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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(2)

ホンダの真の苦境は不況にあらず?
大企業を襲う「亡国の租税制度」

高田直芳
公認会計士
2010/5/12

F1からの撤退や鈴鹿8時間耐久レースへの参加見送りなど、矢継ぎ早のリストラ策に取り組んでいるホンダ。しかし、すべてが景気のせいかというと、ことはそう単純ではないようだ(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年2月27日)

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 2009年3月期に対前年比で大幅な減収減益に陥る見込みのホンダ(本田技研工業)は、2008年12月にF1からの撤退を表明した。

 当時のプレス発表を見ると、「将来への投資も含め、さらに経営資源の効率的な再配分が必要との認識から、F1活動からの撤退を決定いたしました」とある。その後も「鈴鹿8時間耐久レース」への参加見送り(マシン貸与を除く)を発表するなど、矢継ぎ早のリストラ策に取り組んでいる。

 前回のコラムで紹介したニッサン(日産自動車)が、神奈川にある生産ラインの海外移転や2万人規模の人員削減といった“外科的なリストラ策”を採用しているのに対し、ホンダの場合は主に研究開発費の削減など“内科的なリストラ策”が中心になっている。

 大赤字予想のトヨタ(トヨタ自動車)やニッサンに比べれば、不況への耐性が強いと言われるホンダだが、いずれにせよ「やはり大不況の波を乗り切るのは難しいのか」といった印象を持つ人が多いだろう。

不況を乗り切るための
普遍的な戦略はない?

 しかし、何でもかんでも景気のせいにするほど、ことはそう単純ではないようである。筆者の顧問先企業(自動車部品メーカー)では、「不況だから製品が売れない」という愚痴を禁句にしている。これもまた経営戦略のひとつだろう。

 最近、「不況を乗り切るための普遍的な経営戦略やコスト削減策は存在するのか」と、各方面からよく問われる。不況に効く万能薬や特効薬は、いまだ開発されていないようである。そんな薬があったら、誰も苦労はしない。

 筆者の顧問先企業を訪ねると、各社各様、各生産ラインごとに異なる難題が山積していて、あたかも“オムニバス映画”を観ているような気分になってしまう。それも当然だ。A社で通用する改善策がB社でも通用するような“没個性の企業”では、そもそもこの不況期を乗り切れるわけがないからである。

 本コラムの目的は、抽象的な「あるべき論」を展開することではない。個々の具体的なケースを採り上げながら、読者各位にそこから多少なりともヒントを掴んでいただければと考えている。今回採り上げるホンダのケースは、「普遍的な価値観だけで企業の現状を正確に判断することはできない」という、よい参考になるはずだ。

 それでは、前回のコラム「日産自動車の“派遣切り”が事業効率向上につながらない理由」でも紹介した“タカダバンド”という概念を用いて、ホンダが苦境に陥っている最大の原因を、具体的に分析してみることにしよう。

〔図表1〕ホンダのタカダバンドと売上高

 詳しくは前回のコラムを参照願いたいが、〔図表1〕は、「最大操業度売上高」(理論上の利潤を最大にする売上高)、「予算操業度売上高」(量産効果を最も発揮できる売上高)、「損益分岐点売上高」(利益と損失の分かれ目となる売上高)、実際の売上高といった4つの売上高の推移を比べて、企業の収益力を見るものだ。

 タカダバンドとは、この最大操業度売上高と予算操業度売上高に囲まれたグレーの部分のことを指す。「実際売上高がこのゾーンに近づけば近づくほど企業の収益体質は向上する」ことになる。

 これを見ると、「さすがF1を制した王者」と言うべきか、実際売上高は平坦なコースを推移しているが、タカダバンドは07/12(07年12月期)からものすごいカーブを描いている。

相関係数で問題はないものの
不思議な推移を続けるホンダ

〔図表2〕ホンダの操業度率

 また、上述の「予算操業度売上高」を基に事業の効率性を表す各種の“操業度率”を計算し、同様にグラフ化したのが、この〔図表2〕である。

 07/12(07年12月期)までは3つの操業度率とも安定して推移しているが、08/3(08年3月期)には、大きな“蛇行運動”を示していることがわかるだろう。

 これらのグラフの作成に用いた企業データは、筆者が制作したシステム「原価計算工房」を使って自動収集しているが、一見すると不自然なほど動きが大きいため、「システムに不具合でもあったのか」と心配になって、上記の期間における相関係数を調べてみた〔図表3〕。

〔図表3〕操業度率算出時の相関関係数

 この相関係数とは、「2つの因子(ここでは売上高とコスト)の間にどれだけの繋がりがあるか」を数値で表わしたもので、「100%に近いほど正の相関関係が強い」ということになる。08年3月期から同年9月期まで、相関係数は80%台に低下しているとはいえ、これだけ高い数値で推移しているのであれば、「ホンダのデータに齟齬はない」と言えるだろう。

 ちなみに、〔図表3〕の相関係数を、米マイクロソフト社製の表計算ソフト“Excel”を利用して計算するのであれば、通常は“CORREL関数”のみを使う。ただし、筆者の場合は、CORREL関数に“LN関数”を加味している(注1)。そのほうが、より強い相関関係を知ることができるからだ。

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