ネットの進化で広がるSaaSと
エンタープライズ2.0
Interop Tokyo 2008 セミナーレポート
@IT編集部
平田 修
2008/6/20
それでは、SaaSは今後、ビジネスとしてどう展開されるのか。城田氏によると、「アプリケーションの提供から“プラットフォーム”の提供、SIサービス、導入コンサルティングなどへビジネス機会が広がりつつある」という。SaaSアプリケーションの提供には、認証やセッション管理、決済、マッシュアップなどを可能とするプラットフォームが必要だ。
セールスフォース・ドットコムのようなSaaS専業ベンダがホスティング+プラットフォーム+アプリケーションの組み合わせで提供しているのを基本とすると、現状として日本では、ホスティング+プラットフォームのみを提供してパートナーにアプリケーションを作ってもらう場合が多い。例として、NECや富士通、日立製作所などが挙げられた。実際に、Interopの展示会場でも各企業のブースで目に付くところにSaaSのコーナーがあり、力の入れようがうかがえた。
通信・ネットワーク事業者もSaaS事業に進出し始めている。例えば、KDDIはホスティングのみを行い、マイクロソフトのCSF(Connected Service Framework)というプラットフォ−ムと提携してホスティング+プラットフォームとして提供している。ソフトバンクグループはオラクルのグリッド技術を活用したSaaS事業者向けのインフラ整備を用意しているという。NTTコミュニケーションズもホスティングに加えプラットフォームを提供し、さらに自社アプリケーションも提供したり、パートナー企業との連携も打ち出している。また、セキュアなVPNでSaaSが使えるというサービスもあり、セールスフォース・ドットコムと連携して「Salesforce over VPN」も提供し始めた。「NTTグループは2008年より開始したNGNのキラーアプリケーションとしてSaaSに期待しているようだが、VPNとSaaSを連携するという方が広まりやすいだろう」(城田氏)。通信・ネットワーク事業者以外でも、米アマゾンやグーグルがホスティング+プラットフォームという部分を提供しているのも見逃せない。
SaaSプラットフォームの要件と提供パターン |
また、前述のマイクロソフトのCSFのように、プラットフォーム・ミドルウェアのみをインフラ・ホスティング事業者と提携して提供しようという企業には、いまのところ、オラクル、BEAも含まれるという。
SI事業はSaaSでどう変わるのだろうか。城田氏は「SIerは今後、システムのインテグレーションだけでなく、システム+サービスのインテグレーションが必要になるだろう」と、述べる。もちろん、いまあるシステムがすべてSaaSに変わるわけではないので、現在のビジネスプロセスのどこにSaaSを適用させるかのビジネスプロセスの見直しなどのコンサルティング業務が必要だ。また、パッケージアプリケーション/社内レガシーシステムと外部SaaSの連携などのシステム統合業務、データ移行・統合業務、SaaSとSaaSの連携、例えば、セールスフォース・ドットコムのCRMとネットスイートの会計サービスの連携なども考えられるということだ。さらに、特定業務向けのSaaSの業界別ソリューションの可能性もある。
実際にSaaSアプリケーションを作る際には、既存のWebアプリケーションのホスティングさえすればいいというわけではなく、SaaSに特化した、データセンターの数やユーザーのインスタンスごとのアーキテクチャ設計が必要になるという。
野村総合研究所 情報技術本部 技術調査部 主任研究員 城田真琴氏 |
最後に、SaaSを実際に使うユーザー企業はどのようにSaaSを活用するべきなのかについて、城田氏は次のようにまとめた。「SaaSの利用プロセスは広大している。自社で開発するような、顧客獲得のための差別化を生み出すコアでミッションクリティカルなプロセス以外のものすべてに利用することは可能だろう。SaaSを利用する際には、データ/アプリケーションの統合のしやすさやセキュリティ・J-SOX法対策、カスタマイズ性、可用性、信頼性、性能、アーキテクチャ、アドオンに掛かるコスト、データの取り扱い方、エコシステムなどに留意する必要がある。経済産業省・総務省が策定したASP・SaaSのガイドラインがあるので、参考にしてみてはいかがだろうか。現在のSaaSブームはバブルのような状態なので、サービスを提供する側も使う側もしっかりとした“目”で見極めることが重要だ」
「エンタープライズ2.0」と、3つの誤解
冒頭で述べたとおり、今年の展示会場には「エンタープライズ2.0パビリオン」が設置された。「エンタープライズ2.0」というキーワードで使われる技術として、ブログ/SNS、Wikiなどがあり、それらはインターネットの進化とともに普及した「Web 2.0」と呼ばれる技術の一部で、SaaSとして提供されるケースも多い。それでは、その「エンタープライズ2.0」とは何なのか、そして企業でどのように活用していけばいいのだろうか。リアルコム 取締役CMO 吉田健一 氏の講演「『エンタープライズ2.0』の企業改革へのインパクト」から探ってみよう。
リアルコム 取締役CEO 吉田健一 氏 |
吉田氏はまず、エンタープライズ2.0を「Web 2.0の技術やコンセプトに影響を受け進化する次世代企業情報システム」と位置付け、その本質として「ITコンシュマライゼーション」と「集合知」を挙げた。昔は軍需・産業向けの技術(コンピューターそのものやネットワークなど)が消費者向け技術に適用されるという流れが主だったが、最近は消費者向けに革新を起こしたWebや検索、ブログ、SNSといったものが企業向けシステムに適用される「ITコンシュマライぜーション」が主流となっている。もう1つの「集合知」はWeb 2.0でおなじみのブログやSNS、Wikiなどのユーザーの自主的な情報発信が集合すると、全体として知識の宝庫となる。これを企業のナレッジマネジメント/情報共有として活用するということだ。
さらに、吉田氏は「エンタープライズ2.0には3つの誤解がある」と続けた。1つ1つ見ていこう。
1つ目の誤解は「“なぜ”エンタープライズ2.0が企業に必要か」に関してだ。「その目的は情報を共有することと誤解されがちだが、エンタープライズ2.0自体は目的ではなく手段にすぎず、抱えている課題を明らかにして課題に対して解決策を実施することで、達成されるゴールを明確にすることが大事だ」と、吉田氏は述べた。つまり、生産性向上や業務の品質・コスト・スピードを改善することを目的に、“コミュニケーション”“知識の再利用”“人と人のネットワーク”といった課題に対して、ブログやSNS、Wikiという手段が有効であるということだ。
2つ目は「エンタープライズ2.0は具体的に“何”をするのかについての誤解で、「ブログやSNSを導入すると、エンタープライズ2.0が実現できる」ということだ。ブログやSNSはエンタープライズ2.0の一部ではあるがすべてではなく、エンタープライズ2.0による情報共有には、さまざまな解決策がある。この解決策について、吉田氏は次のように述べる。「情報アクセスへの最適化にはエンタープライズ・サーチによる検索やiGoogleのようなマッシュアップ・ポータルによる情報の整理整とんといった方法で効率化を、コミュニケーション・フローの改善にはメールを使うのではなくWikiなどで効率化を図ることが可能だ。ポータルページには公式の硬い情報のみを表示させ、マイページにはやわらかい非公式な情報の窓口にするという事例もある。また、ある現場で培われたノウハウをテンプレート化して共有することでほかの現場に横展開し、全体の底上げを図るために、ブログやSNSを使ったナレッジ・コミュニティを作るのもよいだろう。さらに、個人が持つスキルやノウハウを効果的に流通させるためのコミュニティもSNSやKnow-Whoで行える」
3つ目は「エンタープライズ2.0のプロジェクトは“どのように”進めるのか」ということだ。これは、ブログ/SNSの要件定義・設計・開発・テストを進めていけばよいという誤解を生む。しかし、最も重要なのは「体制・ルール・技術・情報を一体に変革を行う必要がある」(吉田氏)ということだ。また実際の導入シナリオとしては、従来型のエンタープライズ情報基盤の更新検討時に、ついでに2.0も入れようというシナリオと、Web 2.0ツールによる部門ごとの試験的導入をまず進めてから全社展開するというシナリオがあるという。具体的な事例としては、社内のプロジェクトやQ&A、ブログ、ライブラリで人が行動した記録を自動的にKnow-Whoに更新してしまう方法や企業では必須の電話帳を軸にSNSを構築するという次方法が紹介された。
「エンタープライズ2.0は、人と人が組織の壁を越えて有機的につながった、21世紀のワークスタイル・ライフスタイルを実現するので、ぜひご利用を検討してほしい」(吉田氏)
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