連載
情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(84)


ビッグデータ活用は“先進的な取り組み”ではない

情報マネジメント編集部

2012/4/3


成功、失敗を問わず、ビッグデータの活用事例は着実に増え続けている。そのさまざまなメリットを考えると、いち早くビッグデータ活用に取り組んだ企業の先駆者利益の大きさは甚大と言えそうだ。

■ビッグデータ革命
●著=野村総合研究所
●発行=アスキー・メディアワークス
●2012年3月
●ISBN-10:4048862197
●ISBN-13:978-4048862196
●1400円+税

 「例えば、スティーブ・ジョブズ氏のように、消費者の心をつかむ革新的な商品を次々と生み出せるプレーヤーが自社に所属していれば、企業経営者としては安心できるだろう。しかし、そのような天才がいないのであれば、ビッグデータの活用を考えた方が良い。ビッグデータの活用は、ごく限られた天才のみに依存することなく、堅実にイノベーションを実現するための方法となるはずだ」――

 本書「ビッグデータ革命」は、「ビッグデータを活用して、社会・経済の問題解決や、業務の付加価値を向上させる事業、もしくはそれを支援する事業」を「ビッグデータビジネス」と名付け、社会や企業に利益をもたらす、さまざまなデータ活用の在り方を探った作品である。ビッグデータというとソーシャルメディア上のクチコミ分析など、マーケティングに生かすイメージが強いが、活用のバリエーションは多彩であり、本書に収められた事例を眺めているだけでも、社会、企業の運営がどう変わっていくのか、あらゆる可能性を実感できるのではないだろうか。

 例えば、NTTドコモによる「モバイル空間統計」の取り組みでは、「ある地域の人口動態データを把握しようとする場合、カウンターを持った計測員を要所に配し、人力でデータを取らなければならなかった」問題を、ビッグデータ活用によって解決したという。具体的には、 携帯電話ネットワークによって、「各基地局のエリア内にどの携帯電話端末が存在しているのかを、一定の時間・間隔で把握している」ことに着目。「属性情報の中の個人情報は完全に消去」した上で、エリアごとに携帯電話台数を顧客の属性別に集計し、「時間の推移とともに移り変わる人口動態を、広範囲、高頻度、しかも低コストで推計」可能としたのだという。

 「スマートイリゲーション」という農業向けのビッグデータ活用も興味深い。「米国、オーストラリアなどの大農場では、イリゲーション(水まき)は自動化されていることが多いが、単に機械的に、時間を決めて水まきをしていると非効率なケースも出てくる」。そこで「天気予報や各種のセンサーからのデータに基づいて」、水まきを最適化しているそうだ。

 「通信機器ベンダのエリクソンが主に新興国向けに提供しているダイナミック・ディスカウント・ソリューション(DDS)」という、「一定の条件で需要を抑制する仕組み」などは、コスト削減と顧客満足度向上を両立させるための大きな可能性が感じられる事例だ。

 一部の新興国では携帯電話網が浸透しているが、通信各社が新興国の通信インフラに投資できるコストには限りがある。よって、「一時に利用できる通信容量は限られたものにならざるを得ない」のだが、DDSを使えばエリア別の通信設備利用データを収集・分析することで、「データに応じて需要を抑制・促進するための価格設定を即時に実施する」ことができる。これにより、「DDSを導入した通信事業者は、過大なインフラ投資をしなくても、利用者の満足度を向上」させられるのだという。

 このほか、「建築物や自動車などにセンサーを取り付け」、センターから得られたデータをネットワーク経由でモニタリングして確実・適切な保守サービスに生かすなど、活用法は実に多彩だ。もちろんビッグデータ活用には「統計知識のある人材」の不足や、消費者の属性情報を使う際の「プライバシー問題」という課題もある。特に後者については、本書でも「得られたデータはこのように使う」という「消費者との合意形成が大原則」と指摘するように、個人情報の扱いにはより一層の配慮が必要だが、数々のハードルはあっても、すでに多くの企業がビッグデータを着実に生かしつつあることは注目に値するのではないだろうか。

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 また一方で、大量データの分析“さえ”すれば「新たな発見とビジネスモデルが創造できる」と、あらぬ期待を抱いて一喜一憂するという、かつての“CRMの失敗”を想起させるケースも表れ始めているという。

 これは言うまでもなく、施策の「仮説検証プロセスがあいまいなままデータ収集と分析をくり返しているため」だが、最新のテクノロジを使って大量データを収集・分析可能になっても、データ活用の基本はまったく変わらないという点も注意すべき1つのポイントだろう。

 ただ、 活用の成功、失敗、いずれにせよ、取り組み事例が着実に増え続けていることは間違いない。“先進的な話”と捉えるのではなく、貴社でもそろそろ現実的な観点でビッグデータ活用のロードマップを描いてみてはいかかだろう。

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