リッチクライアント導入事例(1) Page 2/3
ERP資産から
“本当に知りたいこと”を紡ぎ出すCurl
吉田育代2006/2/17
同じ目線でものがいえるベンダだった Curl社のCurlを選択 |
なぜ日立ディスプレイズはCurlを選択したのだろう。その前に、なぜリッチクライアントだったのか。ビジネスインテリジェンスは全社で情報を共有してこそ意味のあるITといえる。しかも、同社は将来的に会社の枠組みを超えて、共有できる情報はサプライヤーや顧客にも公開していきたいと考えていた。しかしながら、クライアント/サーバ型システムでこれを実現しようとすると、社内だけでも約3000人のユーザーがおり、ライセンスコストが膨大なものになり、管理も煩雑だ。その点、Webベースであれば問題なく情報共有を拡大していける。
だが、共有したい情報はただの文字列や数値ばかりではなく、図やグラフといったものも数多くある。従来のWebベースシステムの表現力では物足りない。これまでVisual Basicで開発してきたようなクライアントイメージを実現したかったのだそうだ。
リッチクライアントを実現する手法としては、Javaや.NETという選択肢もなかったわけではない。このとき矢野氏が考えたことは、「新しい技術を導入して、それを社内に確立させるときは、その技術の所有者、つまりベンダと対等の立場で取り組みたい」ということだった。
「われわれも可能な限り良いシステムを作りたいから、開発の過程でベンダにいろいろ意見をいったり、お願いをしたりする。そのとき、相手があまりに大きなベンダだと、単なる一ユーザーのわがままと真摯(しんし)に受け止めてもらえない危険性がある。それでは困るので同じ目線でものをいえるベンダを探したところ、Curlに行き着いた」(矢野氏)。導入を検討した2004年当時は、まだリッチクライアントという言葉も一般的ではなかったが、矢野氏にとってCurlの日本での知名度はまったく問題ではなかったという。
テクノロジーの優劣やベンダの影響力よりも、SIer(システムインテグレータ)や技術コンサルティング企業といったパートナーとの関係を重視するのは、日本の企業システム構築で一般的な姿勢でもある。システム開発に当たって“理想的な構築のスキーム”を作れる点が「Curlで行くぞ、と決定した理由」だと矢野氏はいう。構築のスキームとは、開発と運用の全体を見渡した体制づくりである。技術そのものがどんなに優れていても、うまく社内で運用できなければ成功したとはいえない。
今回のケースでは、社内スタッフによるシステム設計、クオリテック株式会社という外部パートナーの技術コンサルティングとコア開発、さらに中国や韓国などのオフショアパートナーを利用したコーディングという流れがうまく構築できた。開発委託した数社のオフショアパートナーはいずれもCurlでの開発はそれが初めてだったが、もともとJavaやC言語に精通しており、Curlそのものの開発生産性の高さもあって、それほど苦労することなく日立ディスプレイズとやりとりできるようになったという。
日立ディスプレイズで利用されている Curlでの業務システムの一例 |
同社がCurlを使って最初に開発したのは、間接材の購買依頼システムである。この分野の資材調達は上長の最終的な承認を取るまでに内容の変更が発生することが多い。それまではR/3が用意している機能をそのまま使っていたのだが、R/3ではいったん入力してしまうと内容変更の際には一度取り消し操作を行って入力し直す必要がある。不正操作を防ぐためのシステム思想ではあるのだが、気軽に使いにくいのも確かである。そこで、Curlでフロントエンドを用意して、最終的にその購買依頼が上長により承認された段階でR/3に登録することにした(図2)。
図2 間接材購買システム(画面をクリックすると拡大します) |
次に手掛けたのは営業部門向けのポータルシステムである。それまで個人ベースで管理されていた各種ディスプレイ製品の需要予測を営業部門全体のみならず、生産部門とも共有する。最初はExcelベースの表を電子メールでやりとりしていたのだが、その表現をCurlでグレードアップさせてWebで公開した。販売の最前線に立つ営業部門から生の需要予測情報が入ることで、生産計画立案の精度向上を目指したものだ。確定した受注の登録もこのフロントエンドで行う。
これだけでは情報を提供するのは営業部門ばかりとなるので、生産部門からは製品の仕掛り在庫を公開することになった。これにより、現在どのラインのどの工程でどのような製品が作られているかが分かり、営業担当者は自分の注文した製品がどの段階にあるかが一目で把握できるようになった(図3)。
図3 製品の仕掛り在庫(画面をクリックすると拡大します) |
また、どの部品とどの部品を組み合わせるとどのような製品になるかといった、顧客と商談するときに有益なインフォメーションライブラリなども提供されている。
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