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WCR Watch [18]


リッチクライアントの潮流と
Flexのオープンソース化

ナレッジオンデマンド
宮下知起
2007/5/29
先日開催されたソフトウェア開発環境展(SODEC)に初のリッチクライアント ゾーンが設けられた話題やFlexのオープンソース化について解説する(編集部)

 SODEC初、リッチクライアント ゾーンの参加

 2007年5月16〜18日、東京ビッグサイト(有明)にて第17回ソフトウェア開発環境展(SODEC)が開催された。同期間中は、「データウェアハウス&CRM EXPO」「組込みシステム開発技術展(ESEC)」のほか、今年初めて「Web 2.0マーケティング フェア」が同時開催され、各分野のリーディングカンパニー約1400社が集結。過去最大規模の盛況となったという。

【併設イベント レポート一覧】

第2回 RFIDソリューションEXPO(RIDEX)
http://www.atmarkit.co.jp/frfid/special/rid2007/rid0701.html

第4回 情報セキュリティEXPOレポート
http://www.atmarkit.co.jp/fsecurity/special/101ist2007/ist01.html
第10回 組込みシステム開発技術展(ESEC)イベントレポート
http://www.atmarkit.co.jp/fembedded/trend/esec2007/esec07_01.html

 ここ数年で、Web技術を駆使したビジネスやサービスが再び見直され、ニッチ市場を狙ったベンチャーなども多数出展しており、業界全体がまた活気づいてきたようだ。

 業界のこうしたトレンドを開発側から押し上げているのが、リッチクライアント開発環境だろう。今回のSODECでは、これも今年初めて「リッチクライアント ゾーン」が開設。リッチクライアント技術への関心や、システム開発要件としてリッチクライアントの重要性が増してきたためだろう。

通路が人で埋まるほど大盛況を見せたSODEC会場のリッチクライアントゾーン
通路が人で埋まるほど大盛況を見せたSODEC会場のリッチクライアントゾーン

 アクシスソフト(Biz/Browser)、日本ネクサウェブ(Nexaweb)、カール(Curl)などの主要ベンダや、Flash/FlexやマイクロソフトのWPF・Silverlightを用いたRIA開発で定評のあるセカンドファクトリー、帳票との連携に強いエンタープライズ向けのオズウェブテクノロジー(OZ XStudio)などが集まり、例年以上の盛り上がりを見せていた。

 リッチクライアントゾーンの外では、マイクロソフトがブースセミナーでWPF・Silverlightの開発環境を紹介した。セカンドファクトリーのセミナー・展示も合わせ、マイクロソフトのRIA(という向きは少ないが筆者は同じカテゴリに考える)が多くの開発者にお披露目される機会となった。

 ただ、RIAの旗手であるアドビシステムズの姿は、今回のSODEC・リッチクライアント ゾーンでは見られなかった。この4月末に、「RIA開発環境・Flexの次期バージョンは、オープンソースで提供する」と発表した同社は、オープンソース・コミュニティや技術エバンジェリストへと大きく関心を寄せているようだ。

適材適所の活用が進むリッチクライアント

 現在、リッチクライアント技術を提供するベンダは複数あり、各社特徴がある。その特徴は大きく、「JavaやXMLなど標準技術に基づいたリッチクライアント」「独自の技術を用いたリッチクライアント」という2つに分けられるだろう。

 SODEC出展社の中で前者の代表的なベンダがNexawebで、そのメリットとしては「標準技術(Java/XML)なので、メンテナンス性が高い」「技術者の確保が容易」「J2EEは枯れて安定性があり、基幹系システムへも適用できる」といった点が挙げられる。

 一方、Curl、Biz/BrowserやOZ XStudioは、Webブラウザに専用プラグインをインストールするなど、独自の技術を用いているが、代わりに「Webシステムでも、C/S型と同様の快適な使い勝手」や「セキュリティを確保できる」「開発方法もC/S型のVBに近く、自由度が高い」など、さまざまな利点が得られる。実際、ユーザー企業もこうした特徴によって適用分野を使い分けているという状況のようだ。

図1 Curlの資産運用アプリケーションデモ
図1 Curlの資産運用アプリケーションデモ

 例えば、Curl、Biz/BrowserやOZ XStudioなどはWebブラウザのインターフェイス機能(主に入力)向上に向けて利用されるケースが多い。具体的には、タブによる入力フィールドの選択・移動、ファンクションキーの利用などが挙げられる。

 一方Nexawebは、Javaアプレットを用い、サーバから送られる画面定義のXML文書やデータを参照して、画面生成やセッションの保持、更新データの差分同期を行う仕組みだ。このため、オンライントレード・システムなど、リアルタイム性が求められるミッションクリティカルなシステム(例えば金融機関のオンライントレード・システム)などにおける事例が多い。

図2 Nexawebは、J2EE標準や高速なPush型通信に適している点が評価され金融での採用が多い
図2 Nexawebは、J2EE標準や高速なPush型通信に適している点が評価され金融での採用が多い

 これらのベンダが中心となって国内のリッチクライアント市場をにぎわせている状況のようだ。

 Flex、オープンソース化の影響はどう出るか?

 今回、SODECには出展していなかったアドビシステムズも、Flex次期バージョンのオープンソース化、そしてApolloにより、シェアのさらなる拡大、リッチクライアント技術のデファクトを目指しているようだ。

 Flexはもともと、Java開発者などの技術者でも、デザイン性や操作性に優れたFlashリッチクライアントを容易に開発できるようにとリリースされたRIA(リッチインターネットアプリケーション)開発フレームワークで、現バージョンのFlex 2.0ではEclipseプラグインとして開発環境を提供している。

3 Adobe Labsはリリース前のRIA技術の評価のための貴重な情報源だ
図3 Adobe Labsはリリース前のRIA技術の評価のための貴重な情報源だ

 Flash自体は、いまでこそリッチクライアントの実現技術として一定の評価を得ているが、「開発者よりもWebデザインの領域」と思われることも依然として多く、エンタープライズ・システムの開発現場でFlashが脚光を浴びてきたのは、ここ最近のことだ。そこで期待されたのが、開発者向けFlash開発環境としてのFlexだ。

 だが、現在ではまだFlexがエンタープライズ系の開発者・技術者を取り込んでいるとはいい難く、エンタープライズ分野でまだまだ伸びる可能性がある。そのため、今回同社が発表した「次期Flexのオープンソース化」は、技術者に対するプレゼンスと囲い込みの両方を目指しているようだ。

オープンソース化のメリットとは?

 オープンソース化するメリットは2つある。

 1つは、自社内外関係なく、優れた技術者の参加によって、技術や製品そのものが洗練されていく点だ。現在のFlex 2.0は、ActionScriptクラスライブラリ、多彩なUIコンポーネントを提供し、リッチクライアント開発を強力に支援しているが、オープンソース化により、ライブラリやUIコンポーネントのさらなる充実が期待される。その結果、普及が進むというわけだ。

 もう1つは、現在影響力のある技術者やエバンジェリストの大半が、何らかのオープンソースのコミュニティに属していること。オープンソース・コミュニティにいるスター技術者へリーチすることで、Flexがリッチクライアント開発環境のデファクトになる可能性もある。また技術者に対しアドビシステムズの存在を示すためにも、オープンソースによるコミットはもはや不可欠といっていい。さらに追加するならば、現在「開発ツール系は無償オープンソースが当然」となっている背景もあるだろう。

 リッチクライアントの潮流:マイクロソフトの影響は?

 いずれにせよ、リッチクライアント市場はまだ混戦が続く。そして、マイクロソフトのWPF(Windows Presentation Foundation Everywhere)、Silverlight(以前WPF/Eと呼ばれていたもの)の登場がリッチクライアント市場に与える影響は非常に大きいだろう。

 次回は、アドビシステムズのFlash/Flex、Apolloと真っ向から対立するマイクロソフトのRIA技術にも触れながら、リッチクライアントの潮流を眺めてみたい。

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