連載
情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(83)


“ロジックだけ”だから、プロジェクトが失敗する

情報マネジメント編集部

2012/3/27


プロジェクトとは、目先の問題だけ考えた小手先のロジックだけで成功するものではない。困難に負けないだけのミッションとリアリティが不可欠だ。

■ミッションからはじめよう!
●著=並木裕太
●発行=ディスカヴァー・トゥエンティワン
●2012年3月
●ISBN-10:4799311379
●ISBN-13:978-4799311370
●1500円+税

 「ALL Japan Airwaysがマイレージのアライアンスへの加盟を検討したときのことだ」「そのプロジェクトで、高額のフィーをとる世界有数の外資コンサル会社を使った」。しかしコンサルの調査や戦略立案が終わり、実際に交渉を開始してみると、「アライアンスからは、最初から、想定とはまったく異なる条件提示がなされた」。「結局、作戦は自社内ですべて考え直すことになった。交渉も自分たちで行った」。「いったい、あの法外なフィーのコンサルは何だったのか!?」「論理展開と論理的な整理は一流だが、役には立たなかった」――。

 本書「ミッションからはじめよう!」は、ビジネスにおいて「本当に求める結果を得るための方法」について解説した作品である。ビジネスとは「問題解決の連続」だが、「目先のテクニックや過去の事例の応用だけですむようなものではなく、より本質的な問題解決」が求められる。だが現実には、冒頭の仮想事例のように、「問題をきれいに整理し、分析し、解決策をかっこよくプレゼン」できても、「そこでおしまい」になってしまうコンサルタントもいれば、結果が得られず「結局、使えない」ロジカルシンキング本も存在する。

 本書はそうした状況を踏まえて、「実際のビジネスの場面で大事なことは、分析することでも整理することでもなく、『実行』することだ」と主張。「問題を分析し、素晴らしい戦略を考えることは、手段と訓練と一定の水準以上の思考力さえあれば、誰にでも」できるが、その戦略を採用すると決断するためには「責任」が、実行するためには『強い意志と、周りの人を巻き込む力、徹底する力が必要』として、結果を得るまでの全プロセスを詳細に解説するのである。

 では結果を得るためには具体的にどうすれば良いのか? その方策として本書が示すのが「ミッション→ロジック→リアライズ」という3つのステップだ。中でも最も重要なのは「ミッション」だという。戦略の実行には数々の困難が伴う。これに対応するためには、『強い意志と、周りの人を巻き込む力、徹底する力』など、何があっても「変わらぬモチベーション」を持ち続けるだけの志が不可欠となるためだ。

 だが多くの場合、「ほとんどの問題解決が、このミッションなし」で行われている。「その結果、目の前の問題を解決するのに」「木を見て森を見ずの状態」になってしまう。「例えば、短期的な売り上げをあげるために、自社の強みや理念を忘れて、関連性のない事業に手を出してしまう」。個人レベルの問題でも、「何がやりたかったのか、しっかり自分で認識できていないと、ちょっと嫌なことがあっただけで落ち込み、転職を考えてしまったり、頑張りすぎて燃え尽きて」しまう。

 著者はこうした状況をかんがみ、「ただの願望、根拠のない夢、額縁の中に入った『理念』」などとは違うミッションの作り方を詳細に解説。その上で、現状を把握・分析し実行プランを練る「ロジック」と、メンバーにやる気になってもらう「巻き込む力」、プロジェクトを活性化させ維持継続させる「つくる力」など、「リアライズ」の方法について実践的に説くのである。ポイントは「三つの要素のどれが欠けてもダメ」なことだが、特にロジックの部分については、巷にもコンサルティングサービスやノウハウ本が溢れている中で、本書ではそこをゴールとせず、「あくまでもミッションを実行するための道具」と位置付けている点だろう。

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 さて、いかがだろう。ITシステムを導入する際、コンサルティングを受ける機会は多いものだが、高額のフィーを払ったわりに、「いったい、あのコンサルは何だったのか!?」となってしまった話は常に聞かれる。だが、それは社外のコンサルタントサービスを利用するときだけにとどまらないのではないだろうか。例えば、同じ社内、グループ内の情報システム部門がユーザー部門の相談に乗る際にも、「何だったのか!?」といった展開になりがちなのではないだろうか。

 ではいったい何がいけないのだろう? 本書はその原因として、多くのプロジェクトには「ミッション」と「リアライズ」がないと指摘しているわけだが、著者はこれを「新しい価値を世の中に届けようというインスピレーション。そして、実際の事業をつくっていくのに必要なリアリティ」とも表現している。

 この辺り、自社のシステム開発プロジェクトを振り返りながら読んでみると、「せっかく作ったシステムを使ってもらえなかった」「投資対効果を回収できなかった」など、失敗プロジェクトのありようはさまざまでも、実は失敗の根は1つであることに気付く向きも多いのではないだろうか。そしてプロジェクト失敗の原因とは、言うまでもなく、情報システム部門だけではなく、実際に使うシーンをリアルに想定していなかったユーザー部門にも大きな原因があると、気付くことができるのではないだろうか。本書を読んで、プロジェクトを成功させるポイントについて、もう一度考え直してみてはどうだろう。

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