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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(2)

ホンダの真の苦境は不況にあらず?
大企業を襲う「亡国の租税制度」

高田直芳
公認会計士
2010/5/12

F1からの撤退や鈴鹿8時間耐久レースへの参加見送りなど、矢継ぎ早のリストラ策に取り組んでいるホンダ。しかし、すべてが景気のせいかというと、ことはそう単純ではないようだ(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年2月27日)

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タカダバンドや操業度率の
蛇行の背景には何があるのか?

 それでは、〔図表1〕〔図表2〕を基に、ホンダの経営分析上の疑問点として、次のような3つのポイントを挙げて説明しよう。

 1つめは、「〔図表1〕で描かれたタカダバンドが、どうしてこれほど蛇行しているのか」ということだ。直近では適正と思われる水準に戻っているとは言え、通常、事業に行き詰まって苦しんでいる企業ならば、実際売上高がタカダバンドを大きく下回る状況が続くことからも、これは妙である。

 2つめは、「企業にとってそのタカダバンドが蛇行する意味とは何か」だ。

 そして3つめは、もし事業に大きな問題を抱えているのであれば、07年12月期から08年3月期にかけて〔図表2〕で「実際操業度が急上昇し、損益分岐操業度率が急低下するといった通常とは相反する動きを示すのは何故か」である。これについても、「業績が悪化する場合、損益分岐操業度率は上昇する」のが普通だからだ。

 少なくとも〔図表1〕〔図表2〕から類推する限り、現在のホンダが単なる事業の悪化で冒頭のような苦境に陥っているとは思えない。果たしてその原因は、世間で考えられているように、“100年に一度の不況”到来で新車販売が低迷しているせいだけなのだろうか。

 実は、調べて行くと事実は意外なところにあった。まずは、第1と第3の疑問点を同時に明らかにしてみよう。

 疑問を解き明かすポイントは、同社が08年4月に発表したプレス発表にある。08年3月期決算で東京国税局から、移転価格税制に基づき多額の申告漏れを指摘されたのだ。中国の関連会社との利益配分をめぐって、国内での申告所得が少なかったというものである。

 当時、国税局から指摘された総額は1千数百億円にも上るらしい。ホンダはその関連負債として、08年3月期に約800億円を米国会計基準に基づく“Unrecognized Tax Benefit”として引き当てている。

 その訳語として「未認識税務ベネフィット」が当てられているが、語感としてしっくりこない。「ニッポンの会計専門用語風」に訳すならば、「留保性の納税引当金」といったところだろう。

総コストを反時計回りに動かす
税金コストのインパクト

 では、このことが、ホンダにどのような影響を与えたのか? 移転価格税制をこのコラムで説明するのは厄介なので(注2)、ここでは法人税等が業績に及ぼす影響を説明しよう。

 法人税や住民税は、言わば“税”と名の付くコスト。税効果会計は、法人税等をコスト(税金費用)とみなすところからスタートする会計基準だ。

 ただし、税金費用が材料費や人件費といったコストと異なるのは、「総コストに占める税金費用の割合が増えると、総コストが損益分岐点を中心として反時計回りに動く」ことにある。

 本コラムでそれを図解しようとすると、難解な管理会計論に突入してしまうので、詳細は拙著『管理会計入門』(日本実業出版社)163ページ〔図表5-23〕で確かめていただきたい。それによって、変動費率は「引き上げ」られ、固定費は「押し下げ」られるという現象が起きる。

 それがさらに強烈になると、損益分岐点は押し下げられ、見かけ上はあたかも「損益分岐点が改善した」かのように見えるのだ。〔図表1〕でタカダバンドが蛇行し、〔図表2〕で損益分岐操業度率が低下した理由がここにある。以上が、第1と第3の答えである。

 ちなみに、本来、業績がじりじりと悪化していく場合は、損益分岐操業度率もまた、じりじりと上昇していくのが常だ。たとえば、第4回で紹介予定の電機メーカーのケースなどにおいては、きれいなカーブを描いて損益分岐操業度率がじりじりと上昇していく様子を観察できる。

 では次に、第2の疑問点、すなわち「企業にとってタカダバンドが蛇行する意味とは何か」について考えよう。

 通常のケースでは、実際売上高の上にタカダバンドが存在し、企業はそこを目指して収益を上昇させようとする。〔図表1〕で言えば、07/12(07年12月期)までがこれに該当する。この時期まで、ホンダは量産効果を働かせながら、利潤最大化に近づいていた。それを別の面から描いたのが〔図表4〕である。

〔図表4〕ホンダの売上高と平均コストの関係

 〔図表4〕は、凹状の“平均コスト曲線”を描いたものだ。これに限界費用曲線を描き加えると経済学の世界へ突入してしまうが、本コラムで経済学の講義をするつもりはないので、平均コスト曲線の描写だけで我慢していただきたい。

 実際、世の多くの企業の平均コストは点A付近にある。そこから理想的な収益水準であるタカダバンドに覆われた点Bを目指すことにより、量産効果や利潤最大化が期待されるわけだ。

 ところがホンダの場合は、移転価格の問題によって巨額の税金費用が発生し、点Cのところまで一気に突き抜けてしまった。この点Cが、〔図表 1〕の08年3月期に相当するのだ。

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