特集:変貌するリッチクライアント(4)
自由すぎるWebの世界でメタデータは統合できるか


野村総合研究所
技術調査室 
田中 達雄
2006/9/8

 MicroformatsにもセマンティックWebが必要に

 Microformatsとは、HTMLタグの開始タグと終了タグの間に記載されているデータに意味を付与し、データ連携を簡単にするための技術だ。「hCalendar」「hCard」「hReview」といったメタデータが用意されている。

 図6を見てほしい。これはhCalendarが付与されているサイト「WORLD CUP’06 KICKOFF」からGoogle Calendarに自動転記している例である。リッチクライアントにはGreaseMonkeyが使われている。Web上のコンテンツにメタデータが付与されるだけで、リッチクライアントを基点にこのようなデータ連携が簡単にできるようになるのだ。

図6:Google Calendarへの自動転記の例 出所)野村総合研究所 (画像クリックで拡大表示)

 これはこれで利便性を高めるが、hCalendarで使われている属性名「dtstart」「dtend」「summary」などは「http://microformats.org/」が恣意的に付けた語彙であり、すべてのWebサイトで採用するとは限らない。つまり、hCalendarを採用したサイト同士であれば容易に実現できるが、そうでなければやはり面倒な処理をプログラミングする必要が出てくる。

 Webの世界は自由な世界だ。それが故に自由な発想でさまざまなサービスや技術が登場し、利用者に利便性を享受している。しかし自由であるが故に統制が困難でもある。当然、大勢を占めたサービスや技術がいずれ標準となる場合もあるが、それでも標準でないものも残る。例えば、Microformatsだけを全世界のWebサイトに採用するよう呼び掛けても統制することはできず、ほかのメタデータも登場し利用されるだろう。

 また、人が作成するデータも日々恣意的に作成されていく。当然これも統制は困難だ。セマンティックWebは、これら異なるメタデータや人が恣意的に作成したデータをうまく統合する現在最も有力と思われる技術なのだ。

 将来、リッチクライアントが基点となり異なるメタデータを統合したり、人が恣意的に作成したデータを統合したりする基盤として一般化した場合、リッチクライアントにとってセマンティックWebは必要不可欠な技術となるだろう。

 SOA普及後のセマンティックWeb

 これまでWebの世界を中心に解説してきたが、リッチクライアントを基点とするデータ統合は、企業のアプリケーションシステムにも深く関係する話である。

 現在、SOAが企業システムに普及しようとしているが、SOAによって分解されたサービスをリッチクライアントを基点に呼び出すシステムアーキテクチャも考えられる(実際、米国のある企業ではこのシステムアーキテクチャを採用している)。

 リッチクライアントが基点となった場合、個人の使い勝手に合わせて社内外のサービスを組み合わせることも不可能ではない。ただし、そのときは、これまで述べてきたように異なるメタデータや人が恣意的に入力したデータの統合を行う仕組み、つまりセマンティックWebが必要となる。

 また、データ統合におけるセマンティックの問題は、いまのサーバ側に足りない技術でもある。図7はEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)を参考に、システムのアーキテクチャを表現した図である。ビジネス、データ、アプリケーションのアーキテクチャと実装アーキテクチャの間には、抽象化レイヤを設けた。システムの拡張性や柔軟性を実現するためには、抽象化レイヤに標準仕様が必要となる。しかしSOAで話題となる標準仕様は、サービス統合のものが多く、データ統合に必要とされる標準仕様の話は聞こえてこない。本来、データ統合とサービス統合の両輪がそろってシステムの拡張性や柔軟性が実現されるが、片輪しかないのだ。

図7:サービス統合に偏った標準仕様 出所)野村総合研究所

 図8は、サービス統合とデータ統合の拡張性・柔軟性を両立させた場合のシステムアーキテクチャを表現した図である。サービス統合はBPM(Business Process Management)のレイヤで、データ統合はESW(Enterprise Semantic Web)のレイヤで拡張性・柔軟性を実現する。このときデータ統合側の抽象レイヤの標準仕様となるのがRDFやOWLといったセマンティックWeb関連の標準仕様となる。

図8:サービス統合とデータ統合を両立したシステムアーキテクチャ 出所)野村総合研究所(画像クリックで拡大表示)

  図9図7で足りなかったデータ統合側の標準仕様を付け足した図である。セマンティックWebは、データ統合側の標準仕様として有望であると筆者は見ている。サーバに限らず、リッチクライアントも統合の基点となるならば、サービス統合とデータ統合の両輪は必要となる。先行するベンダから、セマンティックWebの話も少しずつ聞こえてきた。近い将来、サービス統合とデータ統合の両輪を兼ね備えた製品が出てくると期待したい。

図9:サービス統合とデータ統合の両輪を支える標準仕様 出所)野村総合研究所(画像クリックで拡大表示)

 セマンティックWebはとっつきにくい技術であるが

 本連載では、いま話題のWeb2.0やSOA、SOX法とリッチクライアントの関係を筆者の視点から解説してきた。また最終回の今回は、持論であるセマンティックWebによるデータ統合/サービス統合の有効性をリッチクライアントの将来に重ね合わせて解説した。セマンティックWebはなかなかとっつきにくい技術であるが、読者の方にはいまある課題解決に少しでも役立つ情報となれば幸いである。

 今後も、リッチクライアントがいかにセマンティックWebの実現を導いていくのかを見ていきたい。

2/2 ご愛読ありがとうございました

 INDEX

自由すぎるWebの世界でメタデータは統合できるか
Page1<データやサービスを統合する基盤、リッチクライアント>
Web2.0世界でのサービス呼び出し/既存のデータフォーマットや語彙はバラバラ/異なるデータフォーマットや語彙を統合させていく仕組みがセマンティックWeb/複数の美術館に保管されている美術品をワンストップで検索させるフィンランド美術館/セマンティックWebの標準化動向
  Page2<MicroformatsにもセマンティックWebが必要に>
SOA普及後のセマンティックWeb/セマンティックWebはとっつきにくい技術であるが





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