
公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(25)
株価指標で分かる自動車業界の優勝劣敗
高田直芳
公認会計士
2012/1/26
景気のよい「平時」であれば、PER(株価収益率)などの指標も安定しているが、不況時には株価指標としての役割が崩壊してしまう。今回は、話題の絶えない自動車業界を取り上げながら、PERの復権を図ってみたい。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年2月5日)
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ROE、ROAに要注意!
公表媒体で数字が違う?
ROEと並行的に用いられる株価指標が、〔式 2〕に示すROAである。これもROEとともに、第16回コラムで紹介した指標である。
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ROAは“Return On Assets”の略称で、総資産利益率と訳す。総資産は、貸借対照表の流動資産と固定資産を合計したものだ。東証の規則では、ROE同様、期首と期末の総資産を平均する。
ROEとROAの分母に関して、『日経会社情報』は東証と同じ平均値を採用しているが、『会社四季報』は直近の金額のみを採用している。ROEやROAを比較参照するにあたっては注意が必要だ。
ROAについては、分子にも注意を払う必要がある。東証の規則では、経常利益を当てはめるので、ROAは「総資産経常利益率」と訳す。
ところが、『日経会社情報』と『会社四季報』は、分子に当期純利益を当てはめているので、「総資産当期純利益率」と訳す。三者のROAは、まず間違いなく異なっている点に注意したい。利用者からすれば困ったものだが、法令で統一する問題でもない。
ROEやROAの計算結果はどれも同じだ、と思い込んでいると、切ない気持ちになるので気をつけて欲しい。
転がり落ちる
自動車メーカー大手3社のROE
〔図表 1〕は、筆者が収集したデータに基づき、自動車業界大手3社に係るROEの推移を描いたものだ。このコラムを執筆している時点では、いまだ09年12月期のデータを入手していないのでご容赦願いたい。
ROEの分母は、5四半期平均の自己資本を採用している。
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〔図表 1〕を眺めていると、ギリシャ神話で有名な、山頂を目指して何度も転がり落ち続ける「シーシュポスの岩」を見ているような気分になる。3社とも、09年の後半は、努力のわりには報われぬ、ということで、さぞかし徒労感に襲われたことだろう。
〔図表 1〕では、0%を下回っていても曲線をそのまま描いている。0%以下のROEが何を意味するのかを理解するのは難しい。『日経会社情報』では、ROEがマイナスの場合は「−」表示としている。つまり、0%で足切りを行なっているのだ。
ROEがマイナスの場合、多方面に影響を及ぼすので注意したい。
例えば、多くの企業で業績評価の指標として採用されているものに、EVA(Economic Value Added)がある。これは米スターン・スチュワート社が商標登録している指標であり、基本的な式は〔式 3〕で表わされる。
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〔式 3〕で問題となるのは、加重平均資本コスト(率)である。この中には自己資本に係るROEも含まれているので、もし、ROEがマイナスの場合は、EVAが破綻してしまう。この指標を採用している企業は、どのように対処しているのか、聞いてみたいものである。
やはりやっかいな指標「EBITDA」
第12回コラム(ソフトバンク編)では、EBITDAという怪しげな指標を取り上げた。〔式 4〕にその構成要素を再掲しておく。
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次の〔図表 2〕はそのEBITDAを、自己資本で割り返したものである。ROE-EBITDAとでも呼んでおく。
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〔図表 2〕は、筆者なりに注意深く解析処理をしたつもりであるが、上下動の大きさは、いかんともしがたいものがある。まるで、後肢の鋭いカマドウマの群れを見ているようだ。投資家の立場からすれば、指標として採用するには挫折感が漂う。
余談として、〔図表 2〕を作った後に読んだ、京極夏彦『塗仏の宴』に、カマドウマが登場したのには苦笑いしてしまった。
「タカダ式ROE」が炙り出す
“トヨタ黄色信号”
以上、いくつかの指標を取り上げてきた。投資の目安とするには心許ないものがある。かといって、批判を繰り返すだけでは、卑怯のそしりを免れない。そこで、自ら対案を提出してみよう。第6回コラム(東芝編)でも述べたように「責難は成事にあらず」の精神だ。
次の〔図表 3〕は、筆者オリジナルの方法で解析処理した「ROE-TAKADA」という指標である。
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〔図表 3〕は実は、昨年末に書き上げた書籍(原価計算)のノウハウを活用している。指標としての正確性をいましばらく検証したいので、〔図表 3〕では縦軸の単位を明示していない。
この書籍(原価計算)については、2010年の初夏に出版される予定だ。その第13章第5節に、〔図表 3〕を描くための一般公式を収録し、株価指標への応用方法を記述した。前世紀後半から、経済学に、物理学など自然科学のノウハウが持ち込まれているのと同 様、経営指標についても原価計算という意外な分野からの乱入があってもいいだろう。
〔図表 3〕については、後掲する〔図表 6〕と合わせてコメントする。
ただし、緑色のニッサン(日産自動車)が健闘しているのに対し、青色のトヨタ(トヨタ自動車)の凋落ぶりが著しい点に注目しておいて欲しい。トヨタについては、リコール問題が起きるはるか以前(〔図表 3〕では07年6月期)、すでに業績に黄色信号が点滅していたようだ。〔図表 1〕で示したROEではわからなかった特徴を、〔図表 3〕のROE-TAKADAは炙り出している。
なお、〔図表 3〕や〔図表 6〕は、第16回コラム(JAL編)で紹介した「オプション-キャッシュフロー(タカダ式フリー-キャッシュフロー)」を用いたものではないことを申し添えておく。あくまで、発生主義に基づく原価計算のノウハウを持ち込んだものだ。







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