会計ソフトで管理会計を行うための注意点とは?
2006/10/17
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会社が利益を出すためには、以下の2点がポイントとなります。
- 利益の出る受注(売上)を増やす
- 利益の出る受注(売上)に結び付かない経費を減らす
この2点を導き出すためには、次のような分析・検討を行います。
「1. 利益の出る受注(売上)」を知るには、「商品と経常利益との関係」や「得意先と経常利益との関係」などを分析して、利益との相関関係を分析・検討します。特に、得意先と利益の関係については、「自社に利益をもたらしているのは、どの得意先かを知るには?」で、具体的な手法を説明しました。
次に、「2. 利益の出る受注(売上)に結び付かない経費」を知るには、まず「1. 利益の出る受注(売上)」と各経費との相関関係を求めます。そのうえで、負の相関関係となっている経費や相関係数の低い経費を分析・検討することになります。
これらを踏まえて、分析をする際に必要なデータを作成するために、会計ソフトの設定上必要な点を見ていきましょう。
会計ソフト設定のポイント
中小企業の経営分析を考えた場合、管理会計用のデータを制度会計用データとは別に用意するということは、費用対効果の面で望ましくありません。そこで「制度会計用の会計ソフトのデータを、管理会計に使えるように加工する」という面から攻めていきましょう。ポイントとなる要素は、「勘定科目の設定」と「仕訳データ入力の方法」です。
[ポイント1]補助科目を詳細に設定する
市販の会計ソフトは制度会計用データを作成するためのシステムなので、デフォルトの科目体系のままでは、管理会計には適していません。そこで、デフォルトの勘定科目に補助科目を設定することにより、テキストデータを取り出して、Excelなどで加工すれば、そのまま管理用データとして使用できるようにしておきます。
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画面1 弥生会計06での補助科目設定画面(クリック >> 図版拡大) |
補助科目をどんな分類で設ければ、分析時に使いやすいかといった疑問があるかと思います。いろいろな分類方法があり議論が分かれますが、私の経験上、ほとんど科目は取引先名で補助科目を設定することで、取引内容に沿った集計が取れるようになります。
ただし、イレギュラーな取引先(ガソリンスタンドや駐車場などのちょっとした出先で発生する取引先など)を補助科目名として設定しても意味がありませんので、「その他」という逃げ道となる補助科目を設けておくといった工夫も必要です。
参考までに、取引先名以外の補助科目を設定した方が使いやすい経費科目の例を挙げてみたいと思います。
広告宣伝費 | 売上のための広告と社員募集のためのもの |
給与 | 直接工員と間接部門の人件費 |
旅費交通費 | 社員の通勤交通費と営業に使った旅費交通費 |
運賃 | 商品発送に掛かったもの、社内での移動に掛かったもの、その他の郵便に掛かったもの |
受注・売上については経営の要となるので、販売管理用ソフトで集計するのがベストです。商品別・得意先別・地域別・担当者別など、さまざまな切り口でデータが取れるからです。会計ソフトから抽出したデータでは、このようにさまざまな角度からの集計は不可能です。しかし、加工のたやすさを考えると、会計データにもある程度の情報を付加しておいた方がいいと思います。
[ポイント2]受注に関する科目を追加しておく
受注から売上までの期間が長い受注産業においては、受注は売上よりもある意味重要です。「2. 利益の出る受注(売上)に結び付かない経費」を考える際には、「受注と経費の相関関係」と「売上と経費の相関関係」の両方を分析する必要があります。
しかし会計上、損益は実現または発生をもって認識しますので、会計ソフトには受注を管理する勘定科目がありません。そこで、「資産側に受注義務見返、負債側に受注義務」といった対照勘定を設定して管理します。
仕訳処理は、
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( )内は補助科目 |
とします。
この受注対照勘定は決算書上表示すべき勘定科目ではありませんので、決算整理仕訳で、
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( )内は補助科目 |
という仕訳処理をすることとなりますが、そのときに「決算」という補助科目を設定しておき、これを使うと、翌期首の振替が楽になります。
時系列データとして使う場合には、貸方のみを集計して使用すれば、受注の発生状況をつかむことが可能です。
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画面2 弥生会計06の月次残高推移表(勘定科目別)(クリック >> 図版拡大) |
[ポイント3]部門設定を活用する
部門には、店舗別といった物理的なセグメントや、営業部・製造部・管理部別といった管理上のセグメントを適用するのが一般的です。
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画面3 弥生会計06の残高試算表(部門別対比)(クリック >> 図版拡大) |
ただし、会計ソフトで安易に部門管理をしようとすると運用上苦労をすることが多いので、ポイント1の補助科目設定ではどうしてもファクターが足りないといった場合に使うようにするといいと思います。
部門別管理を初めて行う場合、まず損益科目のみを部門別で把握できるようにするのがよいでしょう。資産・負債・資本の部門別管理は、相当の手間と知識が必要となります。
ところが部門別管理をする科目を選べるソフトは少ないので、実際には資産・負債などの科目はすべて「共通部門」または「その他部門」といった統一部門で処理をする、というルールで運用することになります。
[ポイント4]データ分析を意識した仕訳データ入力の条件
売上高と利益との関係性を分析する際には、必ず両者のタイミングを一致させておく必要があります。会計データの入力時に気を付けなければならないのは、経常を発生基準(※)で統一する、ということです。
- ※ 発生基準:現金の出入りに関係なく、該当する事実が発生をもって取引を認識し処理する方法です。
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画面4 弥生会計06の残高試算表(年間推移)(クリック >> 図版拡大) |
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画面5 弥生会計06のエクスポート機能。[ファイル]−[エクスポート]よりテキストデータのエクスポートができる。Excelで加工をする場合、区切り文字を「タブ形式」に設定すると使いやすい |
ただし、発生主義で取引を認識しようとすると、どの取引も「発生⇒清算」というように、仕訳を2段階で処理する必要が生じるので手間が掛かります。
費用対効果を考えると無駄な部分もあるので、別法としては売上(受注)と相関性の高い重要科目のみを発生主義で処理し、それ以外の科目はすべて現金主義で処理してしまうという手段を取ってもいいと思います。
そのうえで、テキストデータとしてExcelなどで使える形式にした後に、決済のサイトに従って、セルの削除または空白セルの挿入により調整しても結果は同じということになります。
税理士(関東信越税理士会所属)
神奈川大学経済学部卒。大手OA機器商社・会計事務所勤務を経て、現在 浦和税理士法人 代表社員(埼玉県さいたま市)。本業の決算、税務申告・相談を行う傍ら、会計データの統計解析法を研究する。帰納的アプローチにより企業の経営課題を分析し、成果をクライアントである中小企業にフィードバックしている。「多くの中小企業がデータもツールもそろっているのに、それを分析して経営に生かす方法を知らないのは残念。中小企業はもっと生産効率を高めていける」と考えている。「お役立ち会計事務所全国100選 2004年度版(三和書籍、実務経営サービス編)」に選出される。
ブログ:http://www.maznami.biz/
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