Insider's Eye

革新的なOSを目指して開発が進むLonghorn


Rob Helm
2003/10/01
Copyright (C) 2003, Redmond Communications Inc. and Mediaselect Inc.

 
本記事は、(株)メディアセレクトが発行する月刊誌「Directions on Microsoft日本語版」 2003年9月15日号 p.52の「Longhornに賭けるGates氏とBallmer氏 OSの進化は続く」を、許可を得て転載したものです。同誌に関する詳しい情報は、本記事の最後に掲載しています。

 新しいソフトウェアへの投資が今後も顧客に利益をもたらし、ひいてはMicrosoftのビジネスを成長させる――。Microsoftの会長兼チーフ・ソフトウェア・アーキテクトのビル・ゲイツ(Bill Gates)氏と、最高経営責任者(CEO)のスティーブ・バルマー(Steve Ballmer)氏はそう考えている。同社の金融アナリスト向け年次説明会で、ゲイツ氏やバルマー氏を始めとする経営陣は、「アプリケーション統合、管理、セキュリティなどの分野では、既存のソフトウェアやLinuxのようなオープンソースの選択肢で十分間に合う」という考え方を打破しようとする今後のさまざまな開発の取り組みを紹介してきた。だが、経営陣が目指す成果の多くは、発売されるのはまだ遠い先のWindowsの次期メジャー・リリース「Longhorn(ロングホーン=開発コード名)」にかかっている。

管理や統合で打倒オープンソースへ

 ゲイツ氏はいつになく抑制されたトーンのオープニング・スピーチの中で、1998〜2000年に見られた“空前の”水準のIT投資は過去のものになったことを認め、企業は現在、IT管理コストの削減と、セキュリティの脅威への対策に重点を置いているとの見方を示した。また同氏は、Microsoftが企業のこうした取り組みを支援するには一層の努力が必要なことを認め、「われわれはデスクトップやサーバ製品に自動管理機能を搭載してこなかった。このため、ユーザーはシステムを最新の状態に保つのに多大な手間をかけざるを得なくなっている」などの認識を述べた。

 ゲイツ氏とバルマー氏は、それでもITは企業の競争力にとって重要であり、一層の投資を行うに値すると強調した。さらに両氏は、Linuxなどのオープンソース製品で商用ソフトウェアを十分代用できるという見方を否定している。一部のTCO(総所有コスト)調査の結果は商用製品の方が優れており、オープンソース製品と商用製品のセキュリティ・バグの報告件数は同様と指摘した。ゲイツ氏は、開発者間の調整が行き届いていないことや、知的財産問題の浮上、投資水準の低さがネックとなり、オープンソース製品が商用製品に追いつくことはないだろうとの見通しを示した。

 ゲイツ氏は、Microsoftが大きな成果を期待している投資分野について以下のように説明した。

●自動展開/監視技術
 MicrosoftのDynamic Systems Initiative(DSI)の一環として開発が進められている。この技術はOSとアプリケーションの管理を自動化し、運用管理コストを低減する(DSIの詳細については、別稿「Insider's Eye:ベールを脱いだマイクロソフトの次世代システム・マネジメント戦略」を参照)。

●自動エラー報告技術
 「Windows Error Reporting(エラー報告)」などを含むこの技術は、より幅広く使用されるようになる。これにより、Microsoftは自社ソフトウェアで修正するバグについて適切に優先順位を付けることができ、企業や組織はソフトウェアの使用状況を追跡管理し、繰り返し発生する問題を特定できる。

●セキュリティ・ソフトウェア/ツール/トレーニング
 「Trustworthy Computing(信頼できるコンピューティング)」の取り組みの一環としてこれらへの投資を継続する。これにより、Microsoft製品の攻撃に対する脆弱性が減少し、企業や組織がソフトウェアにパッチを適用するコストや、攻撃の事後処理を行うコストが低減する。

●WebサービスとXML対応クライアント
 Webサービスと近くリリースされるOffice 2003などのXML対応クライアントは、アプリケーション間のデータ交換や従業員のデータ・アクセスを容易にし、企業がERP(Enterprise Resource Planning)システムやCRM(Customer Relationship Management)システムなどの既存アプリケーションをより有効に活用することが可能にする。

将来構想の実現を担うLonghorn

 管理やセキュリティ、統合といった分野で、Windowsの次期メジャー・リリースとなるLonghornはMicrosoftが目指す成果実現の要となる。

 Microsoftの幹部によると、Longhornは、より容易な導入のほかに、PC間の移行の簡素化、Dynamic Systems Initiativeに基づく自動管理技術、プライバシーの強化といった特徴を備える。また、Gates氏はLonghornを名指しはしなかったが、“プラットフォーム”に属するセキュリティ技術には、PKI(公開鍵基盤)、アンチウィルス、アンチスパム、ソフトウェア・アップデートなどが含まれるとの見解を示唆した。

 さらに、Longhornでは次のように、そのほかの多くの分野でも機能強化が行われる。

  • 新しいユーザー・インターフェイス:最新の3Dグラフィックス・ハードウェアを利用し、連絡先情報や写真、音楽の操作を簡易化する。

  • マネージAPI:.NET Frameworkの共通言語ランタイム(CLR)上で動作するアプリケーションをサポートする。

  • 新しいファイル・システム(WinFS):SQL Serverの次期バージョン「Yukon(ユーコン=開発コード名)」の技術を採用し、検索を容易にするとともに連絡先などのデータ型の共通スキーマを提供する。

  • 新しいWebサービス技術「Indigo(開発コード名:インディゴ)」:セキュリティ、信頼性の高い通信、トランザクションをサポートする。

 Longhornは従来、クライアント版しか提供されないと説明されていたが、Microsoftのサーバ・プラットフォーム担当上級副社長、エリック・ラダー(Eric Rudder)氏によると、Longhornはクライアント版とサーバ版の両方が提供される。サーバ版Longhornの現行Windows Server OSからの強化点は、WinFSやIndigoといった新機能のサーバ側でのサポート程度にとどまるもようだ。

 Microsoftは、LonghornにWindows事業の成長を賭けているだけではない。同社はOfficeに加えてビジネス・ソリューション部門の製品の新しいリリースで、Longhornの機能を活かす計画だ。これらのアプリケーションの新リリースは、Longhorn以前のWindows上でも利用できるかもしれないが(同社幹部はこの点について明言していない)、少なくともその機能の一部はLonghornに依存し、Longhornのショーケースとなる。このことは、これらの新リリースの投入時期がLonghornの投入時期に左右されることを意味する。

 多くの製品の投入が“Longhorn待ち”であることから、同OSがいつ出荷されるのかは大きな問題だ。しかし、ゲイツ氏は「現段階では、Longhornの正式なスケジュールはまだない」と語った。プラットフォーム・グループ担当グループ副社長のジム・オールチン(Jim Allchin)氏は、2003年10月開催の開発者向けカンファレンスのProfessional Developers Conference(PDC)でLonghornのプレビュー・コードが開発者に公開され、同OSの最初のベータ版は2004年以降にリリースされるとの見通しを示した。だが、Longhornが依存するYukonの出荷は2004年末以降であるため、Longhornの登場は2005年以降になりそうだ。

 Microsoftの経営陣は、「いまのソフトウェアでもう十分」という意見を封じ込めることができる画期的な製品としてLonghornを作り上げるまで、同OSの出荷を延期してもかまわないとの姿勢を示した。この姿勢は、ゲイツ氏の「われわれが実現する革新は、OSにはまだまだ進化が期待できることを人々に思い起こさせるものでなければならない」という考えに基づいている。なお、LonghornのスケジュールとWindowsのロードマップの分析については、「Insider's Eye:次期クライアントOS「Longhorn」本格始動へ」を参照していただきたい。

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ベールを脱いだマイクロソフトの次世代システム・マネジメント戦略
 
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