季節変動を取り除いて、月次の業績推移を分析するには?
2006/11/7
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今月新しい取り組みを始めて、その効果がどうだったのかを調べるときには、前年対比と前月対比どちらが有効でしょうか?
答えは前月と比べた場合です。前年との対比では、その「新しい取り組み」以外の要素による変化が相当含まれていると考えられるからです。
しかし、前月対比にも季節的変動要因が含まれています。多くの業種において3月・12月は繁忙期で、2月・8月は閑散期です。2月と3月を単純に比べて、「3月の業績が良かった」とは、単純に喜べないということは感覚的に理解できるでしょう。
先月と今月を比較可能にするには、季節調整値(季節調整済み系列)という系列に直す作業が必要となります。今回はこの方法について検討したいと思います。
時系列データを取り出す
[ステップ1] 3期分(以上)の月次推移データを用意する
まずは、会計ソフトごとに月次推移データの取り出し方を見てみましょう。
(1)弥生会計
- [集計表]−[残高推移表]−[年間推移]を選択
- [ファイル]−[エクスポート]を選択
- 損益計算書と製造原価報告書をチェックして、保存場所を任意に指定して、ファイル名を指定(例 suii.txt)して[OK]ボタンを押す
(2)勘定奉行
- [分析処理]−[推移表]−[科目別推移表]を開く
- 条件設定画面から[印刷・転送]ボタンを押す
- 月範囲を指定(2期分指定できます)して、[転送]ボタンを押します。
- 転送条件は「他ソフト編集」「タブ区切り」を指定して[実行]を押す(保存場所、ファイル名は弥生会計と同じ)
(3)PCA会計
- [分析処理]−[月次推移表]を選択
- [集計期間]を選択
- [印刷]ボタンを押す
- 「汎用データ」選び、損益計算書と製造原価報告書をチェックして、保存場所を任意に指定して、ファイル名を指定(例 suii.txt)し、「0円の科目も出力する」をチェックして[OK]ボタンを押す
勘定奉行は自動的に2期分出力されますが、それ以外の会計ソフトの出力データは、単年度のものですので、上記作業を繰り返して、データを3期分以上用意してください。
今回は、売上データを例に季節調整値を求めてみましょう。会計データから、以下のような3期分の売上データが得られたとします。
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サンプルデータ1 3期分の売上データ |
12カ月中心化移動平均を求める
[ステップ2] データの移動平均を取る
サンプルデータをExcelに読み込み、12カ月移動平均を求めていきます。1年周期の季節変動は、1年分のデータを平均すると除去できると考えられるからです。セルC7に「=AVERAGE(B2:B13)」と入力して、そのセルのフィルハンドルをC31までドラッグします。
画面1 移動平均を求める |
季節調整法では、算出した移動平均の値を平均を取った期間の中心月の値として当てはめるのですが、ここでは12カ月分と偶数なので当てはめる中心月がありません。セルC7の値は強いていえばX1年9.5月となってしまいます。そこで少し面倒ですが、さらに一手間加えて9.5月と10.5月の平均を求めることにより、10月の移動平均に相当する値を算出します。これを「中心化移動平均」といいます。セルD8に「=AVERAGE(C7:C8)」と入力して、フィルハンドルをD31までドラッグします。
画面2 D列に「12カ月中心化移動平均」を求める |
季節指数を求める
次に季節指数を求めていきます。これは、原系列のデータを季節調整済の値に調整するための指数です。統計の世界では祝日やうるう年を考慮した計算法が採用されていますが、ここでは単純に月ごとの差異を調整する指数を算出していきます。
[ステップ3] 原系列データを12カ月中心化移動平均で割る
セルE8に「=+B8/D8」と入力して、フィルハンドルをE31までドラッグします。
画面3 E列に「売上÷12カ月中心化移動平均」を求める |
[ステップ4] 「売上÷中心化移動平均」の系列から同月の値を集計して平均を取る
[ステップ3]のデータを並べ替えて、同じ月の平均を取ります。セルE8からE31までのデータを画面4のように月ごとの平均が取れるように並べ替えて、セルL8からL19までに平均値を求めます。
画面4 月ごとの平均を算出する(クリック >> 図版拡大) |
[ステップ5] 季節指数を計算する
さらにこれの合計が12となるように調整すると、季節指数となります。セルM8に「=12*L8/$L$20」と入力してフィルハンドルをM31までドラッグします。
画面5 各月の季節指数が導き出せた(クリック >> 図版拡大) |
季節調整値で分析を行う
[ステップ6] 季節調整値を求める
原系列の値を対応する季節指数で割り返したものが、「季節調整値」と呼ばれるものとなります。セルO2に「=+B2/M14」と入力してフィルハンドルをO7までドラッグするとX1年4月からX1年9月までの季節調整値が求められます。同じ要領で、ほかの月も対応をする季節指数で割り返して、季節調整値を求めます。
画面6 季節調整値を算出する(クリック >> 図版拡大) |
原系列と季節調整値をグラフにしてみると、画面7のようになります。
画面7 売上と季節調整値を折れ線グラフで比較する(クリック >> グラフ拡大) |
黄色い線で囲んだ部分はX1年11月です。原系列(売上=青線)では10月よりも落ち込んでいますが、季節調整値(ピンク線)は10月よりも高くなっています。これは、11月はもともとほかの月に比べて売上が落ち込む傾向がある月であるのに、X1年11月は例年に比べて落ち込みの度合いが小さかった──相対的に頑張ったということを表しています。
このように季節調整値を求めることで、暇な2月と忙しい3月を比べることが可能になるのです。
税理士(関東信越税理士会所属)
神奈川大学経済学部卒。大手OA機器商社・会計事務所勤務を経て、現在 浦和税理士法人 代表社員(埼玉県さいたま市)。本業の決算、税務申告・相談を行う傍ら、会計データの統計解析法を研究する。帰納的アプローチにより企業の経営課題を分析し、成果をクライアントである中小企業にフィードバックしている。「多くの中小企業がデータもツールもそろっているのに、それを分析して経営に生かす方法を知らないのは残念。中小企業はもっと生産効率を高めていける」と考えている。「お役立ち会計事務所全国100選 2004年度版(三和書籍、実務経営サービス編)」に選出される。
ブログ:http://www.maznami.biz/
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