企業価値向上を支援する財務戦略メディア

連載:EBS、HyperionユーザーのIFRSガイド(1)

OracleアプリケーションのIFRS対応を読み解く

村川洋介、海上和幸
IBM ビジネスコンサルティング サービス株式会社
2009/11/9

オラクルの業務アプリケーションである「Oracle E-Business Suite」と「Oracle Hyperion」を対象に、各アプリケーションの特徴とIFRS対応プロジェクトを検討する上での課題を概観する(→記事要約<Page 3 >へ)

前のページ1 2 3

PR

IFRS対応プロジェクトの課題

 現在EBSを使用している企業では、使用しているバージョンのサポート期限がいつまでかを見据えて、今後のシステム更新プロジェクトを計画する必要がある。

 オラクルのアプリケーションサポートは、(1)該当バージョンの出荷開始から5年間のフルサポートを受けられるPremier Support、(2)その後3年間、追加料金を支払うことで同等のサービスが継続されるExtended Support、(3)サービス内容は限定されるが無期限のSustaining Supportの3段階に分けられる(※)。各社で使用している個々のバージョンのサポート状況は、特別キャンペーンの適用もあるため、オラクルのWebサイトなどを参照していただきたい。

(※)オンライン・サポート・ツールやナレッジベースの参照、既存のプログラム修正の入手、テクニカル・サポート・スタッフへの問い合わせが可能

 EBS自体のバージョンアップは、オラクルから提供されているパッチプログラムを適用することで、データベース(DBMS)と同時に最新バージョンまで移行することができる(テクニカルバージョンアップ)。ただし、業務とERP機能のギャップを埋めるために、多数のアドオンプログラムを作成し運用している場合、バージョンアップにともなう影響調査とテストを行う必要があり、相応の期間・コストがかかることが予想される。また、DBMSのバージョンアップにともない、OSなどのインフラも影響を受けてバージョンアップしなければならなくなることもあるため、十分な調査が必要となる。

 今後数年にわたり、コンバージェンスの進行に合わせてシステム改修を計る必要もあり、バージョンアップの実施とIFRS対応改修のロードマップを早期に作成する必要がある。IFRS基準自体の改訂に合わせたEBSの機能アップが、今後も続く可能性があることを考えると、少なくとも11i 10まではバージョンを上げておくことが望ましい。先に議論したSLA機能についても、12.0からバックポートする形で11i10でも使用できるようになっている。

 ロードマップ作成に当たっては、会社全体の今後の経営管理方針、コスト、体制とリソース、プロジェクトリスクのバランスを勘案しながら、以下の点を整理していく必要がある。

  • いつの会計年度からどの会計基準変更を適用するか
  • テクニカルバージョンアップのみを先に実施するか、会計基準変更を同時に行うか
  • R11i 10までで止めるか、R12へ移行するか。R12へ移行する場合時期をいつにするか
  • インフラ(OS、ハードウェア)はいつ更新するか

 以上EBSとHyperionの機能概要と課題を概観してきた。次回からは、個別の業務課題ごとに詳細を検討する。

筆者プロフィール

村川 洋介 (むらかわ ようすけ)
IBM ビジネスコンサルティング サービス株式会社
エンタープライズ・アプリケーション-Oracle
マネージング・コンサルタント

1990年、日本IBM入社。システム設計・開発を担当後、流通業、金融業などの業務アプリケーション開発とパッケージ導入を多数手掛ける。IBMビジネスコンサルティングサービスに異動し、ERP導入プロジェクト、J-SOX対応プロジェクトなどを担当。

 

海上 和幸 (かいじょう かずゆき)
IBM ビジネスコンサルティング サービス株式会社
フィナンシャル・マネジメント
公認会計士

1974年、プライスウォーターハウス会計事務所入所。監査部門にて会計監査、システム監査を担当後、コンサルティング部門にて連結経営管理や決算早期化、その他経理・財務領域を中心とするコンサルティングに従事。PwCコンサルティングとIBMの統合により、現職。

要約

 オラクルの代表的なビジネスアプリケーションである「Oracle E-Business Suite」(以下EBS)および「Oracle Hyperion」を対象に、各アプリケーションの特徴とIFRS対応プロジェクトを検討する上での課題を概観する。

 EBSは、販売・購買・生産・プロジェクト管理などの個別業務プロセスから、財務諸表作成の会計プロセスまでを統合的に管理するERPパッケージである。最新バージョンはR 12.1となる。Hyperionは、連結会計、予算管理、各種分析やシミュレーションとレポーティング機能を持つEPM(Enterprise Performance Management)アプリケーションで、現時点の最新バージョンはSystem 11となる。

 IFRSが連結財務報告に適用された後も、税務上の対応などで日本基準による帳簿が必要になることも想定される。その場合会計システムには、複数帳簿を保持し、それぞれ異なる会計基準に基づいた記帳ができる機能が必要となる。

 EBSでは11iから、異なる会計基準・通貨に基づく複数の帳簿を同時に保持することが可能となっていた。またR12からは、それら複数の帳簿をグループ化して管理できる「Ledger Sets」と呼ばれる機能や、1つの会計事象から複数通貨や異なる会計ルールに従った仕訳を同時に生成し、複数の帳簿に計上できる「Sub Ledger Accounting(SLA)」と呼ばれる機能も実装されている。これらの機能により、日本基準の元帳とIFRS基準の元帳をそれぞれ保持し、同時に更新することも可能となっている。

 これらの会計システム機能により、基本的なIFRS対応の前提条件は満たしていると考えられるが、実際の業務設計を含めた対応を考えた場合、個別業務プロセスの検討がより重要になる。次に個別業務プロセス機能の概要を見ていくことにする。

 Hyperionは、連結会計システムの「Hyperion Financial Management」、予算管理システムの「Hyperion Planning」、バランスドスコアカード分析システムの「Hyperion Performance Scorecard」やデータ収集Hyperion Finacial Data Quality Management」など複数のアプリケーションから構成される。

 IFRS対応の観点からはFinancial Managementが主な対象となり、EBSに限らず各種ERP等の会計システムから収集したデータをマッピングし、連結処理、分析、レポートする機能を持っている。

 現在EBSを使用している企業では、使用しているバージョンのサポート期限がいつまでかを見据えて、今後のシステム更新プロジェクトを計画する必要がある。また業務とERP機能のギャップを埋めるために、多数のアドオンプログラムを作成し運用している場合、バージョンアップにともなう影響調査とテストを行う必要があり、相応の期間・コストがかかることが予想される。事前の十分な調査が必要となる。

前のページ1 2 3

@IT Sepcial

IFRSフォーラム メールマガジン

RSSフィード

イベントカレンダーランキング

@IT イベントカレンダーへ

利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | サイトマップ | お問い合わせ
運営会社 | 採用情報 | IR情報

ITmediaITmedia NewsプロモバITmedia エンタープライズITmedia エグゼクティブTechTargetジャパン
LifeStylePC USERMobileShopping
@IT@IT MONOist@IT自分戦略研究所
Business Media 誠誠 Biz.ID