Insider's Eye Windows Vistaの技術革新を解く(3) Michael Cherry2005/12/08 Copyright (C) 2005, Redmond Communications Inc. and Mediaselect Inc. |
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ユーザーのデータ整理と活用を強力にサポート
Microsoftは2004年8月、Vistaを2006年に出荷すると発表した際に、鳴り物入りで宣伝していたWindows File System(WinFS)をVistaに搭載しないことも明らかにした。当初、WinFSの搭載見送りは、Vistaでは、統合された検索機能が提供されないことを示唆していると思われた。だが、最初はMSNサーチ・ツールバーとしてリリースされたWindowsデスクトップ・サーチ技術がVistaに統合されることになった。ユーザーはこの機能を使って自分のコンピュータ内のすべてのファイルのインデックスを作成し、キーワードや属性でファイルを検索できる。
さらに、Vistaでは、ユーザーは検索結果を「バーチャル・フォルダ」として保存できる。これにより、関連するファイルを意味のある区分でグループ化して検索しやすくすることができる。Vistaには、事前に構成されたいくつかのバーチャル・フォルダ、例えばAll Documents(すべてのOfficeドキュメントを検索できる)、All Pictures(JPGやBMPファイルなど、すべてのグラフィックス・ファイルを検索できる)などが搭載されることになっている。開発者は、アプリケーション・データのファイル・タイプの関連付けを行うことで、データが適切なバーチャル・フォルダに自動的に表示されるようにすることができる。例えば、請求書ファイルの拡張子として「.inv(invoiceの略)」を作成し、.invファイルをドキュメントとして登録すると、すべての請求書ファイルがAll Documentsバーチャル・フォルダに含まれるようになる(バーチャル・フォルダの使用画面については、コラム「Windows Vistaのバーチャル・フォルダ」を参照)。
この場合、請求書ファイルに保存されたデータにWindowsデスクトップ・サーチがインデックスを付けることができるようにするには、開発者は適切な検索APIの実装を提供するか、プロトコル・ハンドラとExplorer名前空間拡張を提供する必要があるだろう。
一方、WinFSは、NTFSファイル・システムの拡張として機能するように開発されており、Vistaと同じくベータ1の段階にある。WinFSはVistaの一部として出荷されることはないが、アドオンとしてリリースされそうだ。
Microsoftは現在、WinFSを総合ストレージ戦略の柱の1つとして推進している。この戦略は、新しいリレーショナル・ファイル・システムによって、ユーザーのすべてのデータをカバーする新しいデータ型を提供し、フォルダで整理されるデータの枠を超えた新しいデータ・モデルを実現することを目指している。
Windows Vistaのバーチャル・フォルダ |
多彩な通信を可能に
Vistaでは、安全で信頼性の高い通信APIによって通信アプリケーションの開発を容易にするWindows Communication Foundationに加えて、ユーザーとアプリケーションの通信を向上させる機能がいくつか提供される。その中にはピアツーピア・ネットワーキングを可能にする前述のPeople Near Me機能や、RSS(Really Simple Syndication)のサポートなどが含まれる。MicrosoftやほかのRSS支持者は、RSSが、Webサイト上の情報にとどまらない多種多様な情報をユーザーが受け取るための共通手段になると期待している。例えば、企業のERPアプリケーションが、毎日更新される販売情報を従来のレポーティング技術や電子メールで提供するだけでなく、そうした情報を収めたRSSフィードも生成するようになるかもしれない。
MicrosoftはRSSを2つの主要なコンポーネントでサポートする計画だ。これらのコンポーネントはフィードのダウンロードを管理するとともに、アプリケーションがそのデータを取得するためのAPIを提供する。
■共通RSSストア
ユーザーが購読しているRSSフィード(サイトやブログのコンテンツを要約したXMLファイル)のリストを保持し、フィードの追加、削除やフィード・コンテンツへのアクセスのためのAPIをアプリケーション開発者に提供する。システムワイドなRSSフィードのリストによって、さまざまなアプリケーションがユーザーのあらゆるフィードのデータにアクセスできるようになる。例えば、ユーザーがIEからブログの購読を登録し、そのブログで公開されたあらゆるオーディオ・コンテンツをWindows Media Playerに取り込んだり、あらゆるカレンダー・エントリをOutlookで表示したりといったことが可能になる。
●プラットフォーム同期エンジン
新しいコンテンツが公開されたときにダウンロードし、共通RSSストアに格納する。RSSコンテンツをダウンロードするシステムレベルのコンポーネントが提供されることで、RSS対応アプリケーションの動作中にのみ新しいコンテンツがダウンロードされるという、現在のRSSアプリケーションの制約の1つが解消される。
まだ流動的な部分も
Windows Vistaのベータ1には、正式版で提供される機能がすべて含まれているわけではない。現在のベータ版やテクノロジー・プレビュー版に含まれる機能の中には、変更されないまま正式版に搭載されるものもあるだろうが、拡充されたうえで搭載されるものもあるかもしれない。また、現在のリリースにはない機能が今後追加されるケースも出てくるだろう。
次の4つの領域では、正式版の完成までに変更がありそうだ。
■Windowsデスクトップ
Microsoftは追加機能と、現在のデスクトップに慣れたユーザーの再トレーニングの負担との間でバランスを取りながら、WindowsデスクトップのUIを変更していくだろう。
■セキュリティ機能
Vistaには、スパイウェア対策機能や恐らくウイルス対策機能も統合されると見られている。だが、これらの機能は現在のベータ版やテクノロジー・プレビュー版には含まれていない。また、Webベース・サービスのWindows OneCareで提供されるPCのシステム管理機能、例えば、必要に応じたドライブのエラー・チェックやファイル・デフラグといった機能がVistaに統合されるかどうかは不明だ。
■導入(デプロイ)
Microsoftは、Vistaでは、導入を容易にする新しいイメージング・ツールを用意するとしている。だが、現在のビルドでは、こうしたイメージング・ツールについては基本的なコマンドライン・アクセスしか提供されていない。
■ハードウェア要件
Microsoftは、Vistaの機能を十分に活用するためのハードウェア要件をまだ具体的には明らかにしていない。セキュア・スタートアップなど新しいセキュリティ機能の一部を利用するためには、コンピュータにTPM機能が搭載されている必要がありそうだ。同様に、WPFや新しいデスクトップを利用するためには、少なくともDirectX 9.0に対応したグラフィックス・カードがコンピュータに装備されていなければならない。だが、グラフィックス・カードにGPUと大量のビデオ・メモリが搭載されていれば、ユーザー体験はさらに向上するはずだ。
これからが正念場
MicrosoftのWindowsチームは今後、Windows Vistaを出荷できる状態に仕上げるまで、膨大な開発作業とテスト作業を遂行していかなければならない。Microsoftは、Windows Vistaを2006年末までに出荷する計画は予定どおりに進んでいるとしている。恐らく、製品品質の確保とスケジュールどおりの出荷を両立させる新しい開発プロセスを実施しているのだろう。
しかし、現在のベータは十分な安定性を示しているものの、今後のベータとリリース候補版には、まだ多くの機能が追加される。このことからすると、Microsoftは、特定のハードウェアとソフトウェアの組み合わせでの互換性の問題など、同社が必ずしも発見できるとは限らない問題について、ベータ・テスタがフィードバックを提供するための時間を十分設けなければならない。こうしたフィードバックが予想外の遅れや機能変更につながる可能性もある。
開発プロセス全体を通じて機能の変更や追加が行われるため、顧客やパートナーは、Vistaに加えられる変更を時間をかけて検討し、それらの変更が既存アプリケーションと導入計画に与える影響の把握に努めなければならない。
また、ベータ1とPDCで配布されたプレビュー・ビルドは、Vistaにおいて、Microsoftの掲げる目標の達成がどのように図られているか、そして開発者向けの要素技術がどのように提供されるかを示している。だが、企業のアップグレードの促進と、優れたOSとしての地位の確立という暗黙の目標を、Vistaが達成するかどうかはまだ予断を許さない。今後1年間に多くの企業がVistaへのアップグレードをボリューム・ライセンス契約に追加することを決定し、Vistaがベータ・テスタやレビュアーから好評を博すれば、Microsoftはこれらの目標の達成にも成功するだろう。
参考資料
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Windows Vistaの新しいコンテンツ保護技術については、月刊誌『Directions on Microsoft日本語版』2005年8月号の「Longhorn DRMはコンテンツ保護の切り札になるか?」を参照。
Directions on Microsoft日本語版 本記事は、(株)メディアセレクトが発行するマイクロソフト技術戦略情報誌「Directions on Microsoft日本語版」から、同社の許可を得て内容を転載したものです。『Directions on Microsoft 日本語版』は、同社のWebサイトより定期購読の申し込みができます。 |
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