公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(19)
JTの売上高4兆円が一瞬にして蒸発するIFRSの憂鬱
高田直芳
公認会計士
2011/9/29
百貨店業界の全売上高の35.3%を一気に吹き飛ばし、アルコール飲料業界とタバコ業界の売上を数兆円単位で減少させる憂鬱の種が現れた。それは数年後に迫った、国際会計基準(IFRS)の適用だ。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年11月13日)
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JTの売上高4兆円が煙と消える
IFRSの“恐ろしき基準”
百貨店業界にいずれ訪れるであろう凶事を、対岸の火事と眺めているわけにはいかない業界がある。それは、アルコール飲料業界とタバコ業界である。なぜなら、IFRSの収益計上基準では、売上高に間接税を含めないこととしているからだ。第三者(国や地方公共団体など)のために企業が間接的に回収した税金は、当該企業にとって経済的便益の増加とはみなされない。
酒税については国税庁の「お酒についてのQ&A」」を、そしてタバコ税についてはJT(日本たばこ産業)の「たばこ税の仕組み」を参照していただきたい。
特にタバコの場合、1箱300円(初出当時)で、税負担が189.16円(63.1%)に達する。3分の2あたりまで吸って、ようやく採算が取れるようなものだ。
JTの2009年3月期に係る連結売上高6兆8323億円のうち、国内外のタバコ事業に係る売上高は6兆3187億円であった。このうち約6割はタバコ税であるから、IFRSの収益基準によれば4兆円近くの売上高が、文字通り煙となって消えてしまう。
筆者が危惧するのは、IFRSの導入によって大幅な減収となった損益計算書が公表されたとき、株式市場はそれを正しく理解できるのだろうか、という点である。本コラムの読者であれば大丈夫であろうが、IFRSの導入は圧倒的大多数の投資家にとってかなりのインパクトを与え、誤った判断を招く可能性もあるだろう。
もちろん、情報弱者が多数いることによって株価は乱高下を繰り返し、彼らから広く薄く資金をかすめ取る投資ファンドが存在することによって、株式市場が盛り上がるのもまた事実である。アダム・スミスは『国富論』の中で「1人の金持ちが存在するためには、500人の貧乏人がいなければならない」と述べているではないか。
婦人服が紳士服の3倍も売れる理由
今回はブラックジョークに始まり、悲観的な見方で終わろうとしている。ただし1つだけ、〔図表1〕から救いを見出すことができた。
それは、婦人服・用品の売上(7370億円)が、紳士服・用品(2136億円)の3.45倍もあるという事実である。
ずいぶん昔に、作家・井上ひさし氏の随筆でこんな話があった。氏が大辞典で男に関する表現を調べたところ、愚夫や健児などでざっと230語。それに対し、女性に関する表現は才媛や佳人など700語以上と膨大で、卒倒しそうになったという。
どうやら言語学だけでなく、衣料品の販売でも「3倍の法則」があるようだ。女は男の3倍化けるというのが、筆者の揺るがぬ信念である。女性の「3倍の購買力」によって、百貨店に明るい未来を与えてくれることを祈りたい。
筆者プロフィール
高田 直芳(たかだ なおよし)
公認会計士、公認会計士試験委員/原価計算&管理会計論担当
1959年生まれ。栃木県在住。都市銀行勤務を経て92年に公認会計士2次試験合格。09年12月より公認会計士試験委員(原価計算&管理会計論担当)。「高田直芳の実践会計講座」シリーズをはじめ、経営分析や管理会計に関する著書多数。ホームページ「会計雑学講座」では原価計算ソフトの無償公開を行う。