技術解説

Windows Server 2003がサポートする.NETとは?

1. .NET戦略の概要

溝端二三雄
2003/06/19

 
 本記事は、@ITハイブックスシリーズ『Windows Server 2003 Webアプリケーションサーバ構築ガイドブック』(インプレス発行)の第3章「.NETとは?」を、許可を得て転載したものです。同書籍に関する詳しい情報については、本記事の最後に掲載しています。

 .NETという言葉はさまざまな製品や技術で用いられていますが、「.NETって何?」という質問を受けることは、まだまだ多くあります。これは、.NETという言葉の意味にはいくつかの側面があるので、ひと言で表現すると非常に抽象的な言葉になってしまいます。例えば、以下はマイクロソフト社のWebサイト(http://www.microsoft.com/japan/net/basics/whatis.asp)に記載されている「.NETの基本要素の定義」の冒頭部分です。

 Microsoft.NETは、ユーザーの情報、人、システム、およびデバイスの世界を接続するための、Microsoftソフトウェアテクノロジのセットです。XML Webサービス(相互に、またはほかの大きなアプリケーションと接続できる小さな独立したビルディングブロックアプリケーション)を利用することにより、インターネット上で従来とは一線を画す高レベルのソフトウェア統合が可能となります。

 .NETをよく知る人が読めば確かにうまく表現していると感じるでしょう。しかし、.NETに関してほとんど知識のない方は、この文章を読んでもぴんとこないのではないでしょうか? そもそも .NETとは、製品なのか技術なのか、それともガイドラインなのでしょうか? この答えは「それらすべてです」というのが模範解答です。つまり、.NETという言葉にはいくつかの側面がある以上、ひと言では表現しづらいのです。

1-1 .NET戦略

 .NETという言葉が初めて登場したのは、2000年10月、米国で開催されたPDC(Professional Developers Conference)というマイクロソフト社が主催したカンファレンスでのビル・ゲイツの講演だったと記憶しています。その後、正式には2001年6月に公表されました。この時点での .NETは「.NETという戦略」というのが中心でした。つまり、製品でも技術でもなく、マイクロソフトの製品、技術の方向性を示すことが中心でした。ただ、その中でも具体的な技術としては、COM+の新バージョンが開発されることが発表されました。つまり、分散アプリケーションの基盤(プラットフォーム)であったCOM+が、.NET戦略では大きな変化を迎えるということは確かだったのです。

1-1-1 .NET戦略とは?

 .NET戦略をひと言で表現すると、

「業務アプリケーションの基盤をWindowsからインターネットへ移行する」

 または

「業務アプリケーションの基盤をWindowsから .NETへ移行する」

戦略であるといえます。

 .NET以前のマイクロソフトが提唱するアプリケーション構築のガイドラインでは、業務アプリケーションはWindows上に構築されます。そうすることで、これらの業務アプリケーションを効率よく開発し、高いスケーラビリティと信頼性を実現できました。そのために、サーバでの処理を複数のサーバで分散処理することを容易に実現できる環境(COM+)を提供し、クライアントには独自に開発したクライアントアプリケーションだけでなく、Internet Explorerに代表されるWebブラウザも使用することを可能にしました。

 しかし、これらはWebブラウザをクライアントにすることを除けば、すべて“Windows”上のアプリケーションであることが前提となります。マイクロソフトが提唱するアプリケーション構築のガイドラインであればWindowsが前提であることは当たり前のような気もしますが、.NETではその当たり前のようなことを覆しています。.NETは

「インターネットをプラットフォームにしたアプリケーション構築のガイドライン」

であり、Windowsがプラットフォームとは明言していないのです(図1-1)。

図1-1 Windows DNAから .NETへ

1-1-2 インターネットをプラットフォームにしたアプリケーション

 インターネット上のアプリケーションといえば、Web、電子メール、FTPなどが思い浮かびます。.NET戦略は、単にこれらのアプリケーションを作るための戦略ではありません。それらの機能を強化して、アプリケーションを構築するものです。

 例えば、Webシステム(WebサーバとWebブラウザ)のベースになっている技術は、データの要求/応答のプロトコルであるHTTPと、やりとりされるデータの内容であるHTMLです。これらのプロトコルの最大の長所は“標準化されていること”です。標準化されていることで、不特定多数のクライアント(Webブラウザ)が不特定多数のサーバ(Webサーバ)にアクセスし、情報を表示(ブラウズ)することができます(図1-2)。

図1-2 Webシステム

 この考えを“分散アプリケーション構築に応用する”というのが、インターネットをプラットフォームにしたアプリケーションです。

 もう少し具体的に表現すると、.NET以前では、Windowsがないとサーバの処理を分散することができませんでした。つまり、分散処理を実現するためのプロトコルにWindows独自方式であるCOMを使用するからです。.NET戦略では、このプロトコルにインターネット標準技術を使用します。これでWindows以外のシステムであっても、この標準技術をサポートするシステムであれば分散処理が可能になるというものです。この標準技術を「Webサービス」と呼びます(図1-3)(マイクロソフトの技術を使用して提供されるWebサービスを、ほかのWebサービスと区別するため「XML Webサービス」と呼びます)。

図1-3 Webサービスのイメージ

 販売処理業務に例えると、販売データを登録し、販売した商品の在庫データの調整(減らす)処理を実行するシステムがあったとすると、販売データの登録はWindows Server 2003上で実行するアプリケーションが処理を行い、在庫データの調整はWindows以外のオペレーティングシステムが実行するアプリケーションが処理を行うことが可能になるのです。インターネット標準技術を使用しているXML Webサービスは、分散処理を行うサーバが企業内LAN上にある必要はありません。インターネットを経由して分散処理が行えるのです。例えば、在庫管理をアウトソース(外部企業に委託)している場合であっても、インターネットを経由して販売処理業務を分散処理するシステムを簡単に作成できるわけです。

1-1-3 .NETをプラットフォームにしたアプリケーション

 .NET戦略では、アプリケーションのプラットフォームをWindowsからWindows以外も含むインターネットへ移行させるものであることは解説しましたが、そんなことを提唱すれば、Windowsが売れなくなるのでは? などという疑問を抱く方も多いと思います。.NET戦略(または、XML Webサービス)は、インターネットをプラットフォームにしたBtoB(企業と企業)のアプリケーション統合を例えに解説されることが多いですが、実はそのメリットはこれだけではありません。たとえ、企業内LAN上の業務アプリケーションであっても、アプリケーション統合が可能になるメリットは大きいのです。これらを総合的に考えると、Windowsの売り上げがどうなるかは「まだ分からない」というのが正直な答えです。

 確かに .NET以前では、ある技術(例えば、Windows DNA)を採用した業務アプリケーションがあった場合、そのアプリケーションを機能拡張する場合であっても、そのアプリケーションと連携して動作する別のアプリケーションを作成する場合であっても、それらはWindows上に構築されることになり、Windowsの売り上げにつながりました。しかし、XML Webサービスを使用すれば、Windows以外のシステム上に構築しても問題ないわけです。逆に言えば、Windows以外のシステムの拡張、連携にWindowsシステムを使用することも可能です。つまり、インターネット上で使用すること“だけ”が、XML Webサービスのメリットではありません。インターネット標準、もっと厳密には“標準技術を使用して分散アプリケーションを構築できる”ことが .NET戦略のメリットなのです。ということは

「その機能拡張や連携するアプリケーションがどれだけ良いものであるか」

によって、システムまたはアプリケーションが売れるかどうかが決まってくることになります。アプリケーションを導入するユーザー企業は、既存のアプリケーションがどんなシステムを使用しているかを考えずに、どれだけメリットがあるかという点だけを考えて、アプリケーションを導入できるのです。ただし、これは既存のシステムがWebサービスに対応していれば可能になるということです。標準化されたばかりのWebサービスに対応している既存のアプリケーションは、まだ少ないはずです。詳しくは後述しますが、.NETはこの問題ですら解決方法を提供します。

 いかがでしょう? .NET戦略は、

「業務アプリケーションの基盤をWindowsからインターネットへ移行する」

という表現も間違いではありませんが、インターネットを利用したBtoBのアプリケーション拡張や統合だけではなく、「標準技術を使用した分散アプリケーションの基盤」であることの方が重要だと思います(その結果インターネットを基盤としたアプリケーションも構築可能になります)。この基盤となる機能をWebアプリケーションサーバの機能として提供し、それまで提供していたWebアプリケーションサーバの機能をさらに強化して、より魅力的なアプリケーションを容易に構築、運用できる環境を提供することがマイクロソフトの課題です。それがあれば、ユーザーが本当に欲しいと願うアプリケーションがWindowsを使用して構築されることになるでしょう。このためにマイクロソフトは、.NETプラットフォームという技術を発表しました。これは、標準技術を使用した分散アプリケーションを、容易に構築、運用するためにマイクロソフトが提供する技術が数多く含まれています。その .NETプラットフォームという技術を使用して業務アプリケーションを構築することが .NET戦略の実現です。これこそが

「業務アプリケーションの基盤(プラットフォーム)をWindowsから .NET( .NEプラットフォーム)へ移行する」

ということなのです。そして、この .NETプラットフォームを使用したアプリケーションを構築、運用するのに最適なオペレーティングシステムがWindows Server 2003です。

 .NET戦略は、これまでのWindowsに閉ざされた世界でのアプリケーションを、標準技術を基盤としたオープンなアプリケーションへ大きく変革するものです。ビル・ゲイツの講演でも「Windowsの発表に相当する重要なもの」と表現されています。この変革に追従することが、本当に良いアプリケーションを構築、運用、利用する手段ではないでしょうか。

 

 INDEX
  [技術解説] Windows Server 2003がサポートする.NETとは?
  1..NET戦略の概要
    2..NETプラットフォームとは
    3..NETとWindows Server Systemの関係
    4..NET Frameworkのメリット
 
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