Insider's Eye次期クライアントOS「Longhorn」本格始動へ―― 2005年へ向けたWindowsロードマップ ―― |
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Michael Cherry 2003/07/31 Copyright(C) 2003, Redmond Communications Inc. and Mediaselect Inc |
本記事は、(株)メディアセレクトが発行する月刊誌「Directions on Microsoft日本語版」 2003年7月15日号 p.9の「Longhorn本格始動へ」を、許可を得て転載したものです。同誌に関する詳しい情報は、本記事の最後に掲載しています。 |
WindowsクライアントOSの次期メジャー・リリースとして2005年に出荷される予定のLonghorn(開発コード名:ロングホーン)では、グラフィックスやオーディオ処理の向上などの機能強化が計画されている。同OSの登場まではWindows XPが主力のWindowsクライアントOSであり、顧客が新たに目にするのはサービスパックのほか、2つの特別なエディション(Tablet PC EditionとMedia Center Edition*1)の「仕上げ調整」リリースに限られる。同様に、WindowsサーバOSの新しいメジャー・リリースの出荷も2006年以降になる見通しだが、それまでサーバOS用には多数のアドオン製品が出荷される。MicrosoftはWindowsの開発リソースの大半をLonghornに集中させているが、同OSの機能の中でコンシューマではなく企業にメリットをもたらすものについては、まだ明らかにしていない。
*1 編集部注:Windows XP Media Center Editionは、日本国内で出荷されていない。現在のところ、マイクロソフト(日本法人)は出荷予定についても明らかにしていない。 |
Windows XPの次のステップ
MicrosoftのWindowsクライアント担当上級副社長、Will Poole(ウイル・プール)氏によると、同社はWindows XPとLonghornの中継ぎとなるクライアントOSの暫定リリースを計画していない。つまり、Windows XPが2005年の遅い時期まで最新WindowsクライアントOSとして提供されることになる。Longhornの設計、開発、テストを行う一方で、MicrosoftはWindows XPに関しては最小限の開発にとどめる。2003年末までに、MicrosoftはWindows XPのサービスパック2(SP2)、Windows XP Tablet PC Second Edition、Windows XP Media Center Second Editionを投入する予定だ(Longhornの登場までのこうした製品計画の概要については、下図「Windows XPのロードマップ」を参照)。
Windows XPのロードマップ |
Microsoftの現在の計画では、Longhornが2005年に出荷されるまで、Windows XPが主力WindowsクライアントOSとして提供される。この図のように、Windows XP(ProfessionalとHome Edition)は2001年末に出荷された。 Microsoftは2002年にWindows XPの最初のサービスパック(SP1)のほか、Media Center Edition、Tablet PC Editionを出荷。2003年にはIntel Itaniumプロセッサ・ファミリに対応したWindows XPの64ビット版(Windows XP 64-bit 2003)を出荷している。2003年末までにAMDプロセッサ対応のWindows XPの64ビット版、Windows XP Tablet PC Second Edition、Windows XP Media Center Second Edition、Windows XP SP2をリリースする予定だ。また、2003年10月開催のProfessional Developers Conference(PDC)の参加者に、Longhornのプレビュー版に加え、Longhorn対応アプリケーションを開発、テストするための主要な開発者向けファイルを配布することを目指しているもようだ。 Microsoftは2004年にWindows XP SP3とLonghornのベータ版、同年から2005年にかけてLonghornのリリース候補版(RC)をリリースし、2005年末か2006年初めにLonghornを正式出荷する見通しだ。2005年にはWindows XP SP 4もリリースされると見られる。 |
●Windows XP SP2
SP2にWindows XPのセキュリティとバグの修正プログラムのほかに新機能や変更点が盛り込まれるかは不明だ。SP2はSP1の内容も含む累積的なサービスパックになると見られる。
●Windows XP Tablet Second Edition
MicrosoftはWindows XP Tablet PC Editionのこのアップデート・リリースについて、「仕上げ調整」による改善が施される製品と説明している。変更点は、サービスやユーザー・インターフェイスの一連の小さな調整のみとなる見込みだ。このリリースにはマルチユーザー言語/レコグナイザ*2・パックや、スペイン語の手書き文字認識エンジンなどが搭載される。
*2 編集部注:ペン・ストロークを文字や記号、パターンなどに変換する機能。 |
●Windows XP Media Center Second Edition
MicrosoftはWindows XP Media Center(Windows XPのホーム・エンターテインメント・エディション)のこのアップデート・リリースについても、「仕上げ調整」による改善が施される製品と説明している。このリリースでは、ヨーロッパのテレビ番組ガイド情報の追加が大きな変更点となる。
Windows XP Tablet PC EditionとWindows XP Media Center EditionはLonghornの登場までに、Xeel(シール)ナビゲーション・インターフェイス*3などの新技術を利用したリリースが追加投入される可能性もある。
*3 編集部注:新しいナビゲーション技術。Tablet PCやSmartPhoneなど、マウスが使いにくいWindowsデバイスにおいて、操作を行うためのナビゲーション・ツールである。縦に5つのボタンが並んでおり、中央のボタンは4方向に傾けることが可能で、それぞれのボタンを押すことでコマンドが実行できる。 |
Longhornにいよいよ本腰
Windows Server 2003が2003年4月に一般出荷されたことに伴い、Windows開発の主な焦点はサーバから次期クライアントのLonghornにシフトしている。Microsoftは5月開催のWindows Hardware Engineering Conference(WinHEC)2003で、開発のリードタイムが最も長いのが通例であるハードウェア開発者に、Longhornの機能の中でハードウェアの変更を必要とするものや、ハードウェアとOSのやりとりに影響するものに関する技術的な詳細を提供した。また、Longhornの出荷スケジュールについても情報を提供した。
■コンシューマにフォーカスしたハードウェア機能
Longhornについての新情報は、グラフィックスやオーディオ機能の変更など、ハードウェアに依存するコンシューマ指向機能に集中していた。Longhornにおけるハードウェア機能の強化では、グラフィックス、オーディオ、インストール、新しいLonghornドライバ・キットという4つの分野に重点が置かれる。
●DirectX 9ベースのグラフィックスへ移行
高解像度の表示と出力をサポートするため、MicrosoftはWindowsのグラフィックス・レンダリング方式を変更し、現行のグラフィック・デバイス・インターフェイス(GDIとGDI+)からDirectX
9ベースのDesktop Composition Engine(DCE)に移行する。Microsoftはグラフィックス・ハードウェア開発者に、Longhornは3Dのグラフィックス・ハードウェアとハードウェア・アクセラレーションを利用することで、必要な同時レンダリング量を最も効果的に処理すると説明した。
●オーディオ環境の強化
MicrosoftはWindows XPでデジタル写真の利用シナリオを充実させたのと同じように、Longhornでオーディオの利用シナリオを充実させようとしている。Longhornはキャリブレーション・レベルやデフォルト入力などのオーディオ/ビデオ設定をオーディオ・ポリシー・エンジンで管理し、オーディオ/ビデオ・デバイスの自動検出をサポートする。例えば、ユーザーがマイクをオーディオ・ジャックに差し込むと、Longhornはそれを入力デバイスと判断し、適切なドライバをロードする。グラフィックスと同様に、Microsoftは主な強化目標としてオーディオ・ドライバの品質を重視している。
●インストールの柔軟性と高速化
MicrosoftはWindows XP Embeddedのために行ったコンポーネント化の成果を利用して、OEMなどが共通コンポーネント・セットをベースにLonghornのさまざまなエディションを迅速に構築できるようにする。いい換えれば、Longhornの標準エディションとは異なるエディション(Tablet
PC EditionやMedia Center Editionなど)が、OSの共通コンポーネント基盤に必要に合わせて特殊なコンポーネントを追加することで構築できるようになる。この仕組みにより、Longhornのインストールの大幅な高速化や、特別な用途向けのPCのより迅速な開発が可能になる。
●Longhornドライバ・キットの提供
ドライバの品質向上がOSの品質向上のカギを握るとの認識から、MicrosoftはLonghornドライバ・キット(LDK)を作成する。同社は2003年10月に開催するProfessional Developers Conference(PDC)の前にLDKをリリースし、ハードウェア・メーカーによる高品質のドライバ開発を支援する。LDKにはデバイス・ドライバ・キット(DDK)で提供されてきた情報と、ハードウェア互換性テスト(HCT)キットに含まれていたデバイスのテストに関する高度な情報が盛り込まれる。
MicrosoftはWinHECで、Next Generation Secure Computing Base(NGSCB)についての詳しい技術情報も明らかにした。NGSCBはPCプラットフォームのセキュリティを高める技術であり、コンピュータが自身の識別情報をほかのコンピュータに証明することなどを可能にする。チーフ・ソフトウェア・アーキテクトのBill Gates(ビル・ゲイツ)氏はWinHECでの基調講演で、ハードウェア・メーカーがNGSCB対応コンポーネント(プロセッサ、ビデオ・カード、キーボードなど)の開発に取り組むことが求められていると述べた。NGSCBの実現にはMicrosoft自身の取り組みだけでなく、Trusted Platform Moduleと呼ばれるコンポーネントなど、新しいハードウェアの開発が必要になる。つまり、Microsoftは今後、Longhornをどの程度NGSCBに依存させるかを決定しなければならない。決定にあたっては、「NGSCBの準備が不十分な場合には、Longhornの出荷延期もやむなし」と同社が考えられるどうかが大きなポイントになる。
■Longhornまでの長い道のり
MicrosoftがLonghornの一般出荷は2005年になると明言したことで、「2005年のいつ」出荷されるかが次の焦点となっている。
Longhornの開発が過去のWindowsのリリース・サイクルに沿って進められるとすると、Longhornは前のOSの約40カ月後に出荷されるはずだ。Longhornに関する作業がいつ始まったかが分かれば、この予測の信頼性はもっと高くなるが、作業開始時期はWindows Server 2003 Release Candidate 1(RC1)がリリースされた2002年7月と見るのが妥当だろう。この節目を境に、Microsoftでは一部のプログラム・マネージャやソフトウェア・エンジニアをLonghornの仕様設計に振り向ける余力ができたと見る。2002年7月に40カ月をプラスすると、LonghornのRTM(製造工程へのリリース)は2005年11月ということになる。
Windows Serverの次のステップ
MicrosoftはWindows Server 2003を出荷したばかりであるため、サーバOSの次のメジャー・リリースはしばらく登場しない。一方、Microsoftは一連の「アウトオブバンド」リリース(顧客が導入済みのWindows Server 2003を機能拡張できるアドオンや製品)の提供を決めている。この戦略により、MicrosoftはWindows Serverの強化機能の開発とテストを完了した後、ただちに顧客に届けることができ、サーバOSの次の完全なリリースのために温存する必要がない(こうしたアウトオブバンド・リリースについての詳細は、表「Windows Serverのロードマップ」を参照)。
説明 | 予想リリース時期 | 製品タイプ | 参考情報 | |
グループ・ポリシー管理コンソール(GPMC) | グループ・ポリシーの管理を容易にするツール | 提供中 | アドオン | Directions on Microsoft日本語版2003年1月15号の「グループポリシーの複雑さを軽減するWindows .NET Server」を参照 |
iSCSIサポート | データ・ストレージ機器の連携に用いられるiSCSIベースのストレージ・ ネットワーキング規格をサポートするためのドライバ | 2003年 第2四半期 |
アドオン | Directions on Microsoft日本語版2003年4月15号の「Windowsのストレージ新提案、iSCSIを正式サポート」を参照 |
Network Attached Storage(NAS) 3.0 | Windows Server 2003ベースのNAS Server Appliance Kit | 2003年 第2四半期 |
新製品 | Directions on Microsoft日本語版2003年6月15号の「組み込みOSのロードマップに見るデバイス戦略の将来像」を参照 |
Windows SharePoint Services | チーム・ベースのポータル/ドキュメント管理サービス | 2003年 第3四半期(Office 2003のRTMに合わせるために延期される可能性あり) |
アドオン | Windows Server Insider/Windows Server 2003完全ガイド「Windows SharePoint Servicesがもたらす次世代チーム・コラボレーション」を参照 |
Automated Deployment Service(ADS) | 大量のサーバへのWindows Server 2003の効率的な展開を可能にする | 2003年 第3四半期 |
アドオン・オプション | |
仮想サーバ | レガシー・アプリケーションの活用を容易にするWindows Server 2003対応の仮想マシン・ソフトウェア | 2003年 第4四半期 |
製品 | |
AMDプロセッサ対応の64ビット版 | AMDプロセッサをサポート | 2003年 第4四半期 |
新製品 | |
Windows Rights Management Services | Webコンテンツやドキュメントにアクセス許可を永続的に適用する | 2003年 第4四半期 |
アドオン | |
Windows Server 2003 Service Pack 1 | サービスパックと累積的修正プログラム | 2004年 第1四半期 |
サービスパック | |
Longhorn対応のためのサーバ更新(予想) | Longhornの機能をサーバ側でサポートすることを可能にするサービスパック | 2005年 第4四半期(LonghornのRTMと同時期) |
サービスパック | |
Blackcomb | 自己管理型のインテリジェントOS。仮想化、Trustworthy Computing構想に基づく改善、フェデレーション機能などの特徴を持ったサービスを提供する | 2006年または2007年 | 新製品 | |
Windows Serverのロードマップ | ||||
この表に示したように、MicrosoftがWindows Serverの次期リリース(コード名:Blackcomb)を出荷するのは2006年か2007年になると見られる。だが、同社は無料のアドオンやオプション製品(クライアント・アクセス・ライセンスやプロセッサ単位のサーバ・ライセンスの追加購入が必要になる可能性もある)の提供により、Windows Server 2003を機能拡張していく。また、Windows Server 2003のサービスパックや同OSベースの新製品も投入する。 |
WindowsサーバOSの次期メジャー・リリースとなる開発コード名:Blackcomb(ブラックコム)の出荷は、次期クライアントのLonghornが出荷された後、おそらく2006年か2007年になるだろう。まだ遠い先であるため、Blackcombについて分かっていることはLonghornと比べてごくわずかだ。Microsoftによると、同社はBlackcombでシステムの信頼性の向上や、異なるユーザー認証サービスのフェデレーション(統合)といった「機能領域」に対処するという。
いまのところ、LonghornをサポートするためだけにサーバOSの新リリースが投入されることはなさそうだ。だが、MicrosoftはLonghorn対応をメインに据えたサービスパックの提供などにより、Windows Server 2003を更新しなければならないだろう。例えば、MicrosoftがLonghornでファイル・システムに変更を加えるのであれば、ボリューム・シャドウ・コピー・サービス(VSS)など、Windows Server 2003のストレージ関連機能にも変更を加える必要が生じると見られるからだ。
参考資料
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MicrosoftがWinHEC 2003でアピールしたメッセージ全般については、Directions on Microsoft日本語版2003年6月15号の「コンシューマ指向が決め手、PC市場活性化のビジョン」を参照。
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Windowsの開発サイクルの予測に関する参考情報については、Directions on Microsoft日本語版2002年11月15日号の「『Longhorn』の出荷は2006年?暫定バージョンの可能性も」と同記事中の図「Windowsの開発スケジュール」を参照。
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MicrosoftのWinHEC 2003のWebサイト
http://www.microsoft.com/winhec/default.mspx
Directions on Microsoft日本語版 本記事は、(株)メディアセレクトが発行するマイクロソフト技術戦略情報誌「Directions on Microsoft日本語版」から、同社の許可を得て内容を転載したものです。Directions on Microsoftは、同社のWebサイトより定期購読の申込みができます。 |
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