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HTML5が拓く新しいWebHTML5が拓く新しいWeb(8. html5-dev-jp編)

HTML5はコミュニティやベンダの
知恵や経験の蓄積

新野淳一 Publickey
2010/7/16

 Web標準のHTML5への進化は、ベンダに対してだけでなく、コミュニティ活動にも影響を与えています。HTML5に関するメーリングリスト「html5-developers-jp」の管理人で、「HTML5とか勉強会」なども主催されている白石俊平氏に、HTML5との出会い、コミュニティ活動のきっかけなどについて聞きました。

GearsからHTML5へ

―― 白石さんはいま、「html5-developers-jp」のメーリングリストの管理人で、かつ「HTML5とか勉強会」などの勉強会も主催されていらっしゃいますよね。HTML5の本「HTML5&API入門」も出されています。そもそもHTML5との出会いはいつごろで、どうしてHTML5だったのですか?

 HTML5について具体的に知ったのは、2009年5月のイベント「Google I/O」でHTML5が話題になったときですね(参考:グーグルが賭けるHTML 5の未来)。ただ、その前にGoogle Gearsの本を書いたり、Gears関係の受託開発などの経験がありました。HTML5は、Gearsから持ってきたコンセプトがいっぱいありまして、それで以前からグーグルの「OpenSocial API Expert」という肩書きをいただいていたのですが、HTML5の方をやらせてほしいと「HTML5 API Expert」という肩書きをもらいました。

―― グーグルのHTML5 API Expertというポジションは、どういうものなのですか?

 Expertになるには、ほかのExpertの推薦をいただく必要があります。中身は完全にボランティアです。肩書きで商売をしてはいけないことになっています。得られるものとしては、コミュニティを立ち上げたり、運営するのにグーグルに協力してもらえる、といったものですね。

―― HTML5の前にGearsに興味があったとのことですが、Gearsのどこが良かったのでしょうか?

 とにかくJavaScriptでSQLを書くところが面白かったですね。Webブラウザ側にローカルデータベースがあることで、「データベースとは、サーバにあるもの」という既成の概念をぶち破られました。「どうなるんだろう。この先は」と思いました。

HTML5の魅力とは

―― その後、HTML5が登場しましたが、Gearsを知っていた白石さんから見て、HTML5はどう見えたのでしょう?

 HTML5を見たときに、まず何より「APIがきれいになったなあ」と思いました。Gearsはまだまだ未熟だったのですが、HTML5ではAPIがきれいになっていて、それがまず良かったなと思いました。

 例えば、オフラインのWebアプリケーションを作ろうとするとき、Gearsでは何らかのJavaScriptプログラミングが必要だったのですが、HTML5ではマニフェストファイルで属性として指定するだけで、後はWebブラウザが自動的にやってくれます。そういった面が進化したなあと思います。

―― そのほかGearsが備えていた機能以外でも、HTML5で評価しているポイントはありますか?

 いっぱいあります。細かい点をあげればきりがないですが、例えばAPIでいえば、WebSocketsなんかはすごいと思います。HTTPで決まった通信以外のことができる。今後のWebがどうなるんだろうとわくわくします。ほかにもCanvasなどいろいろあります。そういったことはほかの人がすでに言っていると思いますが。

オープンウェブ・テクノロジー 代表取締役 白石俊平 氏
オープンウェブ・テクノロジー 代表取締役 白石俊平 氏 「HTML5で、アイデアの幅が広がりました」

 HTML5の本を書くときにHTML5のドラフトなどを詳しく読み込んだのですが、コミュニティの知恵というか、さまざまな人々のHTMLなどに関する経験が蓄積されてああいうドキュメントがができてるんだなと思いました。

 例えば、HTML5で廃止してしまったようなものまで仕様がきちっと書かれているんです。というのも、Webブラウザによる後方互換性をきちんと保つためにです。HTML 4の仕様書であいまいだったものでも、HTML5では詳しく書かれています。互換性を保つために既存のWebブラウザの動きを綿密に見て、HTML5対応Webブラウザの実装ができるように、既存のWebブラウザの動きと変わらないように、矛盾しないようにきっちり書かれています。

 これはHTML5のエディタであるイアン・ヒクソン氏1人でできることではないはずなので、コミュニティやWebブラウザベンダのフィードバックなど、ありとあらゆる人からの蓄積が結晶しているのかなと思います。

HTML5のコミュニティを作った経緯

―― そうしたHTML5に対して、白石さんがコミュニティを立ち上げるに至った経緯を教えてください。

 これは単純な話で、グーグルのExpertは、まずコミュニティを立ち上げることを、目標に持つことになっているんです。もちろんボランティアで、です。

 ただ、HTML5 API Expertの肩書きをいただいたことで、すごくモチベーションが高まりました。で、グーグルの及川さんとコミュニティを立ち上げることにしたのですが、「協力者も欲しいよね」ということで、「HTML5.jp」を運営している羽田野太己さんにも連絡して協力していただけないかとお願いして、html5-developers-jpを立ち上げました。

※及川氏については、連載第1回目の記事「ネイティブアプリ級のHTML5にグーグルが期待すること」を参照のこと

―― 白石さんにとってコミュニティの運営ははじめてだったのですか? 何か参考にしたものはありますか?

 これまで勉強会やメーリングリストには参加したことはありました。読書会みたいなものも主催したことがあって、そっちの経験は生きたかもしれないですね。

 「Twitterなどがコミュニケーションの障壁を下げている」といわれるいまの時代に、メーリングリストへの投稿は逆に相対的にハードルが上がっている気がするんです。そこに参加者の方が投稿してくださるだけでもかなり感謝しているので、メールくださった方にはできるだけ返事をするようにしています。コミュニティのノウハウはありませんでしたが、最初からそういう気持ちで運営してましたね。

 メーリングリストのhtml5-developers-jpは、2009年の7月10日に立ち上げて、7月末には登録者が700人くらいになっていましたから、その増え方にはびっくりしました。一重にHTML5の人気のおかげですね。

「HTML5とか勉強会」

―― メーリングリストの後で、リアルな勉強会なども始められましたね。

 特に最初から計画があったわけではなく、Google I/Oというオフィシャルなイベントがあって、html5-developers-jpのようなメーリングリストがあって、自然な流れでリアルなイベントになりました。勉強会をやりますといって、もしも人が集まらなくても、グーグルのブログで書いてくれれば人は集まるだろうと思っていましたから、そこは安心してできました。

 html5-developers-jpで初めにやったのは、講師がいて聴衆がいて、というセミナー形式の勉強会でした。その形式は非常に意義のあるものだと思うのですが、自分で講師をやってみるとかなり緊張するし、準備も大変でした。で、そうじゃない形式もあるかなと思って始めたのが「HTML5とか勉強会」です。

 こちらは最初は10人くらいで始めて、HTML5のデモなどのソースコードを読んでHTML5への理解を深めていこうというのが趣旨だったのですが、30人、40人と人が集まるようになって、直近では100名近い申し込みもいただいています。それでも気を付けているのは、セミナー形式にならないようにということです。人数も絞らせていただいています。よくお借りするオペラソフトウェアさんのアットホームな感じの会場も大好きなんです。

 ただ、人数を絞っているせいで会場に来られない人もいて申しわけなくも思っています。僕の中ではセミナー形式もいいけど、セミナーじゃない形式もやりたいと考えていて、両者を上手くマージできないのかなと関係者の方々と相談しています。何より、参加していただいている人に一番良い方法にしたいですね。

―― コミュニティの活動などで今後の展開について考えていることはありますか?

 特にはっきりしたものはないのですが、日本にはHTML5関係の勉強会はいくつもあるようですし、そういう人たちとゆるい結び付き、疎結合な感じの結び付きができればいいなあと思っています。

 例えばhtml5-developers-jpのメーリングリストも、地方のコミュニティの方が全国の人に情報発信するのに使っていただくとか。先日、関西のコミュニティからの情報発信もありまして、そういう風に利用してもらえるとれうしいです。

「HTML5で、アイデアの幅が広がりました」

―― 最後に、白石さん自身について教えてください。ご自身のお仕事とHTML5は何かかかわりがあるのでしょうか?

 実は3月末に会社を作りまして、そこからは自社プロダクトを作っています。1人で作っているので大したものではないのですが、そこでHTML5を使っています。

 HTML5は、いままではWebでできなかったこと、難しくてあきらめざるを得なかったことが、できるようになるプラットフォームで、アイデアの幅が広がりました。HTML5の本を書いたおかげでどんな機能があり、どのような可能性があるのかも把握できているので、いままでよりずっと自由にWebのアプリケーションが作れるようになっています。新たなサービスを作る際には、自然とHTML5を使うことになりました。

 ただ、ビジネス的なことをいえば、まだHTML5に対応したWebブラウザは限定されるので、広くいろんな人にサービスを提供しなければならないWebサイトへの採用は難しい。でも、僕みたいなベンチャーで、古いInternet Explorerでは動かなくてもいいや、と割り切れる人にとって、これほど面白いプラットフォームはないし、アイデアも広がると思います。

 新しいサービスは、近々リリースしたいなと思っています。基本的にはそうやってサービスを創って、世の中の人に便益を提供して、そこから対価を得て暮らしていきたいと思っています。そして、やっぱり会社を創ったからには大きくしたい。僕はグーグルという会社とのつきあいが長くなってきましたが、あの会社は大好きなので、あんな会社が作れるといいと思っています(笑)。

※下記は、白石氏が2010年7月13日にリリースしたばかりの「DaVinchiPad」

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新野 淳一(にいの じゅんいち)Publickey

アスキーでリレーショナルデータベースInformixのテクニカルサポートを担当し、Windows Magazine編集部でnetPCを創刊、ASCII NT副編集長となる。フリーランスを経て、2000年にアットマーク・アイティの創立に参画、取締役に就任し、Webサイト@ITの立ち上げを行う。2008年再びフリーランスとなり、2009年、Webサイト「Publickey」を立ち上げる

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