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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(18)

債務超過283兆円! 憂うべき赤字国債の深刻度

高田直芳
公認会計士
2011/9/1

国が持っている「打ち出の小槌」は、増税、国債増発、政府紙幣発行の3本立てだ。そのうち今回は、国債について取り上げ、経営分析のノウハウを適用して、その最適残高を模索していきたい。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年10月30日)

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“悪”の不活動負債を
一掃する財務戦略とは

 旭化成について、総資本に占める流動負債と活動負債の推移(移動平均)を求めたのが〔図表3〕である。

 〔図表3〕では「総資本に占める流動負債の割合」が35%から40%の間で安定推移している。ところが「総資本に占める活動負債の割合」は上昇傾向を示している。

 旭化成の負債構造を見てみると、08/6(2008年6月期)から09/6(2009年6月期)にかけて、買入債務(支払手形+買掛金)は32%減、短期の有利子負債は2%増、長期の有利子負債は94%増となっていた。長短の区別なく負債を活性化させる行動は、活動負債を上昇させる効果がある。流動負債と固定負債を眺めていただけでは、旭化成の資金調達戦略の変化に気づかないといえるだろう。

〔図表3〕活動負債と流動負債の推移

 

 旭化成だけでなく他の上場企業でも「活動負債の割合」を調べたところ、意外なことに昨年後半以降、多くの企業で上昇傾向が認められた。本コラムのテーマである「サバイバル戦略」のヒントが、負債を中心とした資本調達活動で展開されているのかもしれない。今後の分析テーマとしては面白いといえるだろう。

 ではなぜ、活動負債の増加は望ましいといえるのだろうか。これは、不活動負債は悪いことだ、と考えたほうがわかりやすいかもしれない。

 在庫がうまく回転しているのなら、買入債務の残高が安定推移しても構わないのではないか、という考えかたがある。しかし、これは誤りだ。

 企業活動には季節変動があるのだから、買入債務は地球が太陽の周りを1回転する間に、大きく上下動するのが正常な姿である。

 もし、1年間にわたって残高が安定推移するとしたら、それはベッタリと根を張った「ころがし単名」と同じものが隠れているといえる。こうした不活動負債は、在庫でいえばデッドストックと同じである。

 両者(ころがし単名とデッドストック)を解消するための財務戦略は共通だ。銀行から「長期運転資金」の名目で借り入れを行なって、根を張った不活動負債やデッドストックを一掃し、当該借入金を、毎期稼ぐ収益をもって徐々に返済していくのである。銀行が融資に応じてくれるかどうかはともかく、これは「財務のイロハ」として昔から語られているものだ。

多額の不活動負債に隠された
赤字国債より深刻な借金

 負債に関する知識を蓄えた上で、国の負債についても活動負債と不活動負債の割合を見てみよう。これについては財務省のサイト「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」を利用する。08年12月時点をまとめたものが、〔図表4〕である。構成割合も併記した。

〔図表4〕赤字国債等の残高と構成割合



 〔図表4〕を基礎にして「総資本に占める活動負債の割合」を調べたところ、安倍政権(2006年9月期)以降は5%前後の低位で安定推移している。(〔図表3〕と同じ図表は省略させていただく)

 国には不活動負債が多すぎて、資金調達活動が非常に硬直化しているのは確かなようだ。その原因はどこにあるのだろうか、ということで調べたのが〔図表5〕である。

〔図表5〕赤字国債等の分布図



  横軸の「構成割合」は〔図表4〕である。縦軸の「活性度」は、2008年における残高の標準偏差を、百分率で表わしたものだ。活性度が高いほど、活動負債としての性格が現われているといえる。

 〔図表5〕で左下の原点に密集している長短借入金と政府保証債務は、比率が小さいので無視する。左上にある短期国債は構成割合(3.0%)が小さいものの、その活性度は109.2%にも達しており、文字通り活発な動きを示している。

 償還期間が長くなるほど活性度は低下するようであり、短期国債 → 建設国債 → 中期国債→ 長期国債の順に、右下がりの傾向(両矢印で示したもの)を見て取ることができる。

 異質な存在が「政府短期証券」だ。2009年2月からは、国庫短期証券と呼ばれている。短期国債(27兆円)より4倍も多い発行残高(109兆円)を抱えながら、その活性度は32.9%にとどまる。償還期間は2か月〜1年の割引国債であり、主に為替介入の原資として使われることが多い。

 政府短期証券は「短期」と名が付くのであるから、短期国債と同様にもっと活発な動きがあってもよさそうなものだが、政府は2004年春以降、為替介入を行なっていない。今後、鳩山政権が為替介入を再開するかどうかはともかく、このような状態では政府短期証券109兆円のほとんどが「ころがし単名」と化しているといえるだろう。

 国の借金といえば、赤字国債ばかりが議論される。しかし問題は、貸借対照表の負債の部にベッタリと張り付いた政府短期証券109兆円のほうにあるのではないだろうか。

 赤字国債の最適解がどこにあるかはわからない。しかし、為替介入などの政策を発動しないのであれば、政府短期証券を長期運転資金とみなし、ゼロにするまで圧縮するのが最適解であろう、というのが筆者の結論である。

 次回は、某上場企業の売上高4兆円が瞬時にして蒸発する可能性があるという、奇怪な問題を取り上げる。

筆者プロフィール

高田 直芳(たかだ なおよし)
公認会計士、公認会計士試験委員/原価計算&管理会計論担当

1959年生まれ。栃木県在住。都市銀行勤務を経て92年に公認会計士2次試験合格。09年12月より公認会計士試験委員(原価計算&管理会計論担当)。「高田直芳の実践会計講座」シリーズをはじめ、経営分析や管理会計に関する著書多数。ホームページ「会計雑学講座」では原価計算ソフトの無償公開を行う。

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