公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(14)
REIT市場から分析する「ROE」指標の脆弱性
高田直芳
公認会計士
2011/5/12
投資家やマスメディアは、企業分析の指標としてROE(自己資本利益率)を絶対的なものとしがちだ。しかし、「借金を重ねる」という行為がROEを高める効果もあり、ROEの高さで企業価値を判断するのは早計だ。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年9月4日)
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『会社四季報』ではROEを「株主資本を使ってどれだけの利益を稼いでいるかをみる」指標とされ、『日経会社情報』では「経営効率を判断する指標」とまで持ち上げられている。なお、『会社四季報』でいう株主資本は自己資本と同義である。
〔図表2〕にあった三業種について、そのROEを計算したのが〔図表3〕である。なお、ROEの“return”は当期純利益を採用するのが本則だが、〔図表 2〕のROAと合わせるために、ROEでも営業利益を採用した。したがって今回の場合、ROEは「自己資本営業利益率」と訳される。
〔図表3〕業種別ROE |
〔図表3〕を比較してみると、中段にある「飲食料品(小売業)」が14.47%と抜きん出ている。『会社四季報』や『日経会社情報』の表現を拝借するならば「飲食料品(小売業)は経営効率が高く、利益を稼いでいる」と評価されることになるだろう。
ROEに関するこのような解釈は、果たして妥当なのだろうか。これが第2の疑問である。
ROEは借金で“水増し”可能? ROAとROE双方の検証が必須
筆者の個人的な見解は「ROAに対する評価は、観客席からの視点に限定すべし。また、ROEは、主役としては輝かない。むしろ、黒子役に徹したほうが力を発揮する」と考える。その根拠を以下に述べよう。
〔図表4〕ROEの展開式 |
〔図表4〕は、20世紀初頭に米デュポン社が考案した指標であり、「デュポン−システム」と呼ばれる。
ROEを高めるためには〔図表4〕の3行目の式にあるように、(1)売上高営業利益率を高める、(2)総資産回転率を高める、(3)財務レバレッジを高める、の3通りがあることを示している。もっと要約するならば4行目の式にあるように、(1)ROAを高める、(2)財務レバレッジを高める、の2通りだ。
その中でもクセ者は、〔図表4〕の3行目または4行目の右端にある「財務レバレッジ」である。借入金や社債などの負債を増加させると、総資産が増加するため、財務レバレッジは高まり、ひいてはROEを高める効果がある。つまり、借金を重ねる、という行為そのものが、ROEを高める効果があるのだ。
〔図表2〕で示したとおり3業種のROAはともに似通っていたが、〔図表3〕では飲食料品(小売業)のROEが頭1つ抜け出している。そのことから、飲食料品(小売業)は、経営効率が高いのではなく、過剰負債に苦しんでいるのではないか、という推定が成り立つ。
これは、ROAとROEの双方を検証するからこそわかることであり、ROEだけに注目して「経営効率の良否」を判断するのは、判断する側にかなりのリスクを伴うといえるだろう。
REIT市場における最適資本構成とは
では、ROEを黒子役に回した場合、どういう役立ちがあるのか。その1つの方法が、第6回コラム「東芝編」や第10回コラム「メガバンク編」でその仕組みを説明した「最適資本構成タカダ理論」である。今回は上場株式ではなく、REIT(不動産投資信託)市場を題材にしてみよう。
REITとは“Real Estate Investment Trust”の略称であり、現在は東京証券取引所などに41銘柄が上場されている。株式投資ではリスクが大きすぎる、個別の不動産を買うのもリスクが大きすぎる、ということで、REITへの投資から始める人が多いようだ。
本家のアメリカとは仕組みが多少異なるため、J-REIT(日本版不動産投資信託)とも呼ばれる。
〔図表5〕REIT市場の主要銘柄 |
〔図表5〕では、REIT市場における大手4法人の解析結果を示した。〔図表5〕にあるシャープのβ値(1行目)とROE(2行目)を黒子役として配置し、長期国債の利回りなどを加味して算出したのが、「最適資本構成タカダ理論」に基づく最適デット比率(3行目)である。
最適デット比率とは、負債純資産合計に占める負債(debt)の、最適な構成割合を求めたものだ。最適デット比率を求める式は、第6回コラムの〔式1〕を参照していただきたい。
最適デット比率の下にある実際デット比率(4行目)は、負債純資産合計に占める負債の実績値である。
日本ビルファンド(三井不動産・住生系)を見ると、最適デット比率として93.5%まで高めるのが望ましいにもかかわらず、実際デット比率は48.0%にとどまっており、その差が〔図表5〕の最下段にある負債余力45.4ポイントとなって現われている。
第6回コラムや第10回コラムのときのように、円グラフで示したほうがわかりやすいかもしれないが、今回は割愛させていただく。
日本ビルファンド(三井不動産・住生系)と、その右にあるジャパンリアルエステイト(三菱地所系)の2銘柄は40ポイントを超えていて、負債余力が高い。それに対して〔図表 5〕の右2社(日本リテールファンドと野村不動産オフィス)の負債余力は40ポイントを割っていることが表から読み取れるだろう。