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FrontBridgeを買収、法人向けメッセージング・サービスに本腰

―― Exchange新機能のホスティング・サービスを提供 ――

Peter Pawlak
2005/09/29
Copyright (C) 2004, Redmond Communications Inc. and Mediaselect Inc.


本記事は、(株)メディアセレクトが発行する月刊誌『Directions on Microsoft日本語版』2005年10月号 p.33の「FrontBridgeを買収、法人向けメッセージング・サービスに本腰」を、許可を得て転載したものです。同誌に関する詳しい情報は、本記事の最後に掲載しています。

 Microsoftはメッセージング・サービス・ベンダのFrontBridge Technologiesを買収した。FrontBridge Technologiesは、企業やホスティング・サービス・プロバイダを対象に、インターネット・メールおよびインスタント・メッセージング(IM)システムのセキュリティ、コンプライアンス(法令順守)、可用性サービスを提供している実績ある企業である。MicrosoftはExchange Serverの次期リリースで、スパム対策、ウイルス対策、コンプライアンス、可用性機能の強化を推進する予定である。しかし、Exchangeやほかの電子メール・システムを自社内で運用するために十分なノウハウや人的資源のない企業もある。FrontBridgeを買収することで、Exchangeの新機能をホスティング・サービスとして提供できるようになる。

コンプライアンスに対応するFrontBridgeの提供サービス

 FrontBridge(旧社名Big Fish Communications)は、世界各地に分散する8カ所のデータ・センタを運営し、企業ユーザーおよび電子メール・ホスティング・プロバイダに送受信メッセージング関連サービスを提供している(FrontBridgeのサービスの詳細については、図「FrontBridgeサービスのアーキテクチャ」を参照)。

FrontBridgeサービスのアーキテクチャ
FrontBridgeのデータ・ネットワークは、SMTPメール通信において送受信プロキシとして機能する。アンチウイルスやアンチスパムなど、さまざまなフィルタリング・サービスを実行するほか、コンプライアンスおよび障害復旧目的で、受信メッセージ、送信メッセージ、および内部メッセージのコピーを保存する。また、メッセージの暗号化サービスを提供したり、インスタント・メッセージ通信のスキャンや保管も行ったりする。

 FrontBridgeは、以下のサービスを提供するための、フィルタおよびデータ・ストアを用意している。

●アンチウイルス機能
 複数のスキャン・テクノロジを使用して、SMTPベースの送受信メールをフィルタする。また、特定の種類の添付ファイルをブロックすることもできる。

●アンチスパム機能
 複数のテクノロジを使用して、送られてきたスパム・メールを顧客の電子メール・サーバに転送する前にフィルタする。FrontBridgeの発表では、正規の電子メールを誤ってスパムに振り分ける割合は極めて低く、25万件に1件であるという。

●送信メールの内容と送信先の検査
 顧客のポリシーに違反する特定のキーワードやフレーズ、添付ファイル、受信者名、ドメインを含む送信メッセージをフィルタし、フィルタしたメールを送信者に返送する。

●メッセージの保管
 顧客のSMTP(Simple Mail Transfer Protocol)サーバおよびIMサーバと連携し、全メッセージのコピーを保管する。また、管理、検索、取得などの操作に使用するため、保管したメッセージのインデックスを作成する。

●障害復旧(ディザスタ・リカバリ)
 受信SMTPメールをスプールし、顧客の電子メール・サーバが停止した場合に、受信メッセージが破棄されないようにする。また、全メール(受信メールおよび顧客のシステム内部のメール)のコピーを30日間保管し、顧客の内部サーバが停止または故障した場合でも、Webを介してメール・サービスに安全にアクセスできるようにする。

●メッセージ保護
 Voltage Securityが開発したIdentity-Based Encryption(IBE)と呼ばれるテクノロジを使用して、メッセージの暗号化サービスを提供する。FrontBridgeによると、IBEはPKI(公開鍵基盤)やデジタル証明書を必要とせず、代わりに電子メール・アドレスなど一般的なIDを公開キーとして使用するという。送信側および受信側の電子メール・クライアントには、Outlook、Outlook Express、Outlook Web Access、Hotmail、Yahoo! Mailを使用できるが、専用のIBEアドオンをインストールする必要がある。

 上記のサービスは、煩わしい作業から顧客を解放し、リスクを軽減するだけでなく、電子メールの保管や送信メールの検査、暗号化を義務付ける法令を順守するうえでも役に立つ。米国でのこのような法令の例としては、HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act:医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)、Gramm-Leach-Bliley Act(米国金融制度改革法)、SEC Rule 17a-4(米証券取引委員会規則17条a-4)、NASD Conduct Rule 3010(全米証券業協会運営規則3010条)、Sarbanes-Oxley(サーベンス・オクスリー法:米国企業改革法)がある。

 FrontBridgeのSLA(service-level agreement:品質保証契約)は、同社のフォールト・トレラントな分散型データ・センタ・アーキテクチャによって99.999%の可用性を実現することをうたっている。また、同社の発表では、1999年以来一度もサービスのダウンタイムは発生していないという。FrontBridgeのサービスはExchange Serverに対応しているが、ほとんどのSMTP対応電子メール・システムで問題なく機能する。

FrontBridge買収の決め手

 数年にわたり、Microsoftは上記のような機能をユーザーがExchangeやサードパーティ製のアドオンによって活用できるように、Exchangeに機能強化を施し、McAfeeやSymantec、トレンドマイクロといったセキュリティ関連のパートナーと協力してきた。最近では、Exchange用のアンチウイルス製品ベンダであるSybariを買収し、2005年後半にリリース予定のExchange 2003 SP2および2006年後半にリリース予定のExchangeの次期バージョン(コード名:Exchange 12)のセキュリティ機能を強化する計画を発表している(月刊誌「Directions on Microsoft日本語版」2005年9月号の「ウイルス対策Sybariの買収が完了」を参照のこと)。

 しかし、電子メールの重要性がますます高まるにつれ、顧客の多くは電子メール・システムのセキュリティを確保し、自社のポリシーや法規制に準じるための作業を、既存のリソースではこなしきれなくなった。このため、FrontBridgeのような企業に業務委託するケースが増えており、FrontBridgeでは3000以上の顧客を抱えているという。

 従って、FrontBridgeはMicrosoft以外のテクノロジをサポートしており、Exchangeとは競合関係にあるようにも思える。しかし、FrontBridgeが提供しているのはサービスのみであり、MicrosoftがWindows以外の製品をサポートする必要はなく、Exchangeの製品計画を阻害するものではないという判断から、MicrosoftはFrontBridgeの買収を決めた。この意味では、今回のFrontBridgeの買収は、Hotmailや会議サービスPlaceWare(後にLive Meetingに改名)の買収と似ている。

 約160名のFrontBridgeのスタッフは、買収プロセスの完了後も、現在の拠点およびデータ・センタで引き続き職務を遂行することになる予定である。

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本記事は、(株)メディアセレクトが発行するマイクロソフト技術戦略情報誌「Directions on Microsoft日本語版」から、同社の許可を得て内容を転載したものです。『Directions on Microsoft 日本語版』は、同社のWebサイトより定期購読の申し込みができます。
 
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