公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(12)
ソフトバンクがNTTを越えられない理由
高田直芳
公認会計士
2011/3/10
ソフトバンクとNTT間の売上高・総資産は、4倍前後にまで接近している。ソフトバンクはNTTの背中が見え始めているように思われるが、「借金体質」であることを見過ごしてはいけない。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年7月17日)
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先月(2009年6月)末に『会計&ファイナンスのための数学入門』という書籍を出版した。第5回コラム(シャープ・ソニー・東芝)や第7回コラム(ユニクロ=ファーストリテイリング)で紹介した、“企業にパニックが起きているかどうかを炙り出す指標”である「タカダ―デフレーター」に関する具体的な計算式を収録している。
その他に「最適キャッシュ残高方程式」や「デフォルト(債務不履行)方程式」なども本邦初公開とした。
企業に対する経営分析の道具が増えた、と喜びたいところだが、「最適キャッシュ残高方程式」などは、社外の利害関係者(債権者や投資家)向けというよりも、社内の経営管理者向けの指標といえる。なぜなら、日次ベースの現金預金勘定のデータを基礎とするからだ。
個人的には、今回取り上げるソフトバンクの現金預金勘定の元帳を閲覧して同社の最適キャッシュ残高を計算し、同社お気に入りの指標“EBITDA”の妥当性を、より深く検証してみたいところである。
もちろん、最適「キャッシュ」残高方程式は、現金預金勘定に限ったものではない。最適「在庫管理」方程式としても応用がきく構造になっている。
ジャスト・イン・タイムなどの生産方式によって在庫圧縮に取り組めるのは、チカラのある大企業に限られる。中小企業は常に「作りすぎによる過剰在庫」と「在庫切れによる販売機会の喪失」の板挟みに悩まされる。そうした経営環境にある企業にとって、最適キャッシュ残高方程式は一つの解を与えることだろう。
数学と聞くと毛嫌いする人が多い。筆者もそれほど得意ではない。数学は「教室で学ぶもの」ではなく、「実務で使うもの」と割り切るとよいだろう。
ソフトバンクは巨象NTTの背中が見え始めたか
ということで今回は、2兆円を優に超える借金を抱えて、「最適キャッシュ残高」がどのあたりにあるのかが気になるソフトバンクを取り上げる。
NTTやKDDIとの間で繰り広げられている「ケータイ電話戦争」について、数多くのマスメディアで取り上げられているが、結局は利用者の“好み=主観”で語られることが多い。本コラムでは決算書という「客観的数値」に注目して、ソフトバンクの背後にある事実を探ることにしよう。
その前に、NTTと比較することにより、ソフトバンクの「歴史」を振り返ることにする。〔図表1〕は、2004年3月期とその5年後の2009年3月期の、売上高と総資産の倍率を求めたものだ。
〔図表1〕売上高と総資産の推移 |
2004年3月期では両社の間に、売上高(21.4倍)、総資産(13.7倍)ともに圧倒的な大差がついていた。
しかし、5年後の2009年3月期では売上高、総資産とも4倍前後にまで接近している。マラソンで例えると、直線コースの大通りであればソフトバンクにはNTTの背中が見え始めている、といったところだろう。
ソフトバンクの実態は借金体質
もちろん、売上高や総資産といった「規模の大きさ」だけで比較するのは、分析手法として短絡すぎる。特にソフトバンクでは、しばしば指摘される「借金体質」を見過ごしてはならない。
〔図表2〕は、2004年3月期以降、総資産に占める有利子負債の割合を求めたものである。有利子負債とは、銀行借入金、コマーシャルペーパー、社債(転換社債&ワラント債)などのように、債権者へ利息を支払う必要のある負債をいう。
〔図表2〕ソフトバンクの有利子負債比率の推移 |
〔図表2〕には特徴が2点ある。1つは、2005年3月期に有利子負債比率が50%を超えたこと。もう1つは、2007年3月期に有利子負債が2兆円の大台を突破したことだ。