチャネルに強いノイズなどが混入したとしても、残りのアンテナとチャネルの組み合わせで通信の継続が可能となり、結果として高い信頼性を得ることが可能となる。

 だがMIMOの実現には、いちど通信を複数のチャネルに分解、再結合させる必要があり、この部分の実現が技術的に難しいとされている。携帯電話などを始め、現在各分野でMIMOの利用が研究されている。
 
■WiMAX
 30マイル(約48km)の距離を最大70Mbits/sでカバーする中距離無線技術。

 WiMAXとは、中距離無線LAN(WMAN)の業界標準を策定するWiMAX Allianceによって提案され、IEEE 802.16aで標準化作業が進んでいる技術である。通常は、業界団体の名称をとって「WiMAX」と表記される。WiMAX第1世代の802.16a仕様では、30マイル(約48km)までの距離を最大70Mbits/sで結ぶことが想定されている。この第1世代のWiMAXでは、基地局のアンテナと、各家庭やオフィスの屋外に設置されたアンテナ間での通信が中心である。そのため、どちらかといえば無線LAN的な使い方というよりは、ラスト・ワン・マイル技術の1つとしてADSLなどが利用できない地域にブロードバンド接続を持ち込むための手段として考えられている。

 Intelによれば、第1世代WiMAX向けのチップが2004年中旬に出荷される予定で、2005年の早い段階で市場に製品が出回るとみられている。2005年後半に登場するといわれる第2世代WiMAXでは屋内アンテナもサポートし、2006年の第3世代WiMAXではノートPC向けのモバイル・アンテナが提供され、移動体通信としても利用も考慮される予定だ。

 だがWiMAXの通信では、最大70Mbits/sの帯域を複数の端末でシェアすることになるため、大都市圏などでの利用では思ったほどのパフォーマンスは出せないとみられる。WiMAXが向いている用途としては、大都市での利用というよりも、ADSLやFTTHの導入が難しい地方都市などでの安価なインフラ整備だろう。
■IEEE 802.11h
 5GHz帯を使用する無線LAN規格IEEE 802.11aのMAC層向け追加仕様。

 欧州での無線通信の規約で求められているTPC(Transmission Power Control)とDFS(Dynamic Frequency Selection)をIEEE 802.11aに追加するため策定された。TPCは利用状況に応じて電波の出力を制限することで、電力消費を最小限度に抑える仕組み。一方のDFSは、通信を行う前に周波数の空き帯域を調べてから電波を発することで、電波の混信を防ぐ仕組み(「DCS:Dynamic Channel Selection」という名称が使われることもある)。IEEE 802.11aの標準化が遅れていたのは、このIEEE 802.11hをサポートするためだったといわれている。
 
■TD-SCDMA(Time Division Synchronous Code Division Multiple Access)
 第3世代携帯電話(3G)規格の1つで、中国独自のもの。

 3Gの仕様を策定する3GPP(Third Generation Partnership Project)が承認した規格の1つで、ドイツのSiemensと中国の大唐集団を中心に開発が進められた。第2.5世代携帯のcdmaOneや第3世代携帯のW-CDMA、CDMA2000などで採用されているCDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多重アクセス)方式と、第2世代のPDCなどで使用されているTDMA(Time Division Multiple Access:時分割多重アクセス)の2つの方式を組み合わせたものだ。

 TD-SCDMAでは、時分割多重方式により1つのチャネル内を、上り方向と下り方向の通信に細かく分割することで、周波数の利用効率アップを実現しているのが特徴である。そのため、大都市などの人口密集地帯では特に有効な方式であるといわれる。5月中旬の時点で、実際に中国国内でフィールド・テストが実施されている。

 TD-SCDMAはインフラ展開に必要なコストが少なく済むといわれており、広大な領土にこれからインフラを展開していく中国には最適なソリューションの1つだといえるだろう。半面、データ通信面での弱点も指摘されており、当面は音声通話を中心としたインフラ展開になりそうだ。
■TD-SCDMA(MC)(TD-SCDMA Multi Carrier)
 TD-SCDMAの改良版でさらに効率の高い通信を実現する規格。

 TD-SCDMAの開発者の1人であるシュー・グアンハン博士(Dr. Guanghan Xu)氏が設立したNavini Networksより提案されている、TD-SCDMAの改良技術。端末のアンテナに指向性を持たせることで、ほかの通信との干渉を最大限に抑える「スマート・アンテナ」、周波数を500kHzごとの10のサブ・キャリアに区切って通信品質を高める「マルチ・キャリア」、出力効率を高める上り通信の同期などの技術を備えることで、TD-SCDMAよりも高い転送レートを実現する。

 日本では、イー・アクセスがTD-SCDMA(MC)を使った携帯電話サービスの実験を総務省に申請しており、今年2004年2月より評価を行っている。
 

 次ページでは、無線ネットワーク向けのセキュリティ技術に関するキーワードを取り上げる。

  関連リンク 
WiMedia Allianceのホームページ
Multiband OFDM Allianceのホームページ
WiMAX Forumのホームページ
IEEE 802.16 Working Groupのホームページ
TD-SCDMA forumのホームページ
 

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    2.無線セキュリティ技術に関するキーワード
 
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