大衆化に邁進するXP、されど2000ユーザーの興味は…

小川 誉久
2001/02/28

 たとえば、初めて行った格式高いレストランで、あまたあるメニューのなかから、コースとして注文する料理をすべて自分で選ぶとしよう。何でも自分の好きなものが食べられるのだからいいかといえば、よほどの食通でもないかぎりそうではないだろう。何をどう選べばよいのか、タブーとされる組み合わせはないか、予備知識がなければ不安にかられるはずだ。その店に精通している人なら、いくつかの選択パターンを持っていて、これを軸にバリエーションをつけていくに違いない。もちろん、タブーも頭の中に入っている。

 仮に読者がこのレストランのオーナーで、常連客ばかりでなく、初めての客も積極的に取り込んで、売上増を狙うとしたら何をするだろうか。そのとおり。できあいのコース・メニューを何パターンか作り、それらから選べるようにすることだ。コース・メニューは、店の人間が設定しているわけだから無難な組み合わせだろうし、タブーも避けられる。何でも自由にというわけにはいかないけれども、これなら初めての客でも安心して注文ができるはずだ。

 つまり初心者にとっては、自由を犠牲にしても、選択を減らしたほうが安心できるということだ。初心者がパソコンに向かう際の最初の難関はキーボードだと聞くが、理由は単純にスイッチの数が多いからだろう。百数十個のスイッチを前にして、どれをどのような順序で押すかを選択しなければならない(以前筆者はオフコンの開発に携わっていたが、「分かりにくいので[Y]の周りは全部[Y]、[N]の周りは全部[N]にしてほしい」という顧客からの真面目な要望を聞いたことがある)。

 さてここで、先ごろマイクロソフトが公開した、Windows XPのデスクトップをご紹介しよう。ご存じのとおりWindows XPは、現行のWindows MeおよびWindows 2000の後継となる新世代OSである。

Windows XPのデスクトップ
マイクロソフトが公開した数少ないWindows XPのスクリーン・ショットの1つ。マイクロソフトの説明によれば、Windows XP開発においては、デスクトップに余計なものを表示せず、シンプルにすることに多大な時間をかけたのだという。この説明どおり、デスクトップは極めてシンプルにはなっているが……。

 ここで比較のために、現行のWindows Meのデスクトップを示す。

Windows Meのデスクトップ
お馴染みのWindowsデスクトップ。たとえばアプリケーションの起動は、スタート・メニューから行うこともできるし、デスクトップのショートカットや、タスク・バー上のショートカット・バーのアイコンからも行える。1つの処理でも、さまざまな操作方法が用意されている。

 Windows XPの画面は、XPで新たに導入されたユーザー・インターフェイスで、開発者の間では「Whistlerスタイル」(WhistlerはWindows XPの開発コード名)と呼ばれているものだ。Windows XPの発表会におけるマイクロソフトの説明によれば、「Windows XP開発では、デスクトップをシンプルにすることに多大な時間をかけた」のだという。この言葉どおり、上のスクリーン・ショットを見ると、従来と比較してデスクトップが非常にすっきりとしていることが分かる。

 今までWindowsに触れたことがない初心者に、上の2つのデスクトップのうち、どちらが使いやすそうかと尋ねれば、多くはWindows XPと答えるだろう。その理由は最初に述べたとおり、選択項目が少ないからだ。ここにWindows XPは、ユーザーの裾野をよりいっそう拡大するために、さらなる大衆化の一歩を踏み出すこととなった。

 私たちは、本当は複雑なハイテク製品であっても、大衆化に合わせて操作がシンプルになってゆく製品を数多く見てきた。ビデオ・デッキしかり、カメラしかりである。子供からお年寄りまで、幅広い年代層に使ってもらうには、100点満点を狙えなくても、簡単な操作で平均80点を狙えるように、機能のとりまとめや隠蔽を行う必要がある。ボタンは少ないほどよいのだ。

 もはやWindowsは、ビデオ・デッキやカメラのように、誰もが使う大衆製品になったということだろう。さらなる普及という意味ではこれは正しい。しかし、だ。

 操作がシンプルになるということは、こまごまとした面倒な設定をしなくてよいということでもあり、逆にいえば、細かい設定を行えなくなるということでもある。つまり、機能性とシンプルな操作性は相反する要求だということだ。したがってシンプル化の過程では、製品の使い方を見切るという作業が欠かせない。大多数を占める平均的なユーザーが求める機能は残し、そうでない機能は思い切って割愛するのである。

 ここで気になるのは、「平均的なユーザーのパソコン用途を見切ることは可能か?」という疑問である。Windows XPの画面を見る限り、「Webブラウザ(IE)と電子メール(Outlook Express)があれば、おおよそ事足りるだろう」というニュアンスが見え隠れしているように思う。パソコンやインターネットはその程度のもので終わるのだろうか? いや、終わらせていいのだろうか?

 「あんなでっかいスタート・メニューなんか誰が使うか」とお思いの読者の方々。幸いなことに、Windows XPには前出のWhistlerスタイルとは別に、現在のインターフェイスを引き継ぐ「Classic Windowsスタイル」も用意されるという。「ユーザー・インターフェイスが同じなら、何のためのWindows XPか?」という声が聞こえてきそうだ。そのとおり、現Windows 2000ユーザーにとって、Windows XPに移行するメリットが何なのかはまだほとんど語られていない。大衆版でないWindows XPを知るには、もう少し時間がかかりそうだ。End of Article


小川 誉久(おがわ よしひさ)
株式会社デジタルアドバンテージ 代表取締役社長。東京農工大学 工学部 材料システム工学科卒。'86年 カシオ計算機株式会社 入社、オフコン向けのBASICインタープリタの開発、Cコンパイラのメンテナンスなどを行う。'89年 株式会社アスキー 出版局 第一書籍編集部入社、書籍編集者を経て、月刊スーパーアスキーの創刊に参画。'94年月刊スーパーアスキー デスク、'95年 同副編集長、'97年 同編集長に就任。'98年 月刊スーパーアスキーの休刊を機に株式会社アスキーを退職、デジタルアドバンテージを設立した。現Windows 2000 Insider編集長。

「Opinion」



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